4章3 トラブル 2
「それじゃ、クラリス。また放課後一緒に帰りましょ」
教室の前に到着すると、別クラスのエイダが笑顔を向けてきた。
「ええ、またね」
するとフレッドが怪訝そうな表情を浮かべる。
「何だ? 帰りも一緒なのか?」
「そうよ。だって同じ寮生で、友人になったのだから、一緒に帰るのは当然でしょう? いけないのかしら?」
エイダが私の代わりに返事をした。その口調はどこか強く感じる。
「何だって? 別に俺は……」
フレッドがムッとした様子で反論しようとしたところをセシルが間に入って来た。
「君の言う通りだよ。いけないはずはないさ。クラリスに友達が出来るかどうか、実は密かに心配していたんだよね。友人になってくれてありがとう」
「別にあなたにお礼を言われるほどのことじゃないわ。それじゃ、クラリス。放課後迎えに行くわね」
エイダは笑顔で私に手を振り、去って行った。その後姿を見届けているとフレッドが話しかけてきた。
「あの女子学生は随分気が強そうだな」
「そんなこと無いと思うけど……」
でも言われて見れば、確かに私の知るエイダらしくない。けれど私は6年前のエイダしか知らない。大人になれば性格も変わるのは当然なのかもしれない。
「恐らく俺たちが朝、クラリスを迎えに行ったことで他の女子学生たちに反感を抱かせてしまったことが原因かもしれないな。ひょっとすると彼女は以前からの知り合いなのかい?」
セシルの言葉にドキリとした。
もし、ここで2人にエイダはユニスだったときの親友だということが知られてしまえば……。
「まぁいい。そんなことより教室に入ろう」
フレッドが先に教室へ入って行った。
「そうだね、席が無くなるといけないな。行こう、クラリス」
「ええ」
彼の後に、私とセシルも続いた。
フレッドの背中を見つめながら思った。
ひょっとして、彼は私が困っていることに気付いて助け舟を出してくれたのだろうか……?
階段教室は、あらかた席が埋まっていた。
「これは、空いている席を探すのは困難だな……」
セシルが教室を見渡した。
「仕方ないだろう、俺たちは教室に来るのが遅かったんだ。とにかくどこか席を探そう」
フレッドの言葉に、私も空いている席を探していると……。
「おはよう、 クラリス」
すぐ近くで名前を呼ばれた。
「え?」
振り向くと、アンディが背後に立っていた。
「あ……おはよう、アンディ」
「うん、おはよう」
笑みを浮かべるアンディ。
「何だ、またお前か?」
フレッドの露骨に嫌そうな顔とは対照的にセシルは笑顔で挨拶をする。
「クラリス、こっちへおいでよ。僕の隣が空いているから」
アンディが窓際の席を指さした。
「本当? ありがとう」
「君の為に席を確保しといたんだよ。それじゃ、行こう」
アンディが前に立って歩き出した。
君の為…‥? その場所にセシルとフレッドの席はあるのだろうか?
けれど私の口からは何となく尋ねにくくて、そのままアンディの後をついて行った。
「ほら、あの席だよ」
アンディが指さした先を見て、思わず声が出そうになってしまった。
何故なら一番窓際の席にはザカリーが座り、こちらをじっと見つめていたからだ。
まさか、アンディアはザカリーを同席させるつもりなのだろうか……?
私はセシルとフレッドの反応が気になった。すると案の定、2人は戸惑いを見せていた。
「誰だ? あいつは」
「さぁ……?」
するとザカリーが声をかけてきた。
「はじめまして」
「あ……は、はじめまして」
私も真似して挨拶すると、アンディが言った。
「さ、クラリス。座りなよ」
「え、ええ」
言われるままザカリーの隣に座ると、アンディも隣に座ってきた。そしてセシルとフレッドを見上げる。
「君たちも座るといいよ」
「お、おい。何を勝手な……」
「そうだね、座らせてもらうよ」
不満げなフレッドを制する様に、セシルは返事をするとアンディの隣に座った。
「……ったく」
フレッドはあからさまに不満そうに着席し……、こうして私は4人の男性に囲まれるように席に座る形になってしまった。
どうしよう……。
まさか、入学早々に4人のヒーローたちが遭遇してしまうなんて。
そして早速頭の痛くなるような事案が発生する――