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7-1. 目論見

 見上げる監視モニターには施設の全体図が表示されていて、画面の大半が赤く染まっていた。

 それは時間が経つにつれ、ひとつ、またひとつと表示が点滅し、そして消えていく──。


 全体の三分の一程度が消えたところか。

 予定通り工作員は潜入し、C4の処理を行っているのだろう。


 爆発物処理には起爆を引き起こす制御信号、もしくは起爆を誘発させる発火材を断つ必要がある。起爆材そのものを不燃化に至らせる方法もある。

 そのなかで一番確実な方法としては後者であるが、これは限られた時間のなかでは適さない。

 爆発物に対しての『接近』、『接触』、『外装部の取り外し』──。いくつもの手順をパスしなければならず、手に取る過程のなかでなにが起因して起爆するか分からない。

 ……制御信号を断つにしろ、発火材を断つにしろ、クローズされた筐体に手を掛ける必要がある以上は前者も有効な手立てとは言い難い。


 結局その手の対応には、ある程度に離れた位置で対処できる凍結処理が最良ベストとなる。

 

 ──もっとも、ひとつひとつの爆発物には『近接』、『振動』センサーたぐいのものはつけていないがな。

 さらに言わしめれば、発火材を起爆剤と接合させることなく隔壁を筐体内に設けていることから起爆を誘発させることもない。

 そのため起爆装置に繋いでいる配線もダミーでしかない。


 我々としても相手の処理ミスを受けて、共に心中しようなど毛ほども思っていないからな。


 モニターに映る赤く着色されている部位はあくまでも『爆発物もどきの位置情報』を載せているものでしかない。

 信号の発信源は起爆装置モドキに組み込んだ家庭用のリモコン電池となっていて、凍結、もしくは離線なりされれば信号は途絶えモニターの点灯表示が消灯する。

 相手の動向を窺うには十分すぎる。


 ──ふっ。じっくりと味わってもらおう。


 声明を発してから既に十五時間ほど経つ。政府は依然とはっきりとした回答を示していない。

 だが──。


「──世論が大きく動き出しましたね」


 蜂起の根底にあった政府への『要求』は、米国大統領が敵対している『かの国』への発言によって、国内含め全世界各国に大きく広まるようになった。

 また、ほぼ同時に動き出した環境保護団体のデモ活動も相まって、国内への全世界からの関心・注目はさらに加速していっている。


 ……目論見通りだな。


 これらの出来事に促されてか、国内の世論に少しばかり変化があった──。


 マスコミの論調に変化が現れたのだ。

 これまでは『テロリスト=悪』を全面的に押し出し、終始非難の的としていた。

 しかし、それがいまでは米国大統領の投稿ツイートからはじまった『米中摩擦の加速』、国会で討議されているエネルギー事情に焦点を合わせた『原子力発電施設継続運転の是非』、二点に焦点を合わせ専門家やタレントを招き討論させる様へ転じていったのだ。

 これはいうまでもない『外圧』から転じたのは明白だろう。

 ……差し詰め『テロリスト=悪』を押し通すにも、世界が過熱している事情に重きを置かざる得なくなって断念した、というところだろうか。

 だが、世界ではすっかりと注目されている米中摩擦の渦中にいる、大統領から名指しされた議員の名は、国内報道からは一切聞こえてこない。

 そういうことなのだろう、『国内メディアと彼らとの関係』は。


 ──まぁいい。


 グラスを目線より上に掲げ、光の反射を楽しむ。

 我々が欲していた状況は、ほぼ形となった。


 今回のテロをきっかけに、この国を蝕む腐り切った患部は全世界に晒されるようになった。

 国内メディアが報じなくとも、米欧を中心とした諸外国にいる『点火隊』が各国の世論に対し政治的・環境的側面からの働きかけを通して炎上させてくれる。その燃え上がりは、SNSによる第三者からの情報発信も合わさって殊更ことさらに大きくなり、これまでメディアが『利権』を重んじて避けていた内容さえも、直視せざるを得ない、取り扱わなければならない事態に陥って、泣く泣く面と向かって世間に対し発信せざるを得ない局面が訪れる。

 結果、部分的情報しか提示されていなかった事実は全てあからさまになり、蜂起に至った要求・外圧を皮切りにして国内では論争に火が付き、議員はもちろん、それと結びつく官僚・メディアほか彼らの醜態は国内外に大きく知れ渡る。


 これをもって、聖書のマタイによる福音書にある『その時に起る患難の後、たちまち日は暗くなり、月はその光を放つことをやめ、星は空から落ち、天体は揺り動かされる』──が成就する。


 蜂起をきっかけに国の中枢に就く『雲の上』と称された者たちは失脚、国の礎となる『統治機構』さえも揺り動かされることだろう。


 ──我々の勝利だな。

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