5章 1 不穏な予感
早いもので入学式から半月が経過していた。
ニルヴァーナ学園がマンモス校のお陰で、ロザリンやリオンとは同じ授業に当たることはなかった。
私はセシルとフレッドと同じ履修科目を撰択したのだが、何故かアンディにザカリーも同じ科目を選んでいた。
そこにエイダも加わって私達は常に6人で行動するようになり、いつしか学年内でちょっとした有名グループになっていた。
恐らく、私の周りにいる男性たちが全員人目を惹くような美形揃いばかりだったからだろう――
「クラリス、今日は初めての魔法科の授業がある日だね」
1時限目の授業が終了すると、隣に座っていたアンディが声をかけてきた。
「ええ、そうね。だから緊張しているわ」
男女分かれての魔法科の授業は月に2回しかない。
そして、今回が初めて授業を受ける日だったのだ。
今まで一度もロザリンと同じ授業に当たったことは無い。けれども今回は何となく嫌な予感がしてならなかった。
もしかしたら、ロザリンが同じ魔法科を選択しているかも……そんな不安がこみ上げてくる。
「大丈夫か? 何だか顔色が悪いようだが……具合でも悪いのか?」
不意にザカリーが私の額に触れてくると、その腕をフレッドが掴んだ。
「何するんだよ」
フレッドに腕を掴まれたザカリーが睨みつける。
「……勝手にクラリスに触るな」
「はぁ? 人聞きの悪い言い方をするな。クラリスの具合が悪そうに見えたから熱が無いか確認しただけだろう?」
ザカリーがフレッドの腕を振りほどく。
「そんなこと、お前が確認する必要はないだろう?」
「何だと……?」
私の頭上で、フレッドとザカリーの睨み合いが始まった。入学して半月、この2人はいつまで経っても険悪な仲だ。
「あ〜あ。また始まったよ」
「あの2人も懲りないなぁ」
そんな2人を呆れた様子で見つめるアンディとセシル。
「ね、ねぇ。2人とも、喧嘩はやめて。折角知りあいになれたのだから、仲良くしましょうよ」
そしてそんな2人を私が宥める……いつしかそんな日課が当たり前になりつつあった。
そのとき。
「クラリス、迎えに来たわ」
違うクラスで授業を受けていたエイダが私達の教室に現れた。
「おはよう、エイダ」
「おはよう」
エイダに笑顔で挨拶するセシルにアンディ。
「おはよう、セシル。アンディ……あら、またあの2人始まったの?」
傍らで睨み合いをしているフレッドとザカリーにエイダは気付いた。
「ええ、そうなの。困ったわ、2人とも顔を合わせればすぐに口論を始めてしまうから」
エイダがクスクス笑った。
「本当にザカリーとフレッドは仲がいいのね?」
「はぁ!?」
「誰がだ!」
その言葉に素早く反応する2人。
「あら、仲が良いから喧嘩するのでしょう? 喧嘩するほど仲が良いって言葉があるじゃない」
するとザカリーとフレッドは視線を合わせ……互いにフンッとそっぽを向く。
「行きましょう。クラリス」
「ええ、そうね」
立ち上がると、アンディとセシルが声をかけてきた。
「2人とも、学食でまた会おう」
「また後でね」
「皆、行ってきます」
手を振ると、私はエイダと一緒に次のクラスへ向った。
「それにしてもエイダはすごいわね」
2人きりになると私はさっそく思ったことを口にした。
「何がすごいの?」
「だって、すぐにザカリーとフレッドの口論を止めたからよ。2人とも私の言葉なんか聞いてくれないんだから」
「そうかしら。そんなことよりも、次の授業はいよいよ大学生活最初の魔法学の授業ね。大学の魔法学の授業は実践ばかりと聞いているから、今からとても楽しみだわ」
エイダは余程この授業を待ち望んでいたのだろう。
だから自分の不安な気持ちを告げることが出来ず、ただ笑顔で話を聞くのが精一杯だった。
そして……私の予感は、思いも寄らない方向で的中することになる――