７５話 『ハルちゃんの初めてな雑談配信』１
【『ハルちゃんの初めてな雑談配信』待機中】
【待機】
【ハルちゃん初めての雑談配信】
【はじめて……】
【おう、ノーネーム様を意識して発言しろよ 忠告はしたぞ】
【ねぇ大丈夫？ 事務所さん こんな企画して】
【確実に何か起きるんですけどー】
【ダンジョン潜ってもいないのに？】
【お前それ、えみちゃんたちから２回も脱走したハルちゃんのこと知ってて言ってるの？】
【ごめんなさい】
【草】
【ハルちゃんは脱走癖がね……】
【でもほんと大丈夫かな……】
【とりあえずコメントには気をつけようね！】
【なおノーネーム様のご意向次第で気をつけていても無意味な模様】
【こわいよー】
【ノーネーム様が荒ぶって事務所爆発しない？】
【しそう】
【おいやめろ】
【でもしそうじゃない？】
【しそう……】
【草】
【したら伝説になるな】
【え？】
【ハルちゃんの今までのが伝説じゃないとでも？】
【すまん、もう伝説になってた】
【だよねぇ……】
【ただちょっとコピペの行数が長くなるだけだから……】
【けど俺、まさかハルちゃんの配信で待機画面見ることになるって思わなかったよ】
【えみちゃんとこの事務所さんのおかげでまともなやつをな】
【俺もだよ】
【始原も同意します】
【だってハルちゃん、配信いきなり初めていきなり終わるパターンしかなかったし……】
【毎回いきなり始まっていきなり終わってたし……】
【なんなら最近はほぼ毎回始めか終わりは事故っぽかったし……】
【もちろん最初と最後にコメントで挨拶はしてくれたよ？】
【でもねぇ……】
【開始だって手動だったし……】
【ハルちゃんらしい配信だな】
【だがその配信も、今回だけは……】
【ああ……！】
「もー、るるさぁん。りりさんもー」
もみくちゃ。
僕はもみくちゃにされてるんだ。
【！？】
【は？】
【草】
【なんか待機画面唐突にぶつ切りなんだけど！】
【急に始まって草】
【えぇ……】
【なぁにこれぇ……（歓喜】
【やっぱり事故しか起きないじゃないか！（歓喜】
【やった！ ハルちゃんだ！！】
【これはハルちゃんの仕業だな！】
【間違いないな！】
「リリちゃんと話したの！ やっぱり今日はポニテが良いって！」
「そうですハル様！」
【もしもしノーネーム様？】
【いや、ハルちゃんがなんか押したんだろ……】
【幼女だもんね……パソコンのキーとか適当に押しちゃったんだよね……】
【そういうのって事務所側がやってくれるんじゃ？ 特にハルちゃんだし……】
【特にハルちゃんだからな……】
【特にハルちゃんだもんな……】
【草】
【信頼のハルちゃん】
【だって幼女だもん】
【ていうか待って！？ 画面に顔が】
【ポニテ！！！】
あー、もう、さっきから髪の毛ばっかりいじって……ほんと好きだね、君たち。
「髪の毛なんてどうでも良いじゃないですか……」
「良くない！！」
「そうです！！」
なんで普段は……特にるるさんから反発してるのに、こういうときだけ一緒なのさ……女の子ってやっぱりよく分かんない……。
【ハルちゃーん！？】
【草】
【顔映ってる映ってる！！】
【事務所側さん！！】
【マネージャーさん！ しっかりして！】
【ダメだ、ハルちゃんとるるちゃんが合わさってもうどうにもならない】
【草】
【ポニテハルちゃんがちゃんとお座りしてる……！】
【ついでになぜかリリちゃんの声もするっていうね……】
【なぁにこれぇ……なぁにこれぇ……】
【あ、新しいバージョンの鳴き声】
【視聴者の訓練も順調だな】
【順調（RTAで無事破壊】
ぐいぐい。
僕の髪の毛をポニテに仕立てあげた女の子たちが、のしかかってきている。
「あ、ちょ、ふたりとも重いです」
「重くないもん！」
「そうです！」
重いよ？
少なくとも僕よりは、ずっと。
【●REC】
【あっ……（感激】
【百合】
【ハルちゃんが乗っかられてる……！】
【密着具合……良いね】
【ていうかリリちゃん、「そうです」しか言ってなくて草】
【そうですbotと化したリリちゃん】
【まさか……日本語で最初に覚えた単語がそれだったり……】
【えぇ……】
【草】
【い、一応ハルちゃんのことは呼んでたはずだから……】
「……る、るるさんっ！ 配信！ 配信始まってます！！」
「えっ」
「えっ」
「そうなの？」
九島さんの叫び声。
良かった……助かったぁ。
【マネージャーちゃん助かる】
【いや、違わない？ この声、この前の配信で聞いたような】
【いや、もっと前……るるちゃんの救出配信からときどき……】
【なんか前から居たよな てっきりスタッフさんかと思ってたけど】
「ふぅ」
あー、楽になった。
【ふぅ……】
【ふぅ……】
重いのがどいてくれてようやく起き上がれた僕。
や、ふたりともたぶん普通の子よりは軽いんだろうけどさ……ほら、女の子同士の距離感でくっついてくるどころか思いっ切り体重預けて密着してくるから……。
あ、でもダンジョン潜りさんで、るるさんは中級者――の中の初心者？くらい、リリさんは上級者も上級者だ。
レベルが高いってことは筋肉量も――や、違うんだっけ。
魔力で増強されてるだけだからムキムキにはならないんだっけ。
しかもふたりとも活動的だからか、体の線がしゅっとしてるし。
スレンダーさんとスレンダー（極）さんだからね。
あと今の僕、忘れられてるけども幼女だからね？
レベルが高くたって、体重、君たちの半分くらいだよ？
「けど……え、配信ですか？ 九島さん。もう始まってるんですか？」
るるさんとリリさんが役に立たないから、尋ねてみる。
目の前の機材……これで動いてるの？
【ハルちゃーん】
【ハルちゃんが俺を見てくれた！！】
【あっ……（死】
【↑いきかえって】
【まさかここにきてハルちゃんの顔を拝めるとは】
【なるほど、この前の子は「九島ちゃん」っていうのか】
【なるほど】
【落ち着いた声が良いね】
【素人っぽさが最高】
【わかる】
【せっかく今まで隠してたお顔なのに、なんか触っちゃった？か何かでハルちゃんからバラしてて草】
【悲報・せっかくこれまで顔隠してきたのに、やっぱるるちゃんのせいでとうとう顔バレ】
【そういえばそうだった……】
【草】
【呪い様こわい】
【ノーネーム様だぞ！】
【なぁにこれぇ……】
【いや、草じゃないんだけどねぇ】
【ま、まぁ、今さらと言えば今さらだし……】
【まぁ隠蔽スキル高いんだろうし、外出ても大丈夫でしょ、多分……】
【それはそれとして全世界に顔バレだよハルちゃん】
事務所さんが用意してくれたノーパソ。
そこをのぞき込むと……うわ、もうコメントいっぱい。
あ、顔も映ってる。
けど良かった。
隠蔽使ってるからちょっとぼやけるはずだし、なによりあの最新のやつのカメラ使ってるから、僕の顔自体も微妙に変わるはず。
るるさんはともかくリリさんも、あんまり見られたくないだろうし。
……ん？
安心した僕の目に飛び込んでくるのは、たくさんの数字。
【\75000】
【\121000】
【あっ……課金上限、まだ解除されたまま……】
「みなさんそんなに課金しないでください」
【天使】
【そんなこと言われると余計に投げ銭したくなっちゃわない？】
【なる！】
【\153000】
【\184000】
いけない、なんか煽った感じになっちゃった？
みんなだめだよ、こんな無駄遣い。
「こんな実体のないものにお金使わない方が良いですよ。そのお金でおいしいもの食べたり飲んだりした方が良いです」
推し活で破産する人とか居るみたいだし……ダメだよ？
そういうのは日常のついでなんだから。
【金銭感覚がしっかりしすぎている幼女】
【だって家族のために極貧生活だったみたいだし……】
【石拾いが日課なダンジョン潜りなんて聞いたことないもんな……】
【ああ……】
止まらない課金。
投げ銭って言うんだってね。
銭って金額じゃないけども。
「……………………………………」
ちょくちょくだけども、僕がリーマンやってたときの１ヶ月の手取りよりも大きい金額が投げ込まれる画面。
ちりゃんちゃりんとお金が無意味に消費されている。
……こんなのダメだよ。
大切なお金なんだから、ちゃんと家族とかおいしいお酒とかに使わないと。
でも、この人たち止まってくれないよね。
どうしたら……あ。
「えっと、そこにいるんでしょうか」
【はーい！】
【ハルちゃんがちゃんと話しかけてくれる配信……】
【尊すぎる……】
【このためならいくらでもおこづかいあげちゃおうねぇ】
「のろいさま。のろいさまー？」
僕は適当に手をひらひらして聞いてみる。
いつものことだから、このへんのどっかで見てるんじゃないかなぁって。
【えっ】
【ひっ……】
【ひぇっ……】
【何、何を起こすのハルちゃん！？】
【ハルちゃん！ 何てこと言うの！！】
【めっでしょ！】
【まさかのセルフ召喚の儀】
【セルフ召喚の儀で草】
【えぇ……】
「今のお金。動画サイトに侵入して返してあげてくれません？ そしたらこの前、僕を盗撮してたの許しますよ」
聞いてくれてる気がするから、交渉だ。
こんなにお金を投げつける行為、あってはならないんだから。
【草】
【謎の存在にハッキングを仕掛けさせるハルちゃん】
【つよい】
【ようじょだからね】
【そうか……ようじょだからつよかったのか……】
【みんなようじょになーれ☆】
配信をハックする、ダンジョンも最下層を壊す、あとリリさんと一緒に寝てたのとか監視カメラで始原さんたちに見せてた。
あの日帰ってからえみさんに教えられたけど、僕は別に嫌じゃないし怒ってない。
でも普通なら怒るだろうから、怒るアピール。
……そういやなんであのとき、えみさんぐったりしながら気まずそうだったんだろうね。
「できなかったら……許しません。あなたのこと」
ちょっと怒った雰囲気。
僕はそういうのは得意だ。
【草】
【ハルちゃんマジおこ】
【わりと結構怒ってるよね、ハルちゃん】
【いい子すぎる】
【最初の声出し配信でも言ってたもんな、お金返したいって】
【でもできるの？ 動画タイトルとか配信切れないとかじゃなくて、これってもっと根本のシステムの】
【謝罪】
【理解】
【実行】
【確認】
【えっ】
【また姿をお現しになられた……！】
【草】
【ノーネーム様、フットワーク軽すぎない？？】
【ハルちゃんに呼ばれたから……】
【ああ……】
【そりゃあどうやってでも来るよね……】
【ハルちゃんに名指しされてうっきうきで出てきたって思うとなんかかわいい】
【かわいい】
【まさか、あのるるちゃんの不幸の元凶にときめく日が来るなんて……】
【ああ……！】
【やっぱハルちゃんの配信、普通になれなかったね……】
「……ハルちゃん、何が起こったの……？」
僕の髪の毛をどうするかって話が終わったらしいるるさんたちが、戻ってきてる。
あ、違うか、配信始まっちゃったのでわたわたしてたんだな、きっと。
「ちょっと投げ銭ってのが多すぎたので返してもらいました」
なんかすごいことできるらしいから、がんばってシステムハックしてお金返してきてってね。
「ほぇー、そんなことできるんだー」
「いえ、私も詳しくはありませんけれど、そのようなことは……？」
【リリちゃんがbotじゃなくなってる！！】
【草】
【感動した】
【反応するのそこ！？】
【なんかもう、つっこみどころ多くてわけわかんなくなってきた】
【落ち着け、ハルちゃんの配信はいつもこうだろ】
【そうだった】
【待って、流れが速すぎる】
【てか投げ銭どうなったよ？】
【……返金されてる というか「してなかった」ことになってるっぽい……？】
【マジか？ マジだ……】
【なんかこわい】
【え？ こんな一瞬で……？】
【すげぇ】
【すごいけど怖い】
【ノーネーム様、課金システムまで入り込んだのか……】
【また動画サイトが停止しそう】
【もはやなんでもありだな……ノーネーム様……】
「返金されてるって、ハルちゃん」
「良かったです」
ほんとによかった。
ダンジョンの儲けで、正直会社員やってたのがばからしくなるくらいお金が入ってきてはいるけども……それはそれ、これはこれ。
やっぱり１００円単位で安いのを探しちゃうし、るるさんたちに連れてかれるスイーツのお店とかのお値段見て「高いなぁ」って思うくらいの小市民だもん。
「ありがと、のろいさま。とりあえず今日は悪さしないでね」
【承知】
【感謝】
【感激】
【握手】
【握手】
【握手】
ぴこ、ぴこ、ぴこ。
立て続けに――色の変わったコメントが表示される。
これが呪い様かな。
「？ でも君、おててないでしょ？」
一応手を突き出して握手するフリだけしといたげよっと。
【おてて】
【おてて】
【草】
【ノーネーム様、マジで喜んでて草】
【それに全く動じていないハルちゃんよ】
【ハルちゃんだしねぇ……】
【それはそれとして握手のポーズはしてくれるハルちゃん】
【天使かな？】
【女神だよ？】
【幼女だよ？】
【この子、何かあったら動揺するの……？】
【んー おててないはずのノーネーム様と握手できたりしたら……？】
【おいやめろ】
【やめろ】
【やめろ！！】
【だーから召喚の儀やめろって】
【不可】
【体】
【無】
【悲】
【草】
【もう草しか生えないんだけど】
【ちょっと男子ー！ ノーネームちゃん泣いちゃったじゃん！】
【ノーネームちゃん……！】
【また新しい概念が誕生してしまった……】
【ハルちゃんの配信って、毎回何かしら起きるよな】
【いまさら過ぎない？】
【うん……ぽかんとして全く分かってないハルちゃんも含めてね……】
【ほ、ほら！ ノーネームちゃんって呼べばなんかかわいいし！】
【ただの安心安全な雑談配信だったはずなのに、のっけからこれだよ】
【安全安心（ハルちゃん基準】
【そっかぁ……】
【うん……この幼女、やっぱ持ってるわ なにもかもをな】
