3章14 女子寮
『ニルヴァーナ学園』は巨大な敷地を持っている。その広さは、町が一つ丸々収まってしまう程だった。
敷地内には校舎意外にも様々な施設が建てられており、当然のように学生寮も併設されていた。
綺麗に舗装された石畳を歩き続けると、木々に囲まれた2つの大きな白い洋館が見えてきた。
「あれが学生寮だよ。右側が女子寮で左側が男子寮だよ」
セシルが私に教えてくれる。
「男子寮は青い屋根で、女子寮は赤い屋根になっているのか。分かりやすいな」
フレッドが頷いた。
学生寮は4階建てになっており、互いの寮までの距離は……目視で200m程離れているだろうか?
多くの学生達が寮の中へ入って行く様子を私は2つの寮を見つめる。
この程度の距離なら、男子寮から私の姿が見えないかも……そんなことを考えていると、いきなりフレッドに名前を呼ばれた。
「……クラリス、話聞いてるのか?」
「え? な、何?」
ドキドキしながら返事をすると、呆れた様な顔つきをされる。
「やっぱり聞いていなかったんだな。明日の朝の話をしていたんだぞ?」
「ごめんなさい。建物が綺麗だったから見惚れていたのよ。それで、明日の朝の話って何?」
するとセシルが話し始めた。
「明日は9時半から1時限目の授業があるだろう? だから、9時にクラリスを迎えに行くから女子寮の正門前で待ち合わせをしよう」
「私なら、1人で教室へ行けるけど? 何もそこまで過保護にしなくてもいいと思うけど」
セシルもフレッドも目を引くほどの容姿をしている。そんな2人と一緒にいるだけで周囲の注目を浴びてしまう。
現に寮に入っていくい学生たちは、好奇心旺盛な目でこちらを見ていくのだ。
私としてはこれ以上目立ちたくはない。
「それは駄目だ、1人で行動させるわけにはいかないよ」
「自分が俺達から監視される立場にあるのを忘れているのか?」
セシルとフレッドから注意されてしまった。
「そうだったわね。ごめんなさい」
2人は魔術協会からの命令で私を監視する監視者であり、友人ではないのだ。改めてそのことに気付かされた。
「別に謝ることはないよ。俺達も四六時中クラリスの側を離れなくてごめん。たまには1人になりたいときだってあるだろうし」
セシルは申し訳無さそうに謝り、フレッドは黙って私を見つめている。
「任務だから仕方ないわよ。それじゃ明日9時に寮の門の前で待っているわ」
「うん、またね」
「またな」
セシルとフレッドは手を振ると去って行った。その後姿を見届けると、私も女子寮へ向った。
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寮に入ると、入口付近の掲示板に部屋割りが書かれた紙が貼り出されていた。
高等部までは二人部屋だが、大学部になると一人部屋が割当てて貰える。
他の学生たちに混じって、部屋割りを見つめていると突然脇から声をかけられた。
「ちょっと話があるのだけど、いいかしら?」
「え?」
その女性は黒髪にストレートヘアで、どことなく雰囲気が日本人に似ている。ただし、その瞳は美しい青色をしていた。
一体誰だろうと思いつつ、女性に質問を投げかけてみた。
「あの、今私に声をかけたのですか?」
「ええ、そうよ。あなたに言っておきたいことがあるの」
腕組みした女性は私に敵意を込めた目を向けてきた。さらに、いつの間にか彼女の背後には10名程の女子学生が集まっている。
そのとき、自分が肝心なことを忘れていたことに気が付いた――