第23話 最終話 それから
「早希子さん、あいつのこと応援してたでしょ。」
ぶつぶつ文句を言う和登に、早希子は肩をすくめた。
「電源切れてるって分かってるのに、あれだけ電話してきてたのよ? そりゃ親友か彼氏のレベルでしょ。」
「分かってたんだ。」
「あなたが、例のそーちゃんを牽制しようとしてたのもね。」
「だってさー。せっかく俺が、翔子ちゃんを可愛く磨き上げたのに、横取りされたくないじゃん。」
「『マイフェアレディ』じゃあるまいし。」
早希子は笑った。
「あの子がかわいくなったのは、あの子のポテンシャルよ。誰がやったって、可愛くなったわよ。だって私の娘も同然なんだから。」
あの日。
ずっと好きだったと言われて、翔子は無言でボロボロ泣き出した。
「なんだよ。どっちなんだよ。ダメならダメって言えよ。」
オロオロする壮太に、翔子は思わずうなずいたので、壮太はがっかりして
「そっか・・」
となったので、とうとう和登が
「ダメなわけないじゃん。君ら、本当もうちょっとちゃんと話しろよ。あー、まったく。なんで俺がこんな目に。」
席を立って、カウンターに移る。
譲られて、壮太はそこに座った。
「・・ダメじゃないのか?」
訊かれて、翔子はもう一度うなずいた。
「か、彼女が大学にいるって、前に、そーちゃんの友達が。」
壮太は頭を掻いた。
「あー、あれな。前入ってた空手サークルで、めっちゃ強い女の子がいて、何回か手合わせお願いしたんだよ。そしたら、付き合ってるって噂がたっちゃって。でももう辞めたから。」
翔子はうなずく。壮太は、和登をちらりと見る。
「俺からも確認。あいつ、お前の彼氏じゃねぇの?なんか立候補するとかなんとか、前に。」
「従兄。」
簡潔かつ間違いようのない返事に、二つため息が聞こえた。
「そっか。よかった。」
壮太はホッとして、肩の力を抜く。
くそー、と唸る和登の前に、マスターのウインクとともに、淹れたてのコーヒーが置かれた。
「なんか、すまんね。」
「普通さ、シンデレラなんかでも、金持ちの男が迎えに来て、ハッピーエンドじゃん。なんで俺じゃダメなわけ?」
まだ愚痴る和登に、早希子はあきれる。
「シンデレラは臆病なお馬鹿さんだったから、いじめられても家からでる勇気がなかっただけよ。私だったら、ありったけの金目の物持って逃げるわね。」
「・・・早希子さんならそうするよね。」
結局、車での送迎は無理があるという事で、翔子は早希子のマンションに住むことになったのだった。
最初に引っ越した時とは比べ物にならないぐらい、翔子の物が増えていたが、とりあえず必要なものだけ持って、引っ越した。
「それにシンデレラは、別に王子様の事が好きでもなんでもなかったのよ。舞踏会に行きたかっただけ。それでなんで王子様と結婚してハッピーエンドなのか、訳わかんないわ。王子様がモラハラのパワハラのマザコンだったらどうするの。」
「あ・・そうですか。」
好きな男ぐらい自分で探しに行けっての、と笑う早希子に、和登はぐうの音もでない。
翔子が、荷物の片付けが終わって部屋から出てきた。
「大体片付きました。」
「そう、まあ、寝るところだけ確保できれば、後はゆっくりやってけばいいわ。ご飯食べに行く?」
早希子のマンションからだと、壮太の喫茶店まで、電車で乗り換え一回で済む。
結構近くなった。
「でも、俺、あきらめたわけじゃないからね。」
翔子に宣言する。中華レストランで、早希子はターンテーブルをぐるぐる動かしながら笑った。
「あんたは気が多いから、駄目よ。女の子にキャーキャー言われるの、好きでしょ。」
「えー、それダメ?」
「女の子が不安になるでしょ。そのチャラい恰好を何とかした方がいいわよ。」
翔子はくすくす笑った。
最近笑顔が増えた。本人に自覚はないらしい。
「それも和登さんらしさですよね。」
「いやもう、そんな殺し文句、やめてくれよ。」
和登は、はぁとため息をつく。やっぱり可愛い。あの壮太にはもったいなすぎる。
「翔子ちゃん、魔性の女だもんねぇ。」
早希子は笑う。
「魔性?」
「佐藤さんが、ほら翔子ちゃんのお父さんがそうだったから。亜希子がそれにはまって大変だったけど、まあ、今思えばあんなに結婚、反対しなけりゃよかったと思ってるのよ。」
だから、壮太の事を応援したのだと和登は納得する。
翔子はエビ餃子をパクパク食べながら、ちょっと思い出すように言った。
「パパもママも、幸せだったと思います。パパが描いた絵が、ちゃんとしたのじゃなくて、スケッチブックに描いたのがあって、この前も見たんですけど、やっぱり幸せだったんだなぁって。」
絵の中の翔子も亜希子も、幸せそうだった。とても生き生きしていた。
「私にも見せて。」
早希子が言った。
結婚してからの亜希子の写真は、そんなに多くなかった。
デジカメの中に残っていた写真は、ほぼ翔子だった。翔子も愛されていたんだな、と思う。
翔子はにっこりと笑った。確かに魔性の微笑みかもしれなかった。
「いいですよ。」
その後、週末だけ手伝う翔子目当てに、喫茶店に行列ができたとか、翔子は最初の目標通り壮太と同じ大学に入学したが、そこに小中の同級生たちが何人かいて、彼らが平身低頭謝ってきたとか、そういったことも色々起こるが、それはまた、別の話。
早希子と亜希子の双子の姉妹が、超イケメンの似顔絵画家にべた惚れした話もまた、別の機会に。
読んでいただいてありがとうございました☆彡
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20話ぐらいで納めたかったのに、ちょっとはみだしました。
結構かっとばしました・・




