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3章8 寂しい気持ちと懐かしい彼

 大ホールへ行くと既に大勢の新入生たちが集まり、ざわめきが起きていた。


「特に席は決まっていないようだな。あの席に座ろうか」


セシルが、空席になっている列を指す。


「そうだな、あそこに座るか。クラリスも構わないよな?」


「ええ。いいわ」


フレッドに尋ねられて頷くと、3人でその席に着席した。


何処かに知りあいはいないだろうか……?


席に座ると、私は無意識に周囲を見渡していた。

時折視線を感じて何人かの学生と目が合ったが、いずれも知らない顔で慌てたように視線をそらされてしまう。


……どうやら、ここでも私達は注目を浴びているようだった。


私が眠りについて6年……あのとき子供だった生徒たちは全員18歳になっているので、外見もだいぶ変わっているはず。

恐らく今の顔を見ても相手が誰なのか分からないだろう。


けれども、私はどうしても探したい人物がいた。

私の大親友だったエイダ・モールス。彼女は、この大学に残っているのだろうか? それとも他の大学に行ってしまったのか……。


クラリスとして今生きている以上、私には彼女が今どうしているのか知る手段は無い。

仮にエイダがこの大学に在籍していたとしても、私がユニスであることを知られてはいけない。

自分の正体を隠して、近づくことなど私には出来そうになかった。

そのことが無性に寂しくてたまらない。


「どうかしたのかい?」


不意に隣に座るセシルが尋ねてきた。私が元気のないことに気づいたのだろう。


「ううん、何でもないわ」


首を振ると、フレッドも声をかけてきた。


「もしかして具合でも悪いのか?」


「大丈夫よ、具合は悪くないから。ただ……ここには、昔の私を知る人は誰もいないんだなって思って。それが少し寂しく感じただけだから」


私の監視者である2人に、本音を語るわけにはいかない。曖昧な話を口にして誤魔化すことにした。


「あぁ、そのことか。それなら大丈夫だよ」


何故か私の言葉にセシルが笑う。


「え? 大丈夫って何のこと?」


「何だ? ひょっとして先生から何も聞かされていないのか?」


フレッドが怪訝そうな顔を浮かべる。


「聞かされていないって……?」


その時。


「新入生の皆さん、お待たせいたしました。これより入学式を開催します!」


大ホール内に拡声器でも使ったかのような声が響き渡り、ざわめきが収まる。

そして大学の学長が壇上に現れ、挨拶と祝辞のスピーチが始まった。


その後は学園案内についての話や、教授の紹介。そして学友会の代表者のスピーチが続いていく。


私は俯きながら、まるで他人事のようにボンヤリと話を聞いていた。


その時――


「それでは次に新入生代表、アンディ・ウィルソン! 前へ!」


……え?


聞き覚えのある名前に思わず顔を上げると、壇上に上がっていく1人の人物が見えた。


それは成長した姿のアンディだった。


「皆様、初めまして。ただいま御紹介に預かりましたアンディ・ウィルソンと申します!」


大ホールに彼の声が響き渡る。

もう、あのときの幼かった彼はどこにもいない。今の彼は、まさにゲームに登場していた彼自身と寸分変わらない容姿になっていたのだ。


彼には本当にお世話になった。思わず懐かしい気持ちがこみ上げ、つい彼の名前が口をついて出てしまった。


「アンディ……」


するとセシルが耳元で囁いてきた。


「安心していいよ、クラリス。彼もまた君の正体を知っている人物の1人だから」


と――







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