98話 『500階層RTA配信:下層』3
こちらは本日1回目の投稿です。昨日の2話目がまだの方は前話からお楽しみください。
「ごめんなさい」
「申し訳……ありません……」
僕は頭を垂れてえみさんに謝る。
えみさんもまた、顔を覆いつつ誰かに謝っている。
誰に?
……あ、ファンの人たちか。
そうだよね、アイドルさんだもんね。
一瞬でやばいこと口走っちゃったもんね……。
がんばって隠そうってしてたのにね。
まぁしょうがない、バレるときはバレるよ。
僕がるるさんに追いかけられたときみたいにね。
【草】
【ついさっき見た光景】
【そこにえみちゃんが加わっている】
【ああ……】
【悲報・えみちゃんもやっぱりちょっとおかしかった】
【あの高速詠唱が……ちょっと……?】
【さりげなくやばいことばっか言ってたような】
【ほ、ほら、ストレスとかあっただろうし……】
【げ、幻惑の罠とか!!】
【そうそう! いくらなんでもえみちゃんがまるで】
「えみちゃん……あとちょっとがんばれなかったの?」
「……ハル様のご自宅にお邪魔しているときの叫び声……」
るるさんがかわいそうなものを見る目でえみさんを眺めている。
九島さんは無言で頭を振っている。
リリさんは何かを思い出している。
もう絶望感しかないね。
ここダンジョンなのに、攻略関係ないとこで絶望しちゃってるね。
【えっ】
【るるちゃーん!?】
【悲報・えみちゃんのさっきの、るるちゃん知ってた】
【見た感じ、くしまさぁんもリリちゃんも】
【びっくりしてなかったからハルちゃんも】
【つまり?】
えみさんの真っ赤なお耳。
うん、さすがのヘンタイさんでも恥ずかしいよね。
「でも大丈夫です」
「……何がですか、ハルさん……」
でもさすがにかわいそう。
がんばって隠してきた性癖がこんなところで全世界公開とか……男として同情する。
だからちょっとだけお手伝い。
切り抜けられるかはえみさんの機転次第だ。
「配信とかのコメントもそういう冗談ばっかりですし」
「……え?」
「えみさん、るるさんに渡された漫画のセリフとかよく覚えてましたね」
【そ、そうだよな!】
【ハルちゃんがそう言うんだから間違いない!】
【ああ!】
【そうだよな! えみちゃんは真面目で凜々しくてみんなから頼られるお姉ちゃんだもんな!】
【え、えみちゃん、マジメさんだから冗談苦手だしさ!】
えみさんに再設定してもらったコメント欄。
多分事務所の人たちが必死でやってくれてる。
だから僕もがんばっていい感じに誤魔化して、
「え? ハルちゃん、えみちゃんいつもこうでしょ?」
あっ。
「る、るるさんっ!」
「なーに、ちほちゃ……あっ!!」
「あー」
あーあ。
せっかくごまかそうとしたのに……もうしーらない。
るるさんのばか。
【草】
【るるちゃん……】
【悲報・るるちゃんの方が天然さん】
【ああうん、この瞬間だけは紛れもなくそうだねぇ……】
【ハルちゃんがごまかそうとしてくれたのにこの子は……】
【ハルちゃんのとっさの機転でなんとかなりそうだったのに】
【もしかして:えみちゃん、やばい性癖持ち】
【えぇ……】
【ショック】
【強くてみんなの憧れなお姉さんだったのに】
【ままだったのに……】
【お前ら考えろ 世話焼きで凜々しくて頼りになっておっきいえみちゃんが、実は俺たちみたいな変態性を秘めていると。 しかもハルちゃんみたいな幼女に。 どうだ?】
【えみちゃんのファンクラブ、脱退申請しかけてたけどやめます】
【えみちゃんのファンクラブ、今入会しました】
【むしろ推せる】
【まじめな子が秘めてる変態性って】
【いいよね……】
【推】
【よし】
【草】
【現金すぎる】
【ついででノーネームちゃん釣られてて草】
【ま、まあ、えみちゃんの視聴者層とかがらりと変わりそうだけどいいんじゃない……?】
◇
「……では先に進みましょう……ハルさんの索敵によると……」
【めっちゃ落ち込んでるえみちゃん】
【そりゃあ、まあねぇ……】
【それでもパーティーを先導しなきゃ行けない宿命】
【せめて触れてあげないのが優しさ】
【何故】
【仲間】
【愛】
【称】
【誇】
【草】
【ノーネームちゃんが喜んでる】
【ノーネームちゃん、もうちょっと人間の機微を学習しようね?】
【さすがのノーネームちゃんでも恥ずかしいって言う感情は厳しいか】
えみさんのヘンタイがうっかりバレちゃって少し。
僕たちはえみさんの顔みたいに、まだちょっと赤くなってる通路の隅っこを進んで大部屋に。
なんか一部の人の靴が溶けちゃうんだって。
「うわぁ……」
「モンスターたちが結晶化してるけど……」
「手とか脚とか羽とかが散乱してる……」
「うっぷ」
【グロ注意】
【今さらだろ】
【いや、しかしこれはなかなかに厳しい】
【モザイク貫通してるもんなぁ……】
【一応よく焼けてるとはいえバラバラだもんなぁ】
【相当居たはずのモンスターたちの破片しか残っていないモンハウ】
【しかも壁も床も天井も赤く爛れててめり込んでます】
【やばいね】
【やべぇ】
【ハルちゃん……一体どんだけの威力込めたの……】
【一瞬で消し飛ばして、えみちゃんの件があってもまだ結晶化してないとか】
【モンスターが多すぎてダンジョンの処理が追いつかないんじゃ?】
【それだ】
「……は、ハルさん。 降りるあいだにどんなことをしたのか教えてくれますか?」
【くしまさぁん!】
【気まずすぎる配信に颯爽と九島さんが!】
【九島さん! 九島ちほさん!!】
【よっ! 救護班のアイドル!】
【草】
【ノーネームちゃんに作られてるちほちゃんの配信……同接も登録者もそこらの配信者を上回っちゃったねぇ……】
【くしまさぁんはハルちゃんたちの中でただひとりの常識人……逃がしはせん……】
「あ、そうですね。 九島さんも興味ありますよね?」
「え? え、ええ……」
階段に向かうあいだ、めぼしいドロップだけきちゃない袋に詰めていく僕に、この気まずい間を持たせるためか九島さんが話しかけてきた。
まだ結晶化してないやつは後続の人たちに任せればいいんだって。
僕が集めなくてもあとで戦利品にしてくれるのは素直に嬉しい。
「えっとですね、この部屋の中心近くに特大の地雷がありまして」
「え、ええ」
「で、地雷って上から周囲に爆発する罠じゃないですか」
「はぁ……」
「なので」
そのへんに落ちてた脚……にわとりさんのっぽいのを拾って、だいたいの場所を指して教えてあげる僕。
「あそことあそこ、あとあそこにあった爆風の罠とかを先に起動して落とし穴の罠を何個か起動して床を抜けさせて」
「床を」
「あ、ちゃんと爆風の向きとか計算しましたよ? なんか頭に浮かんだので」
「頭に浮かんだ」
「で、特大の地雷罠が落ちたタイミングで爆発するように……って感じです。 あとは流れで」
「流れ」
「はい」
【えぇ……】
【1発の銃弾でこんなことできるん??】
【実際できてるだろ】
【できてるやろがい!】
【なんでそんなドミノみたいなことできるのよハルちゃん……】
【ドミノって言うよりはハルちゃんスイッチよね……】
なんでだろうね。
多分昨日……いや、今回潜る前までの僕じゃ、いくら何でもここまではできなかったはずなんだ。
モンスターの数とか罠とか、自信持って断定できたのは下の階層までだし。
今のみたいに下の下の下まではっきりと分かって「こんな感じでやればピタゴラスなアレみたいになるかなー」って思えなかったもん。
……まーたこの体の何か……いや、レベルが上がった?
それでやけに眠かった?
まぁいいや。
落ち着いたら九島さんに聞いてみよっと。
【地獄絵図】
【その中を自慢気にとことこハルちゃん】
【にわとりさんのでっかい脚振りかざしてね】
【ハルちゃんだけを見ればほほえましい幼女の冒険】
【でも?】
【引きで見たら……なんだろ……】
【草】
【やっぱり災害じゃないか!】
【ああ、天災ってそういう……】
「じゃあここから」
「降りません」
「え?」
ぺいっとにわとりさんの脚をぽっかりと空いた地面に投げ捨てた僕は、前に出ようとしてわきの下がくすぐったくなったかって思ったらふわりと浮く。
「?」
あれ?
【かわいい】
【ここだけ見ても普通の幼女】
【くしまさぁんに脇抱えられてる幼女】
【くしまさぁんがハルちゃんのおっぱい揉んでるだって!?】
【ハルちゃんには無い。 二度と間違えるな】
【ごめんなさい】
【幼女原理派がここに居る……】
【草】
【ま、まあ、るるちゃんよりおっきいって思ったらららららららら】
【有】
【在】
【微】
【微】
【微】
【微】
【アッハイ】
【ノーネームちゃんは微乳派か】
【猛烈な微乳推しで草】
【草】
一応の最終話まで&その先を応援してくださる方は、おもしろいと思ってくださった話の最下部↓の【☆☆☆☆☆】を最高で【★★★★★】に&まだの方はブックマーク登録で最新話の通知をオンにしていただけますと励みになります。応援コメントやフォローも嬉しいです。




