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なんちゃってシンデレラはコーヒー屋さん  作者: たかなしコとり


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第2話

 

  木村弁護士が声をかける。

「ああ、早希子さん。」

「ご苦労様です。それで?」

 女性の声。

 木村弁護士が半身になると、その顔が見えた。

「翔子ちゃん?」

「はい。」

 思わず立ち上がる。

「あのー。まだ理解が。」


 早希子さん、と呼ばれた人は、びっくりするぐらい母に似ていた。

「似てるでしょ。亜希子さんとは双子の姉妹なんですよ。」

 なぜかドヤ顔の木村弁護士。

「狭っ。」

 早希子は靴二足でいっぱいのたたきを見て、思わずつぶやいた。

 しかしそれ以上は賢明にも何も言わず、

「まずはお線香をあげさせてもらえる?」

「あ、どうぞ。」


 キッチンの隅の食器棚の上に置いてある骨壺に、早希子は手を合わせた。

 ちなみにお線香もろうそくもなかった。

 そして

「女の子って聞いてたけど。」

 と翔子を見た。

 思わず翔子も自分を見下ろした。

 ショートカットの髪、ヨレヨレのTシャツ、デニムのハーフパンツ。

 男の子に間違われることは割とある。梅雨時で、うっとうしいとはいえあんまりか。

「はぁ。」

「顔はさすがにきれいよね。佐藤さんによく似てる。ええと、高校生だっけ?三年?進路は?」

 ぴしっとグレーのスーツを着こなした早希子は、顔だけは母にそっくりだが、全然雰囲気が違う。

「えー。あのー。就職を考えています。」

「それは費用面で?それともやりたい仕事?」

「えっ。」

 母子家庭で、母のパート代をやりくりするこの状況で、他の選択肢があるなんて考えもしなかった。

 言葉に詰まる翔子に、早希子はウンウンと頷いて、肩をポンと叩いた。

「あんまり混乱させちゃよくないよね。ま、こっちで出来るだけのことはするから。任せて?」


 とりあえず当座の生活費として、100万円入った銀行通帳とカードを渡された。

 茫然。

 翌日、普通に学校へ登校したものの、どうも現実味がない。

 弁護士の人の話によると、入院費とかの支払いは、全部早希子がしてくれたらしかった。

 そう言えば、払った記憶がない。

「よー。翔。さっきから呼んでんだけど。」

「ああ?」

 クラスメイトの男子が話しかけてくる。

「ちょっといろいろあって。」

「いろいろ?」

「まあ、色々だよ。」

「そっか。大変だな。」

「まあね。」


 翔子の母が死んだことは、みんな知っている。

 一応未成年だし、学校の先生とか民生委員とか児童相談所の人とかがやってきて、色々話し合った挙句、奨学金と母の生命保険と翔子のバイト代でなんとかいけそうなので、あと1年で卒業だし、児童養護施設の空き待ちという体で、しばらく現状維持、という結論に達している。

 女子は一律にみんな着ている白いセーラー服のスカートから、足がにょっきり出ているのを見やる。

 高校に入って背が11センチも伸びたのだ。かなり大きめを買ったはずなのに、さすがにカバーできない伸び方だった。

 100万円あったら、新しい制服が買えるかも。それに新しいノートも。靴も。ペンも。

 ぼーっと考える。

「そういや、せんせーが呼んでたぞ。放課後、進路相談室に来いって。」

「あ、そう。ありがと。」


 放課後はバイトがあるから、呼び出しは困る。

 急いで行くと、担任から家庭調査書を出された。

「ええと、お母さんが亡くなったんで、ここ二重線で消して。それで、さっきご家族から連絡あって。」

「・・ご家族。」

「ご親戚? 佐藤さんの伯母さんて人。その人の名前に変えといて。」

 まだなんとなく頭がぼうっとする。

 伯母さん。そりゃそうか。母の姉なら、伯母さんだ。早希子さん。苗字は・・藤沢?

「それから、進路の希望を進学に変えるって?本当か?」

「はあ、まあ、そう・・んな感じです。」

 とにかくバイトに行かなくちゃ。


 喫茶店の隅でエプロンをつけていると、

「おつかれー」

 と厨房に一人入ってきた。

「あ、オツカレサマ。」

 ここのマスターの息子で、翔子と一緒にここでバイトしている壮太。翔子の二個上で、小学生のころから知っている。


「あの、そーちゃん、あのさー。」

「なんだ。」

「うちのママの葬式代、マスターに借りてたじゃん。」

「うん?気にすんな。出世払いでいいって前にも言っただろ。」

「なんか、親戚の人が、払ってくれるって。」

「えっ。親戚いたんだ。」

 うん、と翔子は頷く。壮太は手にしていたトレーを放り出す。

「えっ。やべぇ。親父が民生委員に連絡するとか言ってたぞ。待て待て。」

 壮太は店の電話にとりついた。

 壮太が話している間、翔子はコーヒーを入れる用意をしながら、喫茶店の店内を見渡した。二組だけ客がいる。

 マスターが半分趣味でやっているような店で、どっちかといえば、バリキャリの奥さんの稼ぎで続いているような店である。

 去年、腰を壊したマスターの手伝いで、壮太が週二でカウンターに立つようになって、なんと女性客が増えた。ちなみに、おととし翔子がバイトに入ってから、おじさん客が増えたらしい。

 なんだかんだで今は黒字経営らしい。めでたい事である。


「なんで今さら、民生委員?」

 電話の終わった壮太に聞くと、

「え?いやー。ここ、二階の部屋空いてるじゃん。翔が住んだらいいんじゃね?と思って。」

 元々壮太の一家が住んでいた2Kの間取りだが、子供たちが大きくなって手狭になり、一家は2ブロックほど離れたところに家を建てて住んでいる。今は二階は倉庫になっている。

 片付けたら、住めるようになる。

「一人暮らし物騒だしさ。ここに住んで店を手伝ってくれたら、なんか安心じゃん。でも親戚居たら勝手なこと出来ないからさ。ちゃんと相談してから。」

 ああ、壮太は見た目も男前だけど、中身も男前だなぁ。

「なんだ。泣くなよ。ほら、お客さんだぞ。お冷や出して。」


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