76話 『ハルちゃんの初めてな雑談配信』2
【悲報と朗報どっちか分かんないけど、ノーネームちゃん爆誕からひと息】
【どっちなんだろうね……】
【もうどっちでも良いや】
【多分速報でもなんでも変わらないと思うよ】
【もう「ハルちゃん」ってだけでPV爆伸びだしな】
【さすがはハルちゃんだね!】
【けどまさか最初の話題が配信サイトのハックと】
【ノーネーム様がノーネームちゃんになるだなんて】
【すげぇ……!】
【天性の何か持ってるよな、ハルちゃんって】
【今さらか?】
【ハルちゃん、一体いくつ「普通じゃない何か」持ってるの……】
【えーっと、貧乏幼女、ちょっとおかしいレベルのレンジャースキル】
【もう「ハルちゃんスキル」でいいよ……ちょっとおかしいくらいたくさん極めてるし】
【ダンジョンの中が楽しいっていうか心地良い、週末ピクニック】
【ハルちゃんの素敵な感性でいいよ、ちょっとおかしいし】
【ちょっとおかしいレベルの索敵スキルと隠蔽スキル、狙撃スキルに魔力強化……どれか1個でも普通にやれるはずなのに】
【よくばりハルちゃん】
【よ、幼女だから……】
【あと天然】
【それも幼女だから……】
【あとはノーネーム様に気に入られても平然とできるメンタル】
【それは……ストーカーな幽霊とか普通の幼女なら泣くわ!!】
【いや、逆だ……幼女過ぎて怖いとすら思わないんだ……!】
【ようじょこわい……】
【草】
僕の顔が出ちゃって、お金を返してもらって――つまりは呪い様ってのが出てきちゃって。
そのせいでるるさんたちのとこのスタッフさんとか九島さんとかがてんやわんやで大忙し。
るるさんはぽけーっとしてるし、リリさんは……笑いをこらえてる?し。
よく分からないけども、ひとまずコメント返しってのをやってれば良いんだよね。
大丈夫、僕は大人だからそれくらいは分かるよ。
顔が出ちゃったのはちょっとヤだけど、いちど出たものはどうしょうもないって知ってるし見られちゃったらもう別にいいかなって。
いざとなったらえみさんの事務所で食っちゃ寝の生活すれば良いっていう心強さができてるし。
適当にネットの向こうの人たちに話を合わせていたら――気が付けば、配信が勝手に始まっちゃってから30分。
話題はほとんどお金と呪い様のことばっかだったね。
「けどなんで配信始まっちゃってるんでしょうね」
僕、なんにもしてないはずなのになぁ。
「不思議ですね」
【なんでだろうね】
【不思議だね】
【草】
【ノーネームちゃん?】
【不干渉】
【だって】
【草】
【えぇ……】
【ノーネーム様→ノーネームちゃん で草】
【ノーネームちゃん、もう普通にリスナーしてて草】
【普通に書き込んで普通に返事してて草】
【ハルちゃんすげぇ……この短期間で手懐けてる……】
【これが仕込みとかじゃないマジもんってマジ?】
【信じたくないのも分かる だが受け入れろ】
【たぶんその方が楽だと思うよ】
【そうだな……どうせ何もかも説明ついちゃいそうだし……】
【なぁにこれぇ……(同意】
【考えるな、感じろ ちょっとおかしいいろいろで頭がおかしくなるぞ】
僕は何も触ってない……って言うか、僕は押し潰されかけてたからそんな余裕なかったはず。
なんでだろ。
……ま、いいや……特に問題ってわけでもないし。
「……え、えぇっとぉ……マネージャーちゃんに渡されてた今日の進行、もう役に立たないよね……」
「そんなのあったんですか、るるさん」
「あったよぉ……なんで覚えてないのハルちゃん……」
「忘れました」
るるさんとリリさんが重かったから。
【草】
【幼女の集中力をなめちゃいけなかったね】
【ハルちゃん……すごいはずなのにどうして……】
「うん……でも良いの、ハルちゃんには難しいだろうからって……あ、違うの! ハルちゃん、こういうのしたことないからって」
「そうですね、初めてですね」
一瞬、子供扱いされてむっとなりそうになったけど、そうじゃないって分かって安心安心。
【るるちゃんたち諦めてて草】
【でも、はじめて】
【初めて……】
【ハルちゃんの初めて】
【ふぅ……】
【男子サイテー】
【大丈夫、男の子にも初めてはあるから 具体的にはね】
【おっと姉御、BANされる発言は控えような?】
【むしろさっさとBANされちまえ】
【その方が平和だよね】
【草】
【でもハルちゃん放置で正解だと思うよ】
【そうだね】
【どうせこの幼女にかかるとなんでもちょっとおかしいことになるからね】
【もうなってる】
【何もかもが手遅れ】
【確かに】
【草】
【えっと、配信開始の10分前に何か触って勝手に始めちゃうでしょ、お金返しちゃうでしょ】
【おっと、そのときにノーネームちゃんに頼んでハッキングさせた事実もな】
【あとそのノーネームちゃんもノーネーム様から格上げしたでしょ】
【それは格上げなのか?】
【え? かわいいじゃん?】
【そうだった、その通りだ】
【うんうん、かわいいは正義だもんね】
【つまりハルちゃんはジャスティス】
【草】
【ああ……確率が収束しちゃったんだね……】
気が付けばるるさんが予定どおりに僕の横に座っていて、僕たちでちょうどカメラに入る感じになってる。
……さっきちょっとだけリリさんも画面に入っちゃったっぽいけども、事務所の人がピックしてくれるコメント見る限り、話題は完全に呪い様……ノーネームちゃんとか呼ばれ始めたそれになってて忘れられてるっぽい。
「さて! あれから1週間経ったわけだけど!」
「ずいぶん唐突ですね」
「そうしないと何起こるか分からないからってマネージャーちゃんから」
「そうですね」
るるさんが張り切っている。
がんばってくれるとそのぶん僕が楽だから、ありがたいね。
【うん……】
【それが良いと思うよ】
【ハルちゃんを好きにさせてはいけない】
【台本とかあっても無視しそうだし……】
【強引に行かないとね】
【なぁにこれぇ……?(待機】
【これ以上は起きないから落ち着け】
【ほんとぉ?】
【もうだめだ……】
【草】
るるさんは手元にカンペを用意しつつも、ほとんど画面の方見てしゃべってる。
へー、さすがアイドルさん。
「で! ハルちゃん、調子はどう?」
「特に変わらないです」
「じゃなくて! ほら、ダンジョン、予定外のとこまで潜って大変だったでしょ?」
「……ああ、魔力のことですか? んー」
僕はしばらく、体内の感覚に集中してみる。
【………………………………】
【………………………………】
【なんだろう、この緊張感】
【だってハルちゃんだぞ?】
【おろろろろろ】
【草】
「……うーん。あんまり?」
さすがに1回空になって、もっかい空になったのはそうそう戻らないらしい。
そりゃそうだ、空っぽになっちゃったお財布なんてそうそう元の重さには戻らないんだ。
「すかんぴんです」
【草】
【かわいい】
【すかんぴんて】
【言い方かわいい】
【そっかー、あんまりかー】
【感覚派らしいおへんじ】
【天才肌だもんな!】
【ああ……!】
【普通でも魔力が空になったら1ヶ月くらいかかるもんな、復帰するまで】
【普通は空になるレベルだと起き上がれなくなるけどな】
【でもあのときのハルちゃんは……】
【ハルちゃんはちょっとおかしいから……】
【草】
【ああうん、そうだったね……】
「でも別に魔力なくても、僕ひとりで――」
たぶんへっちゃらなんだけど、
「できるだけみんなでハルちゃんのこと奥まで届けるからお願いだから勝手に出歩いたり逃げ出しちゃったりしないでね」
「あ、はい」
るるさんの声が低くなっている。
おとなしくしないとまずいんだ。
【草】
【るるちゃんこわい】
【残当】
【さすがにこれはるるちゃんが正しい】
それにしても、大人数はあんまりとは思うけども……なにしろ500階層だもんねぇ。
この前みたいに落とし穴使えば結構楽だろうけども、みんなを引き連れてじゃそんなわけにもいかないし。
そもそもあれは着地のときにちょっととはいっても魔力使うから、何が起きるか分からない状況で使っちゃうのはリスクあるし。
「ハルちゃんの体力のこともあるから2週間……ぎりぎりのスケジュールだけど、これでクリアする予定だよ」
「そうらしいでですね。サポートの人も多いですし、攻略ペースは遅いんですよね」
普通の攻略速度ってのはさっぱりだけど、2週間もかければ余裕だよね。
「……ハルちゃん? 一応言っとくけど、この人数でぎりぎりできる強行軍って意味だからね……? 本当にぎりぎり……うん、なんにも想定外のとか起きなくって、すっごくうまく行ってのだからね……? 前衛の人が装備とか体力とか消費し続けて、できなくなったら帰還しても別の人ができるっていう、無理やりな攻略の……」
「そうなんですか」
別に僕だけならどうとでもなるのに。
ってのは言わないどこ……怒ったるるさんは怖いし。
あと、リリさんのときに眠くて仕方がなかったの見られちゃってるから抵抗もできないし。
【分かってなさそうなハルちゃん】
【なんか不満そう】
【これまでずっとソロプレイだったからなぁ】
【協調性……協調性あるの……?】
【一応あるんじゃない?】
【ま、まぁ、なければこうしてお座りできてないし……】
【お座りできてるだけで褒められるハルちゃんで草】
【感動した】
【草】
「でも魔力さえ充分にあれば、僕ひとりで1日かからずに到達できると思うんです。ゴールに着くことだけ考えるんだったら。魔力さえ万全なら」
こう主張するほどに僕はすかんぴんなんだ。
そうじゃなきゃ、ここまで追い詰められてはいない。
つくづく、るるさんのときに使った切り札たちが魔力を吸い尽くしたんだから。
【えっ】
【500階層よ……?】
【いち……にち……?】
【ハルちゃんは何を言っているんだ】
【物理的に無理でしょ……って言い切れないところがね……】
【この前のを見るとなぁ……】
【まーだなにか言っちゃいけない隠し球持ってそうな……】
【お願いだから普通に攻略して……お願い……】
【お願いハルちゃん、たまには普通がいいの……】
【視聴者が救いを求めている】
【活躍しないことを願われるダンジョン潜り】
【ハルちゃんだからね……】
【安心できないことに定評のある幼女だから……】
「……みなさん、安心してください。そうさせないために、ハル自身が助けたリリという方を招きましたので」
「えっ」
今までずっと裏方してたはずのえみさんが、気がついたら近くに立って変なことを言ってる。
「わっ♪」
え?
えみさん?
何言ってるの?
なんで?
そんなの聞いてないよ?
【草】
【ものすごい勢いでえみちゃん見てて草】
【髪の毛ぶわってなった】
【るるちゃんに掛かってた】
【るるちゃん恍惚としてる】
【百合】
【おねショタ!!】
【もうなんでもいいよ草】
【でもさすがお母さん】
【えみお母さん……!】
【ママァ……】
【これは策士】
【だからリリちゃんが居たのね】
【※ついでで顔バレしました】
【草】
【かわいそう】
【さすがのハルちゃんも、助けた子が危ない目に遭うのはダメだよね?】
【信じて良いよね?】
【本当にそう思っているのか?】
【もうだめだ……】
【ああ……】
【ハルちゃんの気分次第なんだ……】
【草】
【絶望にまみれてて草】
聞いてない。
僕、そんなこと聞いてない。
や、たぶん伏せてたんだろうね……僕がめんどくさがって勝手に攻略するの防ぐために。
女の人ってそういうことするからなぁ……情報の後出しってやつ。
ほら、よく言うじゃん?
いざ婚約したらとか、結婚したらとか。
まぁ今の僕には全然関係無いことなんだけどね。
「あ、今日のリリさんは自動翻訳つけてるので普通にしゃべってますよ」
とりあえず冷静になろう。
【うん】
【分かってるよハルちゃん】
【でもその情報、出だしじゃないと意味ないのよ……】
「それがないときって僕が毎回通訳しなきゃでめんどくさかったので、すっごく楽です」
うん、同時通訳してたのに比べたら楽……だと思う、うん。
や、こっちの方がちょっと大変かも……ほら、後出しされるし。
【えっ】
【なにそれ超見たかった】
【聞きたかった】
【るるちゃんとリリちゃんのサンドイッチになって「……だって言ってます」botになるハルちゃん見たかった】
【ああ……!】
【きっと疲れ切った顔でやってくれるんだろうな】
【いいなぁ】
正直、「この体の力」って言ったらいいのか分かんないけど、意識するだけで外国語……とりあえず英語と欧州のいくつかの言語が使い放題だもん。
持ってるのに使わないの、なんかもったいなくない?
【なぁ 思うんだけど、これって雑談配信か?】
【雑談配信なんだろ……ハルちゃんにとっては】
【というより多分ハルちゃんだけにしなかったのが敗因】
【ああ……ヘタに介護しようとするからこんなことに……】
【肯定】
【草】
【かわいい】
【ノーネームちゃんもそうだって言ってるぞ!!】
【もうめちゃくちゃだよ】
【今さらだろ】
【わりと最初からめちゃくちゃだった気がしなくもないもんな!】
【ねえねえノーネームちゃんノーネームちゃん、見た目のリクある? ハルちゃんに取り憑いてるイラスト描きたいんだけど】
【ねえねえノーネームちゃんノーネームちゃん、黒髪ロングがいい? それともハルちゃんとお揃いの金髪ロング?】
【思考】
【調査】
【待】
【はーい】
【草】
【もはや畏れられる対象じゃなくなってて草】
【それどころか一気に愛でる対象に……】
【ああ、「ハルちゃんに首ったけなかわいいの」って思えばかわいく思えるもんね……】
【擬人化って最高だな】
【ああ……!】
【そのうちどうにかしてファンイラスト通りの体作りそう……】
【ああ……(絶望】
【ああ……(歓喜】
【俺たち待ってるからね、ノーネームちゃん】
【ハルちゃんとノーネームちゃんのツーショット……いつまでも待ってるよ……】




