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5章 15 覚悟を決めた日

 ロザリンに連れてこられたのは、屋敷の外にある倉庫のような場所だった。私は逃げられないように両手を後ろで縛られ、その縄をロザリンの専属メイドが握りしめている。

彼女はロザリンに無理やり命じられて、こんな真似をしているのだろう。私のロープを握りしめている手が小刻みに震え、顔が青ざめている。


もし、私が暴れたりでもしたらこのメイドがロザリンに酷い目に遭わされるかもしれない……。そう思うと、ロザリンの言うことを聞くしか無かった。


「ほら! お前は私の怪我を治せるようになるまで、今日からここで暮らすのよ!」


ロザリンは扉を開けると、私をドンッと突き飛ばした。


「あ!」


ドサッ!!


縛られている状態で突き飛ばされてしまい、そのままバランスを崩して床の上に倒れて身体を打ち付けてしまった。


「う……」


痛みで呻いていると、頭の上でロザリンの声が聞こえた。


「アハハハハハッ! いいざまね! ちょっと美人だからって男にチヤホヤされていい気になって。お前なんか、地べたに這いつくばっているのがお似合いよ! イモムシみたいにね!」


返事をせずにいると、ロザリンの言葉が続く。


「まぁ、でもお前は今のところ、私の顔の火傷を治せる可能性のある唯一の存在だからね、縄だけはほどいてやるわよ」


そして私に近づくと、シュルシュルと縛っていた縄をほどいていく。

縄を解かれて私は立ち上がった。そして改めて周囲を見渡すと、ベッドやテーブルセットと言った生活に最低限必要な家具が置かれていることに気付いた。


「どう? 感謝しなさい。お前を攫ってきたときから、ここで住めるようにリオン達には秘密で用意していたのよ。この場所はもう何年も放置されていて誰も近づくことはないわ。知っているのは私とここにいるメイドだけよ」


ロザリンの言葉に、メイドはビクリとする。


「水や食料はこの私が自ら届けてやるわ。一刻も早く自由になりたいなら、治癒魔法が使えるように訓練することね。行くわよ!」


私が声をかける間もなく、ロザリンはメイドを連れて出ていってしまった。

外側からはガチャガチャと鍵をかける音が聞こえ……やがて物音はしなくなった。


ひとりきりになると、私は改めて小屋の中を見渡した。

天井は高く、2階建て分程はありそうだ。窓は私の頭より上の位置にあり、ここから逃げ出すのは無理そうだ。


「まさか、別の場所に閉じ込められるとは思わなかったわ……」


こんな場所にいつまでもいるわけにはいかない。次にロザリンが1人で来た時に、あの禁忌魔法を試すしか無い。


私は、その時が訪れるのをひたすら待つことにした……。



****


 特に何もすることが無かった私はベッドの上で横になっているうちに、いつしか私は眠りについてしまっていた。


――あれからどれくらいの時間が流れたのだろう。


ガチャガチャと鍵が開けられる音が聞こえて一気に目が覚めると、部屋の中はすっかり薄暗くなっていた。


ギィ〜……


軋んだ音と同時に扉が開かれ、」バスケットとカンテラを手にしたロザリンが部屋に現れた。


「お前の為に、食事を持ってきてやったわよ」


そして無造作にカンテラとバスケットをテーブルの上に置く。


「ロザリン、今何時なの? ここには時計が無いからさっぱり分からないのよ」


「今? もうすぐ18時になるところよ。それでどうなのよ? 治癒魔法が使える訓練はしていたのでしょうね?」


ロザリンは狂気をにじませた表情で尋ねてくる。薄暗い部屋の中で、カンテラに照らし出されたロザリンの顔は目を背けたくなるほどに恐ろしかった。

このような顔になってしまえば、正常ではいられなくなるかもしれない。


「何黙ってるのよ! 返事ぐらいしなさいよ!」


ロザリンが焦れた様子で怒鳴りつけてきた。


「ロザリン、今あなた1人でここへ来たの?」


「ええ、そうだけど?」


ロザリンは1人でここへ来た……その言葉に私は覚悟を決めた。


「ロザリン、私……もしかすると、治癒魔法を使えるようになったかもしれないわ」


「え!? 本当に!? その話、嘘じゃないでしょうね!」


「ええ。うまくいくかわからないけれど、今試してみる?」


「勿論試すに決まっているでしょう!」


ロザリンが大きく頷いた。


「……分かったわ。なら、今やってみるわ。このベッドに座ってくれる?」


「座ればいいのね?」


私の言葉に、ロザリンは素直に従う。そこで私はロザリンの前に立つと尋ねた。


「ロザリン……顔の火傷が消えるなら、たとえ何が起こっても大丈夫?」


禁忌魔法は何が起こるか分らない。ロザリンの意思をどうしても確認しておきたかったのだ。


「当然でしょう! この火傷が消えるなら、何でも構わないわ!どうしてそんなことを聞くのよ」


「分かったわ……それじゃやってみるわ」


その言葉さえ、聞ければ十分だ。私はロザリンの両手を握りしめると、火傷が元の何も無い状態に戻るように祈った。

すると、徐々に私の魔力がロザリンに流れていく気配が感じられるようになってきた。


そして……予想もしていなかった事態が起こった――

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