712話 女神の絶望と希望
「おらぁ!」
ごすっ。
魔王の顎にフックが入り、余波の光が魔王軍の1割を包み込む。
『GAAAAA!』
ごうっ。
魔王の反撃のブレスがアルへ掠り、余波の炎が艦隊の1割を包み込む。
【こわいよー】
【もはや後先考えない殴り合いになってる……】
【アルちゃんも魔王も、もうまともにしゃべってない……】
【マジの最終決戦になってるんだな】
【がんばれとしか言えないけど……】
【これさ、人類も魔王軍も片っ端から転移してきて片っ端から戦って片っ端からもらい事故で消滅してるけど 勝算あるのぉ……?】
「……これでも、ハルの一撃の分と3回分くらいクリティカルに入った拳の分は有利だよ。まぁハルのに比べたら私のなんて――――――ハルのお酒何十本目の分!」
『GAAAAA!!』
ごすっ――――――クリティカルヒットが魔王の鼻面へ入る。
【草】
【痛そう】
【普通にダメージ通ってるもんな】
【けどそれはアルちゃんへも……】
【あちこち火傷してるし……】
【幸いなことに服は燃えてないんだよな 燃えてたら女神様の痛々しい肌見えちゃって俺の性癖ががががががかが】
【怒】
【!?】
【草】
【ごめんねノーネームちゃん、そいつ好きにして良いから】
【ああ、さすがに女神様へガチでの不埒な妄想はNGなのね】
【そらそうよ……】
【むしろ甘過ぎなくらいだもんなぁ】
【神罰だぞ】
【神罰=ないないか】
【ご褒美にして生命を救う恩寵にして神罰――それが「ないない」だ】
アルも魔王もかなりの消耗をしており――魔王は巨体ゆえに分かりにくいが、アルははっきりと肩で息をしており、手も脚も火傷や切り傷だらけ。
「……どっちが最後まで消滅せずに居られるか……楽しい勝負だよ、魔王」
『ぐぅ……!』
不敵に笑う女神に、存在を削り合いながらの戦いで魔力を相当に消耗し――ハルの前に初めて現れた際の10000分の1程度には小さくなっている魔王。
『だが――朕が勝利する! 勝利し、今度こそこの世界から神と生命を滅ぼすのだ!』
「やだねぇ、これだから支配欲の強いのは。ハルを見習――――――ハルと過ごすはずだった余生の分!」
『グォォォォ!?』
女神と魔王、実力は魔王に分があり、総兵数でもやはり魔王軍が有利。
だが、この女神は「弟」を失った怒りのおかげで強烈なバフを抱えており、おかげで魔王を足止めして味方に被害を与えない役目と同時に削る役目を、想定よりもずっとこなしていた。
『――――――ならば』
――――――ごうっ。
殴られたらすぐさまに反撃する。
それが今までの魔王のルーチンだったが――龍は、突然に横を向いて炎を吐いた。
「なっ!?」
何百回も繰り返された、自分へ来るはずのすぐさまの反撃。
それから身を守るために体を固めていた女神は、不意を突かれる形になった。
その炎の先には――――
「ひぃぃぃ先輩! 魔王の炎が! あれは気持ちいい痛いでは済まなさそうです!!」
「んむ」
『『『ギィー……』』』
――――カメラを構えていたノーネーム、彼女を抱きかかえる仕事を任されていたくっころ、そして光の玉のそばで控えていたドラゴンたちが、居た。
『女神に裏切り者共――朕の玉ごと燃やし尽くし、この宙域ごと炎に包まれよ!』
「はぁっ!? あの魔力の塊ごと!? 魔王、自分の軍隊も全滅だぞ!? 私たちも被害を受けるんだぞ!?」
『増援はこれからが本命――女神、自らの士気を悔いるが良い。それに、追う痛手は貴様も同様……時間が、朕の味方よ』
【えっ】
【あっ】
【ノーネームちゃんが】
【ついでにくっころも】
【ドラゴンさんたち……】
【あああああ】
【あああああ】
【真っ赤なのがくるぅぅぅ】
【おわった】
【こわいよー】
【見てるだけで怖い】
【なにしろノーネームちゃん視点だからな……】
【誰か……誰か、助けて……】
【無理だよ、もう誰もこんな理不尽な力、防げないよ……】
【アルちゃんは!?】
「このっ! 邪魔!」
『哀れなり女神。その情動の高さゆえ、仲間の死を目前にすると動揺して力が発揮できなくなる――貴様らの創造せし人間共と同じようにな』
ノーネームたちの元へ駆けつけようとあがくも、威力は低くとも乱発されるブレス。
それを回避、または迎撃、間に合わずダメージを受けるたび、アルは身動きが取れなくなる。
「待って……お願い。ノーネーム、あの子は……まだろくに話したこともない妹――――――」
炎が、迫る。
【 】
【 】
【 】
【 】
【救護班詰め所より リストバンドで何十人も飛んできて無理です】
【映像の視聴を停止してください】
【ああ……】
【ノーネームちゃんが……】
「………………………………」
人の形を取った元ドラゴンは、しばらくして言う。
「……先輩。いえ、女神」
「ん」
「少しのあいだでしたけど――楽しかったです。姫の騎士として、一緒に居られて」
ぽつり。
ノーネームを抱きしめ直した、元は敵対していた龍が……微笑む。
「ん」
『ギィ、ギィーッ』
「みんなも、感謝をと。……姫様――いいえ、ハル様と出会えた幸運に」
「ん」
ばさっ、ばさっ。
ドラゴンたちは自らの死を悟りながらも――その行為が無駄と知りながらも、炎から女神を庇わんと立ち塞がる。
【くっころ……】
【ドラゴンさんたち……】
「……だいじょ、ぶ」
ノーネームは、けれども――――――光の玉へ振り返る。
「ひーろーは」
彼女は唐突に、魔力を放出する。
「おくれるけど」
「まにあう」
「ね」
「――――――はる」
「おうえん」「したの【☆☆☆☆☆】→【★★★★★】」「ぶくま」「おねがい」




