711話 【悲報・宇宙規模のギャグ展開】
「――――まだまだまだまだぁ!」
『威厳もなく、ただただ捨て身で殴ってくるだけの攻撃などと……神族の誇りとやらは――――』
「これが、ハルが飲めなかったお酒86本め分だぁぁぁ!」
『グハァァァァ!? 貴様……狂っているぞ……!』
アルが全身に張り巡らせている防御魔法、それを最も厚くして守る小さな拳が金色に輝きながら魔王の防御を貫通して迫り――渾身の力を込め、黄金の濁流とともに魔王の腹部へとめり込んでいく。
一切の武装を使用せず、ただただ握りしめた拳を魔力で極限まで強化した攻撃、それに対して殴られつつも至近でブレスを放つことによる反撃。
『き、貴様が降参し我の配下となるのであれば、悩み相談は魔王軍の福利厚生として――――』
「お前がハルを殺したからだろうがぁぁぁぁぁぁぁ!!」
『ガアアアア――――魂が削られる……!』
血みどろで捨て身の、互いの皮も肉も骨も散らしながらの――文字通りの消耗戦。
実際には両者ともに世界で最も魔力と位階を備えた存在のために見かけ上は変化がないが、魔力の変化に聡い存在ほど、この戦いを青い顔で見ていた。
戦略も戦術も関係のない、修羅の戦い。
単純な生命力を競うだけの――生命連鎖の山の頂点の化け物たちが、その山を互いに殴り、抉り、噛みちぎる戦い。
むろん周囲では変わらずに両陣営の戦力もまた最大火力でぶつかり合い、転送してきた順に援軍に入る戦いが繰り広げられてはいたが――宇宙規模の艦隊戦や航空戦、砲撃戦は、宇宙を二分する「王」同士の戦いには見劣りする。
世界を構成する最大の魔力の塊が、どちらもとてつもない勢いで削れていく。
宇宙全体のエネルギーが、消失していく。
それほどの――まさに神話の戦いだった。
【アルちゃんと魔王が殴り合うたびに、衝撃波や外したときの魔力?的なので射線上の存在が吹き飛んでいく……】
【アルちゃんは一応、あんなんでも周囲を見てるっぽくて人が乗ってる船とかに当たりそうになったら何か飛ばして守ってくれてるっぽいけど……】
【思ったよりもぷっつんし切っていないのには安心するけど……】
「ハルがどれだけお酒を好きだったと思っているんだぁぁ!」
『待て、話を――――グハァ!?』
「ハルが飲みたかっただろうお酒! かわいそうだと思え!!」
『グゴォッ!? 卑怯でおじゃる……!』
弁解しようとした魔王の顎へ衝撃波が伝わる。
その威力で、魔王が貯め込んでいた魔力のうち、この宇宙の数分の1のエネルギーに相当するものが破壊された。
【この会話さえ聞こえなければなぁ……】
【まさかの肉弾戦じゃなければなぁ……】
【ア、アルちゃんもいろいろ考えて……】
【いると思うか?】
【ないね……】
【ないないだね……】
【nai-nai?】
【ひぇっ】
【草】
【違うのノーネームちゃん、違うの】
【てかノーネームちゃんは普通に観戦してるだけなんだな】
【ハルちゃんと同様に魔力切れみたいだし、しゃあない】
【そんなハルちゃんも、もう……】
【おいやめろ】
【許さない】
【お前のIPアドレスを辿ってお邪魔してもいいんだな?】
【ごめんなさいごめんなさい】
【草】
【こわいよー】
【ここに居る誰もがハルちゃんの生存を疑ってなくて草】
【だって……】
【うん……】
【冷静に考えたらなぁ……】
【ハルちゃん、消えかけたこと結構あるし……】
【負けそうになったり負けたりしたこと、わりとあるよな】
【そこのくっころGとかにもな!】
【た、卵産んでるから……】
【だからなんだよ草】
【草】
【勝手にハルちゃんに興奮して産んでるだけじゃねぇか草】
【んで毎回ひょっこり平然とカメラに映ってたし……】
【だからきっと大丈夫 そう信じてるんだ】
「……ふふ。魔王、キリがないね」
『故に、我に降参をすれば――』
「それだけはあり得ない。魔王配下の魔族が、私たち神族の下の生命を絶滅させることを目標にしている以上――たとえほんの数百年。ハルのためだろうとしても数千年から数万年。その程度の猶予は与えて見かけ上の平和を演出したとしても……どうせ君は裏切り、最後には滅ぼすだろう? 魔の存在以外の全てを。だって、君は先の戦いで君の同胞が消滅したのを、今でも恨んでいるんだから」
『………………………………』
「その沈黙が答えだよ。……私たちの前の代で神族と魔族が盛大な戦いを繰り広げた。その結果は――当時充分に育っていた君と、当時は幼かった私と私の妹。たったの3人しか残らない、ひどいものだった。生存競争の結果は、残念ながら君たちの勝利。――それから数千年、君たちはあらゆる世界を襲い続け、滅ぼし続けた。……私たちでなんとか多少は救出してきたけど、全体からすればごくわずかだ。うん――――――完敗だね!」
しんみりとした沈黙。
その次の瞬間にアルは跳躍し――魔王の右肩を殴りつけた!
『グアアアアア!? は、話の途中ではなかったのか!?』
「それはそれ、これはこれ」
【草】
【草】
【これまた絶妙に痛そうなところを】
【あの、今シリアス……】
【宇宙規模のシリアスだよ 微妙にポンコツな性格の魔王を油断させるため、意外と狡猾なアルちゃんが翻弄してるだけだよ】
【意外と肉体派だし意外と頭脳派なアルちゃん】
【ある意味おもしれー女】
【おもしれー女(ガチ女神】
【こんだけ舐めてる文明、うちのとこだけだろうなぁ】
【なにしろハルちゃんに調教されてきた文明だからね】
【だからお願いします女神様が勝利して平和が戻ってきたあとに地球を攻めないでくださいお願いします】
【草】
【それな】
【こわいよー】
【もう散々やらかしてるからなぁ、うちのとこ……】
【ノーネームちゃんだけじゃちょうちょで弱い……ハルちゃんが戻ってきてくれないと……】
【良識者がかなり抑制するようコメントしてはいるけど、なにしろ配信文化の治安はなぁ……】
【ハルちゃんが戻ってきてくれないと……どうなる?】
【天罰♥】
【天罰(残った人類側の文明が残った宇宙戦艦その他いろいろで一斉に攻めてくるよ♥】
【おろろろろろ】
【今さら謝ってももはや遅い ここはハルちゃんに一言頼まないと】
【なんて?】
【「この世界のお酒はおいしいので滅ぼしちゃダメです」とかなんとか】
【それだ ハルちゃんはよカムバック】
【草】
【ハルちゃんこそ、俺たちの希望……マジで戻ってきてくれ頼む】
「おうえん」「したの【☆☆☆☆☆】→【★★★★★】」「ぶくま」「おねがい」




