8-3. 目利き
「ところで話しは反れますが、いつになれば国会は終えるのでしょう??」
「さてな。……早々にでも終わってほしいものだよ、まったく」
臨時国会の招集を受けてから、かれこれ十五時間が経過している。
──本来であれば、年も改まり今頃団らんの時間を過ごしていたであろう時間帯に、こうも窮屈な思いさせられている。
年の瀬からの明けに至る一年を担ぐ重要な時期になんたることをしてくれたのか、腹立たしくも感じる。それはテロリストたちに対してはもちろん、いまある状況に対しても──。
来る翌々日には我々の業界で最も多忙となる『挨拶回り』がある。
後援の方々に対する『次に繋ぐ』最も重要なイベントであり、その『順序立て』に『粗品の用意』を進めていかなければならない。
この流れで、いつ休めというのだ!?
幸いにも先んじて挨拶先のリサーチ・購入は秘書を通じて既に終えてはいる。
問題は『行程』だ。伺う数も多く多いことから一筆書きが望ましいのであるが──。そう、うまく事が運んでいくことはない。
勢力図からのパワーバランスを踏まえ、己に大きく関わるであろう支援者には先んじて『謁見』を望んでいかなければならないからだ。
……時間経ってからの『遅いご挨拶』は『その程度の者』と誤解を招きかねない。
じつに古臭くも感じるが相手を立てる順序は気に留める必要がある。相手への扱い方を誤ってしまえば、ひいては自身の立ち位置も危うくなってしまう。
──面倒なものだよ。『地盤固め』、その『維持』にはね。
結局、行程初日には役職の高い者たちを中心に手掛けていくことになり、東方から西方へ、北から南へと入り乱れていく内容となってしまった。
不服ではあるが、致し方ないか。
「ところで、君は明後日からどう動く予定なんだ??」
「〇〇氏のところへ伺う予定ですね。経済界の重鎮とされていますから。いち早くご挨拶に伺わなければと」
「……なるほど。だが、あまり得策とは言えんな」
「それはなぜです??」
「──『財務省』に近い者たちから回るべきだ。施策以前にそれを産み出す財源=財布が無ければ『絵に描いた餅』にしかならん。それを握る者たちに『口利き』してもらえるよう動くべきだろう」
「たしか、彼は『そうであった』と認識していましたが??」
「刻々と状況は変化し続けている。かの者のピークは既に迎えていて、いまは下火だ。
……裏金問題で大きく取り上げられている『彼』を知っているだろう??」
「──まさかっ!?」
「……直に火も回る。近いうちに『花火』も上がることだろう。
挨拶回りは考え直すことだ」
「ええ──。そうします。ご助言痛み入ります」
「なに、君には期待している。……これからもな」
予定変更にまたも頭を悩まさなければならないとはな。手間ではあるが、致し方あるまい。
しかし、いまや裏金問題で時の人となっている人物と、○○氏に繋がりがあったとは知らなんだ!?
未だ自身の情報網に穴があることを実害なく再認識させてくれる先生ほか、派閥の存在はやはり有難い。
即座に秘書に予定変更の旨を伝え、再構築を図るよう促す──。
だいぶ思ったよりも話し込んでしまっていたか、再審議開始定刻の数分前となっていた。
吸い溜めては灰皿に押し付け、室内をあとにする。
……またも拘束されるわけか。
形ばかりの討論には嫌気が差す──。
『終着点』は既に決まっているであろうに。初めの位置から微動だにしないのだろうよ。パフォーマンスに付き合わされるこちらの身にもなってほしいものだ。
まぁいい。
審議中は『来るイベント』にむけ、しばし思案に耽ることとしよう。