85話 『500階層RTA配信:低層』4
眠かったけども、いつまでもるるさんに抱きつかれてても重い。
がんばって体起こしてるうちに眠気が醒めてきた。
眠気覚ましにはお役立ちだね。
「良かったよねー、今日は予定どおりで」
「はい、想定されていました想定外の挙動などもありませんでした。おかげで戦力は完全に温存できています」
「へー」
そういや九島さんが腕に「救護班」っての付けてるね。
何気に貴重かも。
【けどつまんなくない? もっといいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい】
【だからやめーや】
【だーから絶賛ハルちゃんプロデュース中なノーネームちゃん怒らせるなって】
【ま、まあ、ハルちゃんの活躍は後半に】
【そうそう、主人公は遅れてやって来るからさ】
【でもハルちゃんが動き始めたら……】
【ああ……】
【外野はおもしろいけどね……】
【ま、まあ、どうせそのうちなるからさ……】
【ああうん、ハルちゃんが目覚めたらそうなるよね……】
階段の真ん中くらいに張られてる斜めったテントから、ぴょこっと顔を出してみる。
「「「………………………………!!!」」」
「?」
数秒前まで騒がしい感じだったはずなのに、なんかみんな静かになっちゃった。
なんで?
「……?」
【草】
【一瞬で全員が振り返ってて草】
【だってみんな、ハルちゃんをひと目でも見たかったはずだし】
【最後尾で代わる代わる眺めに来てた女性陣はともかく、攻略組とか荷物持ちの人たち、ハルちゃん近くで見てなかっただろうしなぁ】
「……あれが……!」
「見て……超かわいい……!」
「ほんとに綺麗な金髪なんだ……」
「あ、頭の上の……」
「本当にお姫様みたい……」
「でもその中身は」
「ああ……」
「多分俺たち全員で掛かっても……」
「いや、それはさすがに」
「分からんぞ。100メートルくらい離れていても負けそうな遠距離スキルだし……」
「あれがリアルの師匠……」
「鍛えてもらいたい……」
【注目度がやべぇ】
【だってハルちゃんだよ?】
【ハルちゃんだもんなぁ】
【ハルちゃんだし】
【ここに居る全員がハルちゃんのために来てるわけだもん、そりゃこうなるわな】
「わ、すごい。……うぅ、見てるのはハルちゃんって分かってても気になるぅ……」
「ここまで人が注目するのはライブくらいですからね……」
「ですからえみさん、うっかりには気をつけてくださいね」
「大丈夫だ、問題はない」
「本当でしょうか……」
【るるちゃんもじもじ】
【そういや救護班のポニテっ子もるるちゃんたちと一緒か】
【うっかりってなんぞ?】
後ろを振り返ると、るるさんたちがくっつきながらひそひそひそひそ。
……特に止められないってことは、別に出歩いてもいいってことだよね。
「んーっ」
テントから出て、立ち上がってのびーっ。
寝起きって気持ちいいよね。
「ぷはっ」
やっぱダンジョンの中の空気って良いよねー。
しっとりしてて、洞窟の中って感じ。
「あっ……」
「はうっ……」
「●REC」
【●REC●REC●REC●REC●REC●REC●REC●REC●REC●REC】
【ノーネームちゃん落ち着こ?】
【ほら、撮影ドローンで至近距離から撮ってるじゃない】
【もう完全に飼い慣らされてるノーネームちゃんで草】
【でも気をつけろよ、変なこと言うと二度と戻ってこられないぞ】
【どうしてそんなこと言うの!!】
【怖いこと言うの止めて】
【こわいよー】
【ひどい!】
【「かわいい」って言うだけで戦々恐々になる配信か……】
【草】
「ふぅ」
ん、良い匂い。
匂いの元を辿ってみると、どうやら広めの階段の上で……え?
「……パスタ?」
「はい、ハル様」
「あ、リリさん」
ガスコンロとか鍋とかの周りに居たリリさん、あとリリさんの付き人さんたち。
「ダンジョン攻略は、レトルトや乾物ばかりでバリエーションに欠けますよね。ですから私の国で開発されました、ダンジョンの魔力に反応して煮炊きできる商品です。食事関係の新製品を持ってきてちょうど良かったです」
「はぇー」
ぐつぐつ煮立ってるお鍋からは良い匂い。
ぐぅ。
そして鳴る、僕のおなか。
……確かに何時間も寝てたっぽいね。
「問い合わせましたら『宣伝になるから』と全て無償でご提供します! 試食会です!」
「わー」
「無料です!」
「おー」
「ふふんっ」
どやぁっ。
リリさんがごきげんだ。
分かる、故郷の料理とかが褒められると嬉しいよね。
【リリちゃん、めっちゃどや顔】
【だってハルちゃんに自慢できるもんね】
【リリちゃんのハルちゃんへの好感度は最初からMAX】
【るるちゃんは?】
【振り切れてる】
【ノーネームちゃんは?】
【それはちょっとノーコメントで……】
【なんか怖いし……】
【草】
「あと10分ほどで食べられますので、るる様たちもご一緒に」
「良いんですか?」
「ええ。みなさん、グループごとにばらけての食事ということですから。すでにいくつかの部隊の方々には食べていただいています」
鍋の中は……パスタだ。
パスタ。
ダンジョンの中で、あったかいパスタ。
普段はおにぎりとかしか食べないから新鮮だ。
すごくおいしそうな気がしてきた。
「生鮮食品も、サラダなど生の状態で早いうちに食べてしまわなければ……ですので、少食のハル様はパスタ少なめをおすすめします」
「確かに……でも、あれ? 確か僕のきちゃない袋は――」
「そちらの分は保存が利きますし軽いそうですから、まずは私たちが運んだ分から……ということで」
「あー、なるほど」
普段は僕ひとり、そもそも食べものにこだわりがないもんだから普通に買い込んだのをもそもそ食べるだけだったから……なんだか楽しい。
【そうだよなぁ……ダンジョンの中でこんだけ料理してる光景は珍しいよなぁ】
【普通はないもんなぁ】
【持ち込める食材の量とか警備のための人員とか考えると普通は無理よね】
【豪華すぎる】
【泊まりがけの攻略配信じゃ、弁当とかカップ麺とかコンビニ飯、ゲート前の保存食とかの話題で盛り上がるけど】
【まさかダンジョン配信で普通に調理されてるのを……しかもでかい鍋でパスタ茹でるのとか見られるだなんて……】
【ていうかハルちゃんのきちゃない袋以外でこれだけ運んできたの、すごない?】
【攻略部隊そのものがかなり収納袋持ってきたらしいのもあるけど】
【リリちゃんとSPさんっぽい人たちもお高い収納袋持ってるんだな】
【ほんとリリちゃん、何者よ……】
【ノーネームちゃんの爆撃を耐えた俺は分かる リリちゃんの正体に踏み込んではいけないと】
【あ、生還者】
【死んでねぇよ!? ただちょっと……分かった分かった! 黙ってるから2度目は勘弁してくれ!】
【草】
【生還者は語らない】
【生還できたのか……すごいな……】
【ああ……語らないタイプだから生還できたんだな……】
【一体何を見せられたのか いや、良い 聞いたらなんかされそうで怖いもん……】
【臆病者こそ生き残るってね】
【草】
◇
「……んー」
「……ね、ねぇハルちゃん……」
「さ、先ほどから一体何を……?」
「や、ちょっと……んー」
あっちの岩陰に行き、なくってしょんぼりし、こっちの岩陰を目指す。
「これ」については探知スキルが役に立たないんだよなぁ……ここ、人がすごく多いのもあるしさ。
【草】
【早速るるちゃんとリリちゃんが怖がってる】
【起きて早々に何かし出してるハルちゃん】
【幼女らしくダンジョンの中歩き回ってるだけじゃなかったのね】
【テントから出てきてとことこ歩き回って、壁の方に歩いてるのをみんなでほほえましく眺めてただけだったのに……】
【やっぱり畏れられるハルちゃん】
【だってハルちゃんだし……】
【階段の上の、討伐済みのボスフロア……もうモンスターがポップしないとはいっても、たくさん人いるのに……】
【そのことごとくの視線がハルちゃんに集中している】
【さっきまで談笑してたのが静まりかえってる】
【ハルちゃんが出てきて静かになって、慣れてきてまたにぎやかになったところでてくてくし出したもんだから、もっかいしんとしてる】
【草】
【だってハルちゃんだよ?】
【そうだね、ハルちゃんだもんね】
【座って警戒解いてたのに、立ち上がって装備し直してる人居て草】
【えらい】
【かしこい】
【だってハルちゃんだし……】
【動き出すだけで全員から警戒される幼女……それがハルちゃんだ】
【だってハルちゃんだよ?】
【ハルちゃんwithノーネームちゃんだもんな!】
るるさんたちがまとわりついてきてるけども、気にせずに探して回る。
「……んー」
食べものとかってさ、意識しないと別にどうでもいいやって思うけども、意識するととたんに何が何でも食べたくなるよね。
ほら、夜にふとカップ麺とか食べたくなってコンビニに行くみたいな感じで。
「んぅー?」
けども、普段ならこういうとこにあるんだけどなぁ……お。
「あった あった」
僕はほっこりした。
嬉しい。
ほくほくだ。
……む、結構あるね。
このフロアではまとまって生えていたのか……通りで見つけづらかったわけだ。
「だからハルちゃん、何してるのって……教えてぇ……」
「あ、そうでしたね」
「ハルさん、もう少し他人との会話を重視してくださいね……」
【るるちゃんの腰が引けてる】
【なんかこわいもん……】
【草】
【救護班ちゃんから指摘されてて草】
【うん、ハルちゃんってば協調性ないもんね……】
【完全にゴーイングマイウェイ】
【そこがかわいいんだけどね……】
【やはり……野良猫……】
【今が楽しい幼女だからねぇ】
階段はセーフゾーン。
だからそこには何も生えない。
だから僕は上のフロアのここにきたんだ。
こういうところにはだいたい生えてるから。
「そういうことです」
「ハルちゃん?」
「あ、しゃべってませんでした?」
「うん……」
……僕、しゃべったつもりでこうなること、よくあるなぁ……るるさんとかはいつも考えてることが口に出てるから、なんか違和感。
【草】
【あ、なるほど ハルちゃん、頭の中だけで会話するタイプか】
【分かる】
【俺の同類だったか】
【まさか頭の中に直接……!?】
【それができたら苦労しないだろ?】
【草】
【そんなテレパシー使われた日には、ハルちゃんの雑多な声が頭の中に響き続けるぞ?】
【何その24時間ASMR】
【いい……】
【ほしい】
【でも頭の中ぐちゃぐちゃにされそう】
【うん……壊されるか馴染むかのどっちかだろうね……】
【希望?】
【やめて】
【やめて】
【やめてちょうだい!!】
【ノーネームちゃん、これは冗談って言うものなの……真に受けないで本当にお願い、万が一それをされたら人類滅んじゃう】
【草】
【ダメだ、ノーネームちゃんが居る限り冗談も言えない】
「よっ……と」
あ、結構しゃがんでたみたいで脚がちょっと疲れてる。
それだけ採ってたのか……夢中だったもんね。
でも、ほら。
「キノコ採ってたんです」
僕はるるさんへ戦利品を見せびらかす。
「えっ」
「……キノコ……?」
【草】
【キノコ】
【キノコ採りのハルちゃん】
【なんでそんなこと今してるの……?】
【わからん】
【分かってたまるか】
【分かったら人間卒業だよ】
【分かったら幼女になれたりする……?】
【草】
「ほら、これ」
「ひゃあっ!?」
両手にわさっとキノコを見せる僕に、飛び退いたるるさん。
見た目はちょっとアレだけど、おいしいんだよ?
「ハ、ハル……ダンジョン内の植物は毒性が強くてですね……」
ぎょっとして後ずさるえみさんは、何気にレアな感じ。
「いえ、何種類か平気なのあるんですよ 例えばこのマイタケっぽいやつ。これは普通に舞茸です」
「ちょ、ちょっと見た目怖いんだけど……」
色と曲がり方とサイズとぼこぼこしてる具合は、確かに知らないと不気味だし気持ち悪いかもね。
でも、大丈夫。
ダンジョンの特産品だからさ。
「そのままはさすがに怖いですけど、焼いたり煮たり揚げたりすると、普通の舞茸って感じでおいしいですよ?」
「……おいしいの?」
お、差し出した舞茸っぽい何かをるるさんが――なぜかへっぴり腰だけども、手に取って――
「るる、待ちなさい。ハルの内臓が特別かもしれません。ハルさんの手も特別かも……手で触れるのも危険かもしれません」
「あっ」
「えー」
……えみさんに、取られた。
取り上げられた。
僕はしょんぼりした。
【草】
【純真なるるちゃんからキノコ取り上げるえみお母さん】
【まま……】
【ハルちゃんはまだしも、なんでるるちゃんもおいしいって言われてダンジョン産のキノコ、ためらいなもく手に取るのよ草】
【見た目、エグい……エグくない……?】
【ハルちゃんは、それを素手で持ってたし……】
【だってるるちゃんだし……】
【るるちゃんと来たら無警戒で触ったものに虫とかが着いてて大騒ぎするって定番だしなぁ】
【ああうん、ハルちゃんショックの前までのるるちゃんはそういう子だったねぇ……】
「食べてみないと分かりませんよ?」
「そうそう、ものは試しだよえみちゃん」
「食べた結果、食中毒になったら大変です」
お、2対1。
るるさんは良い子だね。
「僕は平気ですよ?」
「ハルちゃんは平気そうだよ?」
ほら、るるさんも乗り気だよ?
「……平気なのはハルだけかもしれないと思っていてください。いろいろと……ハルが特別なだけかと」
「むぅ、おいしいのに」
「おいしそうなのに……」
こういうときに頑固なえみさん。
なんでこういうときだけ常識人になっちゃうんだろうね。
【むくれてて草】
【るるちゃんもめっちゃ乗り気で草】
【ハルちゃん、だんだん人間っぽくなってきたね】
【ちゃんと感情の起伏とかあるんだね】
【かわいいね】
【幼女だね】
【そうか、子供はなんでも口に……】
【おい、ノーネームちゃんの教育に悪いぞ?】
【そうだった、ごめん】
【草】
【あ、ハルちゃん、えみちゃんから返されたキノコ、きちゃない袋にしまってる】
【草】
【草】
【結構丁寧にしまってて草】
【大切そうで草】
【あとで食べるつもりなのか……】
【えぇ……】
【ハルちゃん的にはごちそうなんだね……】
【う、うん、キノコ嫌いな子供多い中じゃえらいから……】
【キノコを拾い食いする幼女が偉いか……?】
【どっちかっていうとやばい】
【絵面もやばい】
【※特殊な訓練を自主的にした幼女以外はお控えください】
【草】




