3章19 ザカリーとの再会
ガス灯に照らされた中庭から姿を現したのは長身の男性。
青みがかった髪に青い瞳の青年は……。
「ザカリー……?」
声をかけると、ザカリーは私をじっと見つめ……口元に笑みを浮かべた。
「……ユニスか?」
ユニス……ザカリーにその名前で呼ばれ、再び胸に熱いものがこみ上げてきそうになる。
黙って頷くとアンディが苦笑した。
「ごめん、待たせて。つい、ユニスが懐かしくて話が長引いてしまったよ」
「全くだ。近くで様子を見ていたけれど、話が終わりそうに無いんだからな」
ザカリーはガゼボの中に入ってくると隣に座ってジッと見つめてきた。
「な、何?」
「いや……何処かに以前のユニスの面影が無いか、見ているんだが……何処にも残っていないな。完全に別人だ。……本当にユニスなのか?」
私から片時も目をそらさずザカリーが尋ねてくる。
「そ、そうよ。私はユニスだったわ。今は……クラリス・レナーという名前を名乗っているけれども」
「アンディに聞いた。ユニスは禁忌魔法を使って外見が変わってしまったんだろう? しかも魔術師協会に監視されるだけでなく、死んだことにまでされて……あんな男の為に」
ザカリーの言葉には憎しみが込められているように感じた。
「あいつは……リオンの家族は、少しもユニスのことを気にかけてはいないんだよ。ユニスが死んだと聞かされてすぐに、婚約解消してすぐにロザリンと婚約したんだからな」
「だけど、それは自分の引き起こした魔力暴走のせいで彼女が顔に大火傷を負ったから責任を取るためにだったんだろう?」
「だが、ユニスが死んだことにされて1年もしないうちに婚約してしまったじゃないか。あまりにも不誠実すぎる。大体、誕生会のあの日だってユニスのことをほったらかしにしていたし……」
アンディの言葉に、ザカリーは苛立ちを募らせる。そう言えば、6年前もザカリーはロザリンと親しげなリオンに対して怒っている様子だった。
「ザカリー。もういいのよ、だって私は元々リオンから婚約解消して欲しいって頼まれていたのだから」
「え!? 何だって!?」
「そうだったのかい!?」
この話にはさすがのアンディも驚いたようだ。
「両親にも話していなかったけれど、リオンの誕生パーティーが終わったら婚約解消の話をしようと思っていたの。でもあんなことになって、自分の口から伝えられなかったけど……どのみち私達の婚約解消は決まっていたのよ」
「なんて奴だ……」
ザカリーがギリギリと歯を食いしばる。
「それは辛い話だったね……」
同情の目を向けてくるアンディ。
「今更だが……くそっ! あいつ、一発ぶん殴らないと気がすまない」
イライラする口調で物騒な言葉を口にするザカリーを慌てて止めた。
「お願い、リオンには一切何もしないで。今だって……本当はこんな風にアンディやザカリーに会うことだって、違反なことをしているのよ。だって、私は絶対に自分がユニスだったことを知られてはいけないと口止めされているのだから。特にリオンには絶対に関わらないようにと言われているの」
「……分かった……そこまで言うなら俺からはリオンには接触しない」
「なら、ついでにもう一つお願いがあるの」
「どんなお願いだ?」
「私の正体をこの学園で知っているのはアンディに、セシル、フレッドという人物の3人だけなの。だからセシルとフレッドの前ではザカリーは絶対に私をユニスと呼ばないで、クラリスと呼んで欲しいの」
真剣な目でザカリーを見つめる。
「ザカリー。もし、あの2人にバレたら……ユニスは幽閉されてしまうことになるかもしれないんだよ」
「ええ、そうなの」
アンディの幽閉という言葉にぞっとしながらも、頷いた。
「……分かった。誰にもバレないようにする」
「ありがとう、ザカリー」
その言葉にホッとして礼を述べるも……。
「ただし、条件がある」
「「条件?」」
私とアンディの声が重なる。
「俺も明日からはお前たちと一緒に行動させてもらう。無関係だとは言わせないからな」
ザカリーはきっぱり言い切った――