731話 【362664000秒】【演算】【完了】
「……魔王。私の言うことは信じられないかもしれないけど、ハルにはお父さんをこの空間へ連れてくる力は、まだ、ない。あんなに幼いし、その方法だって教えていないから――私が居なくなったら、再現は不可能。長遠距離の空間魔法は、とても難しいから。それは君も知っているでしょ?」
姉さんが、まぶしい金色に発光していく。
「お父さんは……まだ、通常の空間ではまともに戦えない。あと……そうだな。2000年くらいしたら、ようやくってところなんだ。そのころには――私が負けたとしたら、君の治世は盤石になる。お父さん1人じゃ、太刀打ちなんてできっこない」
『――かの神が、貴様を滅しても手を出して来なければ信じよう』
「うん。ありがとう」
――おじゃるさんも、黒い魔力をぶわっと広げていく。
「私、もう残りが少ないから。だから、全力で君の首を取りに行くよ。それくらいなら、君を刈り取る勝算はあるから」
『――――応』
ふわりふわりと飛んでいく姉さんと、それをじっと待ち受ける魔王さん。
その飛ばし合っている魔力が――雷鳴のように轟いていく。
光と闇が、一触即発で膨れ上がっていく。
「………………………………」
――――姉さんへ加勢したら。
戦いは有利になるだろうけども、弱ってはいるとしてもどこまで行けば諦めてくれるか分からないおじゃるさん。
あの人が最後まで諦めなかった場合、もう何度も魔力が切れちゃったのを経験してる僕がまた戦えなくなるまで粘られて押し切られる可能性がある。
どころか、時間をかけたらまた魔王さんの仲間が合流してくるだろう。
そうとなったら、戦いに加わっちゃった以上、僕も倒されるだろう。
だって、それがおじゃるさんの本当の願いなんだから。
そうなりそうになったとしたら、戦いの途中で僕が狙われたら、姉さんは絶対に助けようと――攻撃を庇おうとしてくるだろう。
僕たち2人ががんばれば……姉さんにどうにかして魔力を分けたりできたなら、魔王さんを倒せる――とは、思う。
けども確実じゃないし……僕だって、姉さんが倒されそうになったら守ろうとして痛手を負って、結果的に共倒れになっちゃうかもしれない。
少なくとも今の魔王さんは、ちょっと前にくっころさん相手にため息をついた仲間としての気持ちを忘れていない。
姉さんへの約束は、果たされる。
「………………………………」
けど。
けども。
「……僕は……」
そんなのは。
「僕……は……」
戦いたいのに、戦えない。
勝てるかもしれないけど、負けるかもしれない。
――こんなの、今までになかった選択。
だから、僕は困っている。
今すぐにどっちかって決めなきゃなのに、それができないんだ。
なんて女々しいんだ。
男として生まれたのに女の子に守られて――その女の子が、自分を犠牲に僕を守ろうとしているのに、僕が動くことでもその子が犠牲になる可能性を考えただけで、体が動かないだなんて。
――――――つーっ。
「………………………………」
気がついたら。
両頬から、あったかいなにかがこぼれている。
……本当に、男らしくないんだ。
【ハルちゃん……】
【なかないで】
【また真顔で涙を……】
【そうだったね ハルちゃんはいつも、ハルちゃん以外の誰かのことを想うと、表情を変えないで泣くんだよね】
【ああ……】
【心が壊れていても、優しすぎるから だから……】
【でもね ハルちゃんが生きててくれるのが、アルちゃんのお願いなんだよ】
【アルちゃんも魔王も、ハルちゃんのことだけは大切だから】
【だから、我慢して】
【ハルちゃんは、守られて】
【守られるだけは、つらいよね】
【つらくても、どうか守られて】
【お姫様だもんな 攫われて、助けに来てくれた人たちがやられても悲しむしかないんだもんな】
【火力が高いハルちゃんだけど、最初からの弱点として魔力と体力の限界があるもんなぁ】
【さっきもアルちゃんはずっと魔王と殴り合いしてたし、基礎的な体力の差があるし】
【お姉ちゃんのお願いもあって、勝てるかもしれないけど……って悩んでるよね 魔力、回復はしてるみたいだけどまたすぐに魔力切れかも、って】
【でも、アルちゃんと俺たちにとっては……やっぱり、ハルちゃんが大切なんだよ】
【お願いだから、そのまま守られて……ハルちゃん】
【ああ……】
【ぶわっ】
【これで、もうおしまいなのか】
【ハルちゃんってすごいのに、でもやっぱり小さいから】
【幼いってだけで……きっと苦しいよね でも……】
【何かの一手……起死回生、すべてをひっくり返せる何かは……ないのか】
【もうないよ】
【あったらとっくに……】
【ハルちゃんが何度もハルちゃん以外をびっくりさせても、結局は……】
【アルちゃんが負けちゃったら、ハルちゃんのメンタルがまた……】
【ノーネームちゃん 時間をかけてでも癒やしてあげてね】
【アルちゃんが負けたら、俺たちも滅ぼされるかもしれないから】
【お願い、ノーネームちゃん】
【NO】
【えっ……】
【ノーネームちゃん……?】
【Progress】
【99.9999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999%】
【:】
【――――――100%】
【finished】
【極大空間魔法】
【「ダンジョン」魔法】
【演算】
【――――――完了】




