4章12 私の属性
私はよほど驚いた顔をしているのだろう。エイダが尋ねてきた。
「どうしたの? 随分驚いた顔をしているけど」
「ええ、それが……あの先生は、私の兄なの。だから驚いてしまって」
「え!? あの先生がクラリスのお兄さん? そんな……」
何故かエイダがショックを受けているように見える。
「エイダこそ、どうしたの? あの先生がどうかしたの?」
「い、いいえ。どうもしないわ……」
「そう? ならいいけど……」
「では皆さん! 一番前の列の人たちから、この水晶に触れて下さい。属性を振り分けていきます!」
兄のよく通る声が教室に響き渡った。
そこで一番前の列に座る女子学生たちは水晶の前に並び、次々と水晶に触れて属性を振り分けられていく。
その様子を一番後ろの席で見届けていると、エイダが話しかけてきた。
「今のところ、炎属性と水属性の人たちばかりね。もっと別の属性の人はいないのかしら」
「エイダは確か風属性だったわね」
「ええ、でも正確に調べたことは無いから良く分からないわ。ただ、風属性の魔法が得意だっただけよ。実際はどうなのかしら。クラリスは自分の属性が分かる?」
「さぁ……私も良く分からないわ」
ユニスだった時は、あの事件が起こるまでは一切の魔法を使うことが出来なかった。
目覚めてからは大学に入るために勉強ばかりだった。
魔術の勉強は大学に入学してから始めようと兄に言われていたからだ。
やがて、最後尾の順番が回ってきた。
この頃になると炎属性と水属性以外に風属性や、無属性の女子学生たちもチラホラ現れていた。
「それでは最後尾の女子学生の皆さん! 水晶の前に並んで下さい!」
兄の声が教室に響く。
「私達の番が来たわね。並びましょう、クラリス」
エイダが席を立つと、声をかけてきた。
「そうね、行きましょう」
私達は他の女子学生たちと一緒に教室の階段を降りていくと列に並ぶと、一番先頭の女子学生から水晶に触れていき……ついに私達の番が回ってきた。
「……では、次の人。名前を名乗って下さい」
水晶の前に立つエイダに兄が質問する。
「はい、エイダ・モールスです」
「では、水晶に右手をかざして下さい」
「はい」
エイダは頷くと、水晶の前に手をかざした。
すると水晶の中に雲のようなモヤが出始め、やがて渦を巻きはじめた。
「……なるほど。ミス・エイダは風の属性ですね」
兄は手にしたボードにサラサラと書き込んでいく。
「ありがとうございます」
エイダは一礼すると、私の方を振り向いてウィンクすると席に戻っていった。
次はいよいよ私の番だ。
「では次の方。名前を名乗って下さい」
兄はじっと私を見つめてくる。
「クラリス・レナーです」
「では、水晶に手を当てて見て下さい」
「……はい」
緊張する面持ちで、私は返事をした。
禁忌の魔法使いが水晶に触れると、どの様な影響を及ぼすのか全く分からなかった。
でも、今なら何故兄がこのガイダンスに現れたのか理解できた。
もし、私が触れたことで何らかの異変が起きても兄なら対処できるからに違いない。
息を呑むと、私はそっと右手で大きな水晶玉に触れた。
すると水晶の中に小さな光が現れ始めた。その光は徐々に大きくなっていき、眩しい光を放ち始めたのだ。
そして、同時に首の後ろが熱くなる。
これはまさか……刻印に異変が起きたのだろうか?
一方、女子学生たちは光に包まれた水晶を見て騒ぎ始めた。
「何? あの光は……」
「あんなの初めて見たわ」
「一体どうなっているの?」
今や、教室中ざわめきが広がっている。
首の後ろが熱くてたまらない。いつまで水晶に触れていなければならないのだろうか?
「せ、先生……」
すると兄が笑みを浮かべた。
「いいよ、もう水晶から手を離しても」
手を離すと途端に水晶の中の光は消えた。それはまるで電気のスイッチを突然切った状態によく似ている。
「やっぱり、私の見立てた通りだ。クラリス、君は光の属性に決定だ」
そして兄は笑みを浮かべて私を見つめた――