77話 『ハルちゃんの初めてな雑談配信』3
「みなさん、すみません。話が……事前に用意していました台本が役に立たない程度には最初から流れが……いえ、その最初すら破壊されて、対応が追いついておらず……」
【えみちゃん、おいたわしい……】
【結局いつものえみちゃん】
【るるちゃんのお世話してるえみお母さんだ】
【今はさらにハルちゃんのお世話もあるもんな】
【それはハードワークすぎるな……!】
僕たちだけじゃ話が進まないからって、ぐいっと割り込んできたえみさん。
僕は今、挟まれている。
右にリリさん、左にえみさん――後ろをるるさんに。
完璧すぎるフォーメーションだね。
でも……なんで?
「?」
「ハルちゃん」
「なんですか」
「逃げちゃダメだよ」
「逃げませんけど?」
【信用されてないハルちゃん】
【そらそうよ……】
【前科2犯だからね】
【ハルちゃんだからこうなるって知ってた】
【知ってた】
【ここまでしても逃げ出す可能性が】
【草】
【ハルちゃん包囲網か】
【百合!!!!】
【トリプル……いや、クアドラル百合だぞ!】
【ああ……ここが極楽か】
【美人×2&かわいい子に挟まれる美幼女】
【でもリリちゃんいいの? 一般人だし、上位陣の匿名枠だったんじゃ?】
【概要欄に書いてあるだろ? 「プライバシー保護のため特定できない程度に加工してあります」って】
【え、でもハルちゃんのお顔】
【ハルちゃんのだけ解除されてるとか?】
【あー】
【リリちゃんは落ち着いてるあたり、そうなのか】
【なるほど】
【そっか、じゃあこのまま愛でていいんだな】
【それでも並みの配信じゃ太刀打ちできないレベル】
【俺もうここまででいいや】
【これ以上はちょっと持たない】
【ああ……尊すぎて動悸が】
【早まるな、もっと過激な展開が期待できるぞ】
【元気出てきた】
【もう大丈夫】
【こいつら即物的すぎる】
【動悸が活発になったよ!】
【それはまずいのでは……?】
【草】
でも、そうだよね。
配信前に台本とか説明されて、いろいろ話すお題を選ばされてメモまで手元にあるのにどう考えても使い切れないもん。
「むぎゅ」
「……るる、ハルが潰れてしまいますよ」
「えみちゃんが重いんじゃないの?」
「んなっ!?」
「私は良いですよね? ハル様? 軽いですよね?」
「あの、僕ちっちゃいから潰れちゃうんですけど」
重い。
暑い。
柔らかい。
圧死しそうだ。
【ハルちゃんおしくらまんじゅう】
【何この天国】
【3人がハルちゃんを取り合っている……!】
【百合天国】
【ハルきゅんのおねショタ空間!!!】
【お、姉御が生き返ってる】
頭の上からはるるさんの両腕とあご、あと、たぶん胸みたいなの。
右からはリリさんの控えめな体重に、甘い香りとこしょばゆい銀髪。
左からはえみさんの柔らかいのがもっちもち。
うん。
……うん。
【あきれ顔のハルちゃんぺろぺろ】
【声の感じからいつもこんな目つきだって思ってた】
【半目で俺のことを……ふぅ……】
【開示?】
【姉御ステイ】
ピックされたコメントをちらちら見てるけども……そういえばこれ、僕の顔出し配信ってことになるんだよね?
配信機材の加工と僕の隠蔽スキルで「よく似てる別人」なはずだし、そういうイベントって思ってもらえたら、それで。
今回だけ協力してもらってるリリさんも含めてそうしてもらってるんだし、別にいっか。
◇
「……そうですね。何もない日は本だけ読んでます」
「でもハルちゃんってよく寝落ちしてるよ?」
「睡眠の直前に読んだ内容は記憶に残りやすいので良いんです。あと気分転換にもなりますし」
「この前タブレットの中の本棚を見せてもらいましたけど……すごい数を読んでいるんですよね、ハルさん」
途中から仕切ってくれてるえみさんのおかげで、内容は完全に雑談ってやつになってる。
ちなみになぜか隣に座って軽く体重をかけてきてるリリさんは、あんまり話さないでただニコニコしてるだけ。
なんでだろ……まぁ良いけど。
人の話聞くのが好きなだけなんだろう、きっと。
【ハルちゃん、読書少女】
【読書少女……ベッドで寝っ転がって……ふぅ……】
【寝落ちして……ふぅ……】
【ハルちゃんの属性多すぎない?】
【嫌いか?】
【大好物だけど?】
コメントの方も、事務所さんが最初に「こういうのがくるから」って言ってくれてたのになってきてる。
分かってるのって楽で良いね。
【どんな本読むの?】
「だって、ハルちゃん」
「本ですか? えっとですね」
あー、楽ー。
みんなが全部やってくれるから本当に楽。
これなら配信ってのも……や、やっぱめんどくさい気がするから今回限りで。
僕はクラスの隅っこどころか、学校の隅っこでこっそり厚い本読んでるのがお似合いなんだ。
「このへんですね」
「ハルちゃんのそれって電子リーダーってやつなんだよね?」
「はい。上位機種です」
「スマホでいいのに」
「スマホだと目が疲れません?」
【疲れる】
【分かる】
【学生のうちだけだぞ、目が健康なのは】
【しかしマジで本好きなんだな】
【<URL>3万くらいのお高いのだね、ハルちゃんの電子書籍リーダー】
【でもごめん、画面ちっちゃくてあんま見えない】
「あ、だいたいこのへんは先月の売り上げランキングの上の方のです」
「そっか、だから小説とか漫画とかビジネス書ってのとか、全然違うジャンルの読んでるんだ」
「全部一緒くたですね」
「いろんなものに興味があるんですね」
「いえ、すぐに読むのがなくなっちゃうのでとりあえず買うんです。合わない本でもとりあえず読みますし」
【このロリ、ガチの読書好きだった】
【読書幼女】
【そこは文学女子だろ】
【文学少年……】
【だからショタ推しは好きにしてろって言ってるだろ草】
【躁鬱激しい姉御で草】
「これって読みっぱなしでも電池2日くらい持つのでスマホとかより便利なんです。だからダンジョンで寝泊まりするときは、何冊か新しい本入れて毎回持ち込んでます。あ、充電器も持って行くのでその気になれば1週間くらいは平気ですよ?」
ふふん。
みんなダンジョンで夜更かししないらしいから、ここだけは僕の得意分野なんだ。
【草】
【えぇ……】
【どや顔ハルちゃんかわいい】
【なんでそこでどや顔なの……】
【どこかに誇らしいポイントがあったんだろう……俺たちには分からない何かが】
【ああ、ハルちゃんの感性は独特すぎてもうよく分かんないし……】
【草】
「だからピクニックなんです」
誰か分かってくれないかな、この感覚。
「ごめん、その感覚は分かんない……」
「すみません、私でもさすがに……」
「えー」
分かってくれなかった。
【総ツッコミで草】
【良かった……俺たちの常識は正常だった……】
「あ、そういえばこの本なんですけどね。学者の先生が出してて読みにくいんですけど、モンスターの生態が細かく書かれてて勉強になりますよ」
【本とダンジョンのことになると急に生き生きしてくるハルちゃん】
【かわいい】
【普段ゆっくりしゃべるのに、こういうときだけ急に早口なのかわいい】
「……ハルさん……いつもダンジョンのことばかりなんですね……」
「えみさんたちだって攻略の研究するでしょ?」
「それはそうですけど……」
「ハルちゃんすごいよね。1時間2時間、難しい本も平気で読んでるもん。気が付いたら寝ちゃってるけど」
【研究熱心な天才とかついていけない】
【感覚肌かと思いきやガチガチの理論派でもあった……?】
【大丈夫、この前の配信で、ハルちゃんの説明力は致命的にないって判明したから】
【ああ……!】
【草】
【説明が全部擬音だったからな】
【ま、まぁ、そこは幼女成分ってことで……ね?】
【ほら、天才肌ってそういうものだから……】
「でもハルちゃん? お風呂に持ち込むのはちょっと……」
「半身浴は体に良いんです」
お湯ポチャとか、今までやらかしたことないし。
あ、でも、心配になったから、今夜からしばらくはお風呂用の容れ物に入れて読もっと。
【●REC?】
【風呂でも読むのか……】
【気持ちは分かる 俺も古本とかなら読むし】
【スマホなら分かるが】
【スマホは気をつけろ(2敗】
【2回も落としてるのか……】
【草】
【お湯ポチャだけには気をつけないとね!】
【でもるるちゃんなんで知ってるの? まさか……】
【あ、そういえば……】
「あ、思い出した」
【待って】
【またぶっこんでくるのぉ……?(期待】
「るるさん、お風呂はやっぱり入ってこないでください。えみさんもリリさんも。お風呂はひとりが良いんです」
「ハルさん!? それは言わないと!」
「お風呂……なるほど……」
「ちょっとハルちゃん!? これライブ! ライブだから!!」
「?」
【これが桃源郷か】
【なぁにこれぇ……(歓喜】
【百合営業 じゃなさそうって安心できるハルちゃんぷり】
【ああ、ハルちゃんがそんな器用なことできるはずないもんな!】
【ハルちゃんを制御できるとでも?】
【ハルちゃんはそのときの気分次第な子なんだ、営業なぞできるはずもない】
【ハルちゃんがウソつけるはずないもんな!】
【ムリ、絶対にムリ】
【ハルちゃんの信頼が地に堕ちすぎていて安定している】
【草】
「みんなに聞かれたら恥ずかしいのに、僕のお風呂には突撃してくるんですか。そうですか」
「ちょ、だからハルちゃん!?」
【どんな怒り方よハルちゃん】
【ハルちゃんなんか怒ってて草】
【かわいすぎる怒り方で草】
【ああ、ひとりで静かにご本読むついでのお風呂を邪魔されたから……】
【それだ!!】
【なるほど】
【この前の配信といい、ハルちゃんの沸点が分からない】
【奇遇だな、俺たちもだよ】
【でも良くない? そういうの】
【飼ってる猫がご機嫌かって思ったらいきなり噛んだりしてくるあれ的な】
【ああ……(恍惚】
【甘噛みなのがまたいいのよね……】
【血が出るくらい噛まれるのも、それはそれで】
【分かる】
【やっぱり猫系だよね、ハルちゃん】
【野良猫ハルちゃん】
【今は飼い猫かな?】
【野性が染みついてるからときどき顔をのぞかせる的な】
【やっぱハルちゃんってユニークすぎるよね】
【今さらだな】
【今さらだね】
【うん……ハルちゃん、多分ダンジョン潜ってなくて雑談配信とかゲーム配信とかしててもどっかでバズってただろうね……】
【ああ……なにしろ、このセンスの塊だからな……】
【そうして地盤を固めるだろう、始原の10人】
【呼んだ?】
【今忙しいから手短に頼む】
【違う、呼んでない】
【黙ってろ】
【書き込んだ瞬間に出てくるな、びびるだろうが!】
【草】
【始原への風当たりが強すぎて草】
【そうだよね……キャラが濃すぎる子にはキャラが濃すぎる連中が集まるんだもんね……】
【あれ? そういえばノーネームちゃんは?】
【wtf?】
【ノーネームちゃんノーネームちゃん、言語学習するならきちんとした言葉づかいと砕けた会話、区別して学習した方がいいよ】
【thx】
【んー、まぁギリセーフ?】
【あとスラングとかネットスラングとかいう概念もね】
【OK】
【草】
【始原より早く返事がくるノーネームちゃん】
【だって始原は一応人間だけどノーネームちゃんはノーネームちゃんだし……】
【一応ってなんだよ!?】
【だって幼女を見出して身内だけで愛でてた変態集団でしょ?】
【違う……んだけど違わない】
【否定できない……】
【おい、俺たちはそれを誇るって誓ったじゃないか】
【そうだった】
【始原の中で分裂し始めて草】
【始原が分裂……ああ、ノーネームちゃんに嫉妬して……】
【true?】
【違う】
【嫉妬はしていない 焼きもちだよ】
【それは嫉妬というのでは……?】
【草】
【だめだ、やっぱりネームドが揃ってユニーク過ぎる】
【えみちゃんごめんね……やっぱり台本役に立たないみたい……】
【ハルちゃんが居る以上は、間違いなく使えなくなるよねぇ……】




