92話 『500階層RTA配信:中層』4
「ハルちゃん」
「……今日は……その……」
そんな僕のそばに……いつの間にか来てる、るるさん。
あと、物陰に隠れて見てるリリさん。
うん、いつもの。
「1人で入りますからね。 今日も」
「でも」
「しかし」
「や、さすがにプレハブのシャワールームで2人も3人も狭いんですよ」
あと、君たち女の子だよね?
僕のこと、男だって知ってるよね?
呪い様もといノーネームさんから認識改竄とかされてないよね?
ね?
【ああああああ!!】
【今日ももったいなさすぎる!!】
【実況はなくとも声だけでも!!】
【この1週間、ずっと待ってたのに……!】
【毎日るるリリがぐいぐい行くも、華麗にNOを突きつけるハルちゃん】
【なまじハルちゃんが好きすぎて、ハルちゃんの意志を無視できないるるリリ】
【毎日この時間、視聴者たちの応援はこの2人に集中する】
【だって……ねぇ?】
【ああ……!】
【るるリリハルが開幕するかもしれないんだもんな】
【夢のトライフォースが……】
【百合が……】
【おねショタが……】
【とうとう1週間連続で頑なに拒否するハルちゃん】
【まぁねぇ……お家のお風呂とかとは違うしねぇ……】
【俺は見たかったんだ……ハルちゃんたちのお風呂を……】
【謎の白い光線でも湯気でも良い……俺はただ実況したかったんだ……】
【うう……】
【ハルちゃん……】
【諦】
【ノーネームちゃん……】
【そこをどうにか……】
【声だけ! 音だけ!!】
【謎の光線とか湯気とかあっていいから!!】
【non】
【そんなぁ……】
【草】
【ノーネームちゃんが愉悦に回ってて草】
【ノーネームちゃん、少ない語彙で言ってきてるもんな。 「もしハルちゃんたちが一緒に入ろうとも絶対にお色気は見せない」って】
【ちょっとくらい良いじゃん!!!】
【nicht】
【なによ!!!】
【不可以】
【ねえノーネームちゃん、お願いだからせめて言語は変えないで】
【草】
【ここまでがこの1週間のテンプレ】
【ノーネームちゃんと視聴者のじゃれあい】
【まさかこんなことになるなんてな……】
【ああ……】
【うん……いろんな意味でね……】
◇
「……………………………………」
「ん――……ハルちゃん……」
「ぐっ……」
「すー……すー……」
「………………………………」
テントの中。
聞こえてくる寝息は4人分。
るるさん、ヘンタイさん、九島さん、リリさん。
真っ暗闇……だけども索敵スキルのおかげでテントの外も、僕だけにまる見え。
寝息しか聞こえない……けども、索敵スキルのおかげで外の音が聞こえる。
……家とかならスキル切って寝るけど、ここはダンジョン。
できないよね。
だからかな、昼間あれだけ眠いのって。
寝てるあいだもずっと警戒してるから?
や、でもそれなら初日からってのは変だし……うーん。
でもあれだけ寝ても多分すぐに眠くなって……朝になってるるさんに抱っこされて起きるんだろうなぁ。
なんでだろ。
精神的ストレス?
かもね。
だってさ。
――報酬が「泉」なんだ。
これだけたくさんの人たちが協力してくれてるってのもあるけども、何よりも僕が求めてるのはそれなんだ。
願いの泉。
願い。
るるさんが「普通の女の子」として生きること。
僕は、普通の男子として無事に大学も卒業できたし会社にも入れた……クビになったけどね。
でも、それまでの人生は僕の好き勝手にしてたようなもんだし、後悔も……いっぱいあったけども、でも「僕が選んだ人生なんだ」って納得できた。
やなことも悲しいこともあった。
でも、それは僕が平和に過ごして平和に悲しんだだけだ。
るるさんみたいに、呪い様……ノーネームさんに付きまとわれるのは違う。
……明日。
明日から、僕は前線に出て攻略組に加わるんだ。
……るるさんたちも、加わるんだ。
じゃ、この1週間守ってもらった分は返さないとね。
「……んぅ……」
「……ん」
抱きしめられる感覚。
……るるさん、寝相悪いからなぁ……。
暗闇の中、索敵スキルで赤外線モードにするとはっきり分かる、るるさんの寝顔。
……こんな女の子が、これまで……10年くらいの人生を、めちゃくちゃにされてたんだ。
コメントのみんなは「ノーネームちゃん」とか呼んで戯れてたけども、僕は心を許せない。
だって、こんなちっちゃな子をいじめてた存在なんだ。
許せないでしょ?
「ん―……んへへ……」
寝てるときも人とくっついてたいタイプのるるさんのほっぺが僕のほっぺにくっつく。
……うなされたりしてないのだけが、安心できるけど。
「……………………………………」
簡易テントのてっぺんを見上げる。
――ノーネームさん。
僕は……この子を、必ず幸せにするからね。
ん?
なんかちょっと表現がおかしいかな……まぁいいや、どうせさっきまで読んでた小説の表現なんだろうし。
◇
【 】
【 】
【 】
【 】
【500階層RTA――下層、開幕】
【だーからやめーや】
【ノーネームちゃん……夜中にいきなり宣言するのやめよ?】
【今は午前2時……丑三つ時ってやつなの】
【静かにハルちゃんその他の寝息を楽しんでた俺らを地獄に突き落とさないで……】
【人間ってね、精神的ストレスで心臓……コアにダメージ受けるのよ。 分かる?】
【理解】
【えらい】
【かわいい】
【ハルちゃんとお揃い!】
【照】
【難易度1%↓】
【ノーネームちゃんかっわいー!】
【だからもうひと声!】
【否】
【草】
【なんか毎晩ノーネームちゃんとこういうやり取りしてるよな】
【なんだかんだで何%かは下げたな】
【優しいようでいて渋いノーネームちゃん】
【構ってほしいんだろ】
【そこで全力で構うのが俺ら】
【嬉】
【だろ?】
【えぇ……】
【草】
【ノーネームちゃん……ハルちゃんにここまで執着してなかったら普通にかわいがれたのに……】
【しょうがないよ、きっとハルちゃんラブで顕界したんだよ】
【きっとそうだよ】
【あ、そういやさ、例の不幸なの】
【誰よそれ】
【るるちゃん?】
【今はノーネームちゃんの興味がハルちゃんだからセーフでしょ?】
【あ、ハルちゃんを見習ってダンジョンに潜ったヤツ】
【そのあとハルちゃんを見習って配信とか連絡オフにして修行してた変態】
【自分からパーティー追放されたちょっとおかしいの】
【アイツさ、ようやく気づいたらしいんだわ……「自分が閉じ込められてる」って】
【ああうん……全国のダンジョン、今は物理的に入り口でロックされてるもんねぇ……】
【草】
【そいつ大丈夫なん?】
【ああ】
【なんかな、協会側も完全に見過ごしてたみたいでさ】
【そいつ、田舎のダンジョンに潜ったもんだから……】
【しかもハルちゃんの完全再現で一切の連絡断ってた結果、この事態を知らなくて今さら知って】
【リストバンドで脱出してもダンジョンの敷地内から出られなくなってる】
【お馬鹿かな?】
【草】
【おい、それだとハルちゃんもお馬鹿になるぞ ちょっとおかしいと言え】
【はーい】
【ちょっとおかしい(隠喩】
【悲報・ハルちゃんの真似をしたらダンジョンに閉じ込められる】
【かわいそすぎて草】
【ロック外す人、明日着くんだってな】
【かわいそうで草】
【もはや草しか生えない】
【で、しょうがないから野外でハルちゃんの配信実況っていうね】
【草】
【そもそもなんでこのダンジョン潜ってないのにそいつの配信ONになってるのよ】
【さぁ?】
【ノーネームちゃんの粋ってやつじゃ?】
【ノーネームちゃん……やっぱり普通に恐ろしい子……!】
【今さらだな】
【ハルちゃんがちょっとおかしいやべー幼女ってのと同じくらいにな……】
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