90話 『500階層RTA配信:中層』2
ぱちぱちと焚き火のはぜる音と匂いと光を満喫している僕の耳に、みんなの真剣な声が聞こえる。
「……残りは300階層です。 これをあと7日となると」
「単純計算では50階層ずつになりますね。 最初の3日の……当初の予定どおりの攻略速度ではありますが」
「そうだよね、今日なんて何階層しか進まなかったもんね……」
「やはり深く潜るほどにモンスターも強くなりますし……単純にワンフロアが広くなっていますからね……」
【想定以上でした……ええ、私の国でもここまでのものはなかなか……】
そういやリリさんの国、なんでもホットスポットっていうやつで異様にレベル高いダンジョンが出没するらしいね。
だからこそリリさんも25とか、日本に住んでたらそれだけで困らないだろうレベルがあるんだとか。
世界って広いね。
日本はホットスポットじゃないからダンジョンのレベル……質は「並み」らしいし、僕ももっと強くなったら海外のそういうとこ言ってみたいなって思う。
でも海外はめんどくさいからやっぱいいや。
「ええ……500階層のうちの200階層と言えば浅いように感じますが、この前のハルの攻略も250階層から200階層でしたし、そもそも上位層でも200階層を超えるのは稀。 ……分かっていたつもりではありましたが、感覚では分かっていなかったんですね」
えみさんはいつでも真剣。
テントに入って寝るとき以外は基本的にみんなの付けてるカメラとかが止まらないってこともあって、この1週間えみさんは禁欲生活もといヘンタイさん成分を隠し続けている。
……無理してそうだけども解消してあげられない僕を許してね。
その感覚はよく分かってあげられるんだ。
男だもん。
元。
まぁ最近はすっかり幼女しててそういうのも忘れてるけども、いずれ戻るから多分また分かるようになるはずだ。
【えみお姉ちゃんの反省が鋭い】
【ほんとまじめだねぇ】
【実質リーダーだからね】
【リーダーはハルちゃん……じゃないよね】
【うん、えみちゃんだよね】
【ハルちゃんはマスコットだもんね。 ダンジョン攻略の】
【マスコット(爆裂天使】
【思い出させないで……忘れたいの……】
【分かる】
【ハルちゃんを勝手に動かしちゃだめなんだ……】
【ハルちゃんは静かにもぐもぐしてて……お願い……】
こりこりっていうキノコの食感を味わいながら考える。
僕にはよく分かんないけども、このダンジョンは日本の一般的な基準に照らし合わせると「低難易度ダンジョン」らしい。
少なくとも、低層のうちは。
だから国内トップさんたちならイケイケかとも思ったけど、100階層超えた辺り……3日目から急に大変になったらしい。
低層は低難易度、数十階層までは中難易度……そこからは高難易度なんだって。
「らしい」ばっかり?
だって僕、ほとんど寝てたもん。
よく分かんないけどもとにかく眠いからなぁ……この1週間、毎日15時間とか18時間とか寝てたし。
この体、幼女なもんだから寝ようって思えば普段からも眠れるんだけどね……やっぱちょっと何かおかしい気がするなぁ。
まだ違和感のことあんまり言ってないけど、もっとひどくなったら九島さんに相談しよっと。
【普通に超高難易度よね、ここまで来ると】
【そもそも200階層で折り返しにすらたどり着いてないって】
【大前提として国内のダンジョンなら250階層が限度だったし……】
【調べてみたら全世界でも100は行かないのね、300階層超えてるダンジョンって】
【単純に面積が広い分、海外の方がレベル高いって言っても、やっぱ250階層ってだけで相当強いし】
【国内じゃ新しくできたここと、ハルちゃんがかつて潜ったって言うとこだけらしいしなぁ……最近の300階層超え】
【ああ、あのダンジョンな。 協会が調査に入ったけど、入り替わりが終わったからか100階層止まりになっていたそうだ】
【えぇ……】
【ま、まあ、アーカイブからハルちゃんの攻略自体は本物だってことらしいし……】
「けぷ」
む。
もう胃袋がいっぱいになったらしい。
こうやってつっかえた感じになるともう食べられない。
肉体的な限界って言うのを強く感じるんだ。
【かわいい】
【そういやみんなが話してる中ずっと食べてたもんな、ハルちゃん】
【いっぱい食べる君が好き】
【もっといっぱい食べて……】
【食べて……いや本当に】
【強い風吹いたら飛ばされちゃいそうだもんね、ハルちゃん……】
【実際にるるちゃん助けたとき、上の階層までぶっ飛んだもんな】
【思い出したら草】
【草じゃないんだが】
【いやまあこうしてケロっとしてるし……】
「ふぅ」
ちょっと食べ過ぎたかな。
【おなかさすってるけど、食べてる量は少ないんだよね……】
【みんなの倍の時間使ってみんなの半分だもんね……】
【うん……おんなじ量よそったるるちゃんがとっくに食べ終わって、ハルちゃんのはまだお椀の底が見えないもんねぇ……】
【ガチで幼女だもんなぁ】
【もしかして:ハルちゃん、貧乏だからダンジョンで自活しておなかいっぱいにしてた】
【胃袋ちっちゃいからそれで満足してた】
【ぶわっ】
【なにそれ悲しすぎる】
【よし、ハルちゃんが返さない程度の投げ銭だ】
【これはカンパなんだ、ハルちゃん……とお父さんのためのおいしいごはんのための……】
【気をつけろ、無闇に投げ銭してもノーネームちゃんが突っ返してくるぞ】
【ハルちゃんが言った「返金してください」を忠実に守ってるノーネームちゃん】
【かわいい】
【忠犬】
【犬?】
【そうそう】
【草】
【ノーネームちゃんは犬属性だった……?】
【いや、あの嫉妬具合は猫だろ】
【猫はハルちゃんでしょ?】
【そうだった】
【まぁいいじゃん、猫と犬でも猫同士でも】
【それはそれで……】
まだお椀にキノコが浮いてるスープ。
……もったいない。
けども、今の僕の胃袋は満席だ。
「……ハル様、もういっぱいですか?」
「ごめんね、あんまり食べられなくって」
「とんでもありません! ハル様に味わっていただけてハル様の血肉になるのでしたら光栄です!」
【草】
【リリちゃんのお熱がすごい】
【ハルちゃん一直線だもんな、ダンジョンに入ってずっと】
【なんかリリちゃんの表現ちょっと怖……待ってください僕はただ事実をををををををををををををををを】
【あーあ】
【また尊い命がノーネームちゃんに……】
「……………………………………」
【そしてそのやりとりを沈黙で眺めるるるちゃん】
【るるちゃんこわいよー】
【でも最初の頃よりは怖くない】
【ああ……今はただ見てるだけだからな……】
うん。
るるさん、前ほどじゃないけども「僕って言う妹的存在を取られた!」って視線送ってくるよね。
実年齢と実性別じゃ、なるとしても兄的存在なのにね。
リリさんが「残すのなら代わりに私が」って言うからお椀を渡す。
そういえばいつも捨てるからもったいないけど「無駄にはしていません」って言うし、諦めとこ。
それはどうでもいいけども、やっぱりこのペースの落ち方はまずいよねぇ。
ん――……まだ魔力は10くらい。
1000のうちの。
や、ただの感覚だけどね……ほら、HPとかMPとか表示する機械って稀少だし。
「……ハルさ……ん」
「明日から僕もですか、えみさん」
おずおずって感じのえみさん。
この子も幼女に対するのさえなければ九島さんと同じくらいまじめだからなぁ。
【えっ】
【ああ……】
【悲報・俺たちの安寧はもうおしまい】
【分かってただろ……諦めろ】
【そうだね……ハルちゃんが動かざるを得ないってことはね……】
キャンプをしてる人たちを眺める。
みんなは最初とは違ってうつむいてるか横になってる。
僕たちが珍しくなくなったのか、それともダンジョンの険しさで疲れてるのか……たぶん両方で士気は落ちきってる。
【しかし本当にこのダンジョン……何?】
【最初からうすうす思ってたけどさ、難易度高すぎない?】
【まずもってワンフロアごとがバカみたいに広いし、罠も多いしモンスターの数も多い】
【しかもモンスターも色違いとか行動パターンが違いすぎて経験が当てにならない】
【しかも時間制限ありで心理的に焦ってる】
【しかもしかもダンジョンの規模と難易度に比べて攻略人数が少なすぎる】
【もしもしノーネームちゃん?】
【不可】
【ちぇー】
【草】
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