5章 7 リオンとの会話
「え? どうして俺の名前を知っているんだい?」
怪訝そうに首を傾げるリオン。
「それは……あなたと一緒にいた女性が『リオン』て呼んでいたから……」
そこまで言って、気付いた。いくら何でもいきなり「リオン」と呼んではまずかったかもしれない。今のリオンにとって、私はほぼ面識が無い相手なのだから。
「ご、ごめんなさい。図々しく名前を呼んでしまって」
「別にリオンで構わないよ。同級生なんだし。それより……ごめん。乱暴な真似をして連れてきてしまって。本当に悪かったと思っている」
リオンが突然頭を下げた。
「あの……?」
「仕方なかったんだ。どうしても彼女……ロザリンに君を攫って来るように命令されてたんだよ。断ったら、死んでやるって脅されて。それに……俺は……」
そこまで言うと、リオンは顔をあげた。その表情は何だかとても苦しそうだった。
「リオン……?」
「本当に君には悪いことをしたと思っている。今はまだ解放してあげることは出来ないけれど、隙を見て必ず近い内に逃がしてあげるよ。それまでは……我慢して。ここに居てくれないかな? 酷い待遇は絶対にしないと誓うから」
真剣な表情で私を見つめるリオン。
私は窓に目を向けた。少しだけ開いたカーテンの隙間からは青白い月の光が差し込んでいる。
今何時なのかは分からないが、夜は明けていないようだ。
きっと私が現れないことで、セシルとフレッドが心配しているに違いない……!
「お願い、どうか見逃して。今夜は待ち合わせをしていたのよ。私が現れなければ、きっと皆が心配する……はず……」
そう言えば、何故あの場にリオンが現れたのだろう? いくら偶然にしては出来すぎている。
「そうだね。心配していると思うよ」
リオンはじっと私を見つめている。その瞳は……何処か悲しげだ。
「あの……どうして私があの場にいるって分かったの?」
「悪いとは思ったんだけど君の周囲に追跡用の魔道具を飛ばしておいたんだ。でも、飛ばしておいたのは今日が初めてだから。そこは信じて欲しい」
リオンは私の前で鈍く光る石のようなものを取り出した。
「君の周囲を飛ばしていた魔道具で会話を拾い、この石を通して聞くことが出来る。それで今夜外に出ることを知ったんだよ」
そんな……! いつの間に?
私達の会話が魔道具で会話を聞かれていたなんて……!
「な、何の為に私を攫ってきた……の……?」
「君は光の属性を持っているんだろう? クラスの噂で聞いたよ」
「そう……だけど……」
「光の属性は治癒能力があると言われている。ロザリンは君を使って顔の傷跡を治癒させようとしているんだ」
「顔の傷……」
「彼女がヴェールを被っているのは顔に酷い火傷を負っているからなんだ。その火傷を負わせたのは他でもない、俺なんだけどね。ロザリンは治癒魔法で傷が治ると信じているんだ。それで俺に君を誘拐させたんだよ」
ロザリンの命令と聞いたときから、まさかとは思っていたけれど……でも私の魔力はまだまだ不安定だ。それに治癒魔法は訓練中で、使いこなせない。
「そんなの無理よ! 火傷の傷跡なんて治せない! しかも、そんな古い傷跡なんて不可能よ!」
するとリオンが驚いたように私を見つめた。
「古い傷跡……? 何故ロザリンの火傷が古いって知っているんだい?」
「あ……」
しまった……!
リオンは一度も火傷の傷が古いとは口にしていないのに――