650話 ぼいん痴女なくっころさん
「――申し訳ございません、姫よ……! 先輩と2人、これでも五分に持ち込んだと思っていたのですが……やはり、王の中の王を自称するだけあり、奴は強力で……!」
――ふよん。
首筋を包んでくる、柔らかいふたつの球体。
「?」
僕は、そっと距離を取ってから振り返ってみる。
そこには――見覚えのある羽を大きく生やしていて、けれどもそのメインとなるボディーは……中学生くらいの女の子で。
紫の長い髪はクセが強くってあっちこっちぼさぼさで、何よりも――
「とりあえず服着てください」
「いえ、姫! ここは先に敗北の屈辱でお叱りを――」
「早く着てください、ノーネームさんと一緒に投げ捨てますよ」
「えっ」
【!?】
【草】
【草】
【悲報・ノーネームちゃん、投げ捨てられる】
【今さりげなく当然のように言ってたな】
【当たり前の前提条件か……】
【そらそうよ……】
「私が……ゴミのように捨てられる……んっ……!」
「うわぁ……」
【そして罵倒された瞬間に悶えてる痴女……】
【まさか……】
びくんびくんともだえる――見覚えしかない、おっきなお胸をかき抱きながら震える姿は、えみさんそっくり。
けどもその年齢はどう見ても幼く――なのにお胸だけが大きい、アンバランス。
「服。着ないと、もう相手しませんからね。くっころさん」
【!?!?】
【ロリ巨乳……だと……!?】
【感動した】
【困った、今までにない属性で困惑している】
【しかもすっぱだか】
【えっち】
【えっち】
【配信機材のセーフティーでモザイクは掛かってるけど、それがかえって興奮を刺激する】
【わかる】
【調教された俺たちにとって、モザイクすら興奮材料なんだ】
【黒塗りも良いぞ!】
【白飛びもそれはそれで】
【ふぅ……】
【ばかばっか】
【え、けど、この反応……ハルちゃんの、えみちゃんを蔑むときのようなまなざし……】
【三日月えみ「 」】
【草】
【唐突な流れ弾がえみちゃんを襲う!】
【だって……】
【反応が、あんまりにもそっくりで……】
【変態、巨乳……よし! えみちゃんだな!】
【草】
【えみちゃんへの解像度が余りにも低すぎる】
【高いのでは?】
【それはそう】
【違いをがんばって探せば、一応ロリ成分はあるが……ふぅ……】
【しまった……! これまでにロリ巨乳っ子が居なかったからどうしてもちくしょう!】
【草】
認めたくなんて、ない。
こんな……こんな、いきなり人の前にすっぱだかで現れて――待って、この人、さっき僕の首筋にふにょんって当ててきてた。
「あててんのよ」をしてきた。
すっぱだかで。
そんなの、えみさんですらしたこともないのに。
なんてことだ。
真性のヘンタイさんなんだ。
「……くっころさん。その姿は」
「はい! 人間たちに修行を積ませてもらうため、彼らに尋ね、姫により折檻してもらうのに適した姿を相談して作成しました人間体です! 姫と近い年頃でありながら畏れ多くも発育の不十分な姫が、ふとした苛立ちをやっかみに変換し、この無防備な乳をひっぱたいてくれるだろうと! 意識すれば防御魔法を完全に喪失させ、痛覚や欠損も再現可能です! 師匠たちのお勧め設定です!」
「うわぁ……」
【good】
「先輩! ありがたきお褒めの言葉を……」
【草】
【ノーネームちゃん、お前……】
【何がgoodだ、この百合女神】
【草】
「………………………………」
僕は、眉間を抑える。
……どうしよう、人間の偏りすぎた変態文化のせいで……これでも一応はそこそこの勢力を持っててそこそこ強いはずの魔王さんがくっころさんに成り下がり、あまつさえ僕にひっぱたいてもらえるために、こんな女の子の姿になったなんて。
人の業を悲しめば良いのか、それとも竜とてしょせんは生き物……知性を獲得したばかりに、こんなにも無残な姿になるのかもしれないって。
僕は、ずきずきと痛む目元をほぐしほぐし、思った。
「はぁ……」
――えみさんの方が、ずっと相手してて楽だったなぁって。
【ハルちゃんが】
【おいたわしい……】
【悲報・女神、おいたわしい担当へ】
【しまった! ギャグ存在を相手にしたら、まともな精神を持つ存在はすべからくおいたわしくなる!】
【すべからく警察が来るぞっ】
【そんなこと言ってる場合か!?】
【なぁにこれぇ……】
【ハルちゃんが過去いちばんに頭を抱えている】
【ハルちゃんでも無理か……】
【ノーネームちゃん……何が「good」なのよ、何が……】
【ほんと、この百合女神め……】
【ハルちゃん?? もっかいその子、ぽいってしたら?】
【負けたっぽいし、くっころも用済みでしょ?】
【そうだ、せっかく女の子?の姿だし、口だけ縛ってそのまんまおじゃるに身代わりとして差し出せば】
【!!!!】
【天才現る】
【草】
【あっ……数々の卵発言……まさか、くっころってG時代から……?】
◆◆◆
650話に到達しました。
ハルちゃんはのんびり屋さんなので、まだまだ続きます。
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