10-3. 潜入
監視制御室というだけに、いくつもの天井モニターが左右に並んでいて各箇所の監視映像が映し出されていた。
天井モニター下には原子炉・タービン稼働状態を示すグラフィックパネルが設けられていて検知温度、圧力、流速、電流、電圧等稼働状態を示す数字がいくつも連なっていた。
パネル端には各機器の故障状況を示す集合表示灯が設けられていて、そのひとつに警告表示が点灯していた──。
なんの警告だ??
パネルを操作し表示の詳細を追っていくと、それは建屋への不正アクセスがあったことを受けて表示されていたらしい。
パネルの隣にはCCTVカメラの制御端末があって、端末の液晶には幾つものウインドウが上がっていた。そのウインドウ一つ一つには不正アクセスがあった時刻、画像が映し出されている。
……これはっ!?
一人の男性と思える──息を潜み周りを窺っている、もしくは片膝ついて声を殺し作戦室とやりとりしている姿。はたまたなんの偶然か、見覚えのある空間に銃を構え移動している姿が映っていた──。
どういうことだ?? カメラの視界は避けてきたはず!?
例え漏れがあったとしても、このウインドウの数をみれば軽く三十、いや五十は超えている。これほど見逃していたとは思えない!?
……いや、違う!? 画角からして高い位置から見下ろしているものでない。
視線の高さが、……俺自身と同じ??
──まさかっ!?
哨戒していた者たちの視線を躱していたとは思っていたが、奴らはすでに俺自身が潜り込んでいた事実を知って、泳がせていたのか!?
その決め手となったのが屋外での画像──。
……あのセクションにおいてはまずカメラはなかった。
ウインドウひとつひとつを追っていけば、リレー形式で自身の姿、動向が見て取れる。それを見せられるたびに、だんだんと確信になりはじめていく。
奴らはなにを考えている!? 俺自身を泳がせることになんの意味があって、こんなことをしている??
監視制御室を見回すも問いただす相手は見つからない。
さなか監視制御室奥に半開きの扉を見つける。
──逃げたのか!? にしてはあまりにも『あからさま過ぎる』。
思えば、この状況すべてが『そうだ』と言えるのかもしれない。
誰もいない監視制御室にもかかわらず照明がついている──。
俺自身が潜入していた事実をモニターし、それを隠すこともなくグラフィックパネル・端末上にあえて残している──。
……極めつけは半開きの扉か。
この構図は、あたかも『誘っている』ようにしか思えなかった。
……舐められているな。
相手に脅威とさえ受け止められていない事態にはイラつきを覚える。特に、自身が映る画像を見せられてはなおそう感じる。
息を深く吸い込み、そして吐き出す。
冷静になれ──。
冷静な判断が出来なければ、それこそ相手の思う壺だ。むしろ、搔き乱すのが狙いだろう。