647話 【悪女でえっちなハルちゃん】
「ふぅ」
くぴっ。
……彼らが『一度僕が口づけたお酒の方が良い』とか伝えてくるから、きゅぽんっと開けてぐいっと……うん、おいしい。
「ドラゴンさんたちがちょろくて良かったぁ。えみさんへはだか見せてあげたり、るるさんへはぐはぐさせてあげたり、リリさんへすんすんさせてあげたりするのと同じくらいにちょろくって楽ー」
ぷはっ。
僕が唇を離したばかりの酒瓶の口へ――数百の視線が、刺さる。
「………………………………」
ぞくぞくぞくっ。
よく分からないけども、なんだか背筋がぞくぞくするんだ。
【三日月えみ「 」】
【深谷るる「 」】
【リリ「 」】
【草】
【あーあ】
【悲報・えみちゃんたち、ちょろいって認識されてた】
【まぁ、そうねぇ……】
【ここへ大天使くしまさぁんが出てこない理由】
【業務報告 『クレセント』よ……今すぐに始原会議へ出頭せよ】
【以上、始原でした】
【は?】
【???】
【最近静かだと思ったら】
【なにやってんだこいつら……】
【ハルちゃんのピンチだとはいえ、こっちからできることなんてなにもないはずなのにな】
「……ふんふん。予備の体を消費することで、その体を構成していた分の魔力を追加のタンクとして使っての大魔法を連発できるし、魔王さんレベルになると複数世界にまたがる複合魔法を行使できる……んでおじゃるさんはそれが得意。はい、あなたです。とても有益です」
ぽいっ。
僕のよだれがつつーっと流れる酒瓶を――気がつけば数口呑んでたね――情報提供者へおすそ分け。
「今回は、負けた。けど、次は勝つ。そのためには……みなさん? おいしいお酒、珍しいお酒は……まだまだ、ありますよ?」
ちゃぷっ。
僕は両手で新しい酒瓶をつかんで、かざす。
「さぁ、どんどん教えてください。大丈夫です、僕は負けたので、君たちの王様の奥さんです。つまりは身内――身内なら、そのうち知るはずの情報。だから、君たちが今漏らしても、ちょっとばかり早いだけ……何も問題はないし、それどころか君たちはついででお酒も楽しめる。ええ、あの人が戦いを終わらせるまで、早い者勝ちですよ?」
そうだ。
僕はこうして、静かに座り込んでいるときにはそこそこ頭が働くんだ。
だから僕は、
「んっ……ぷはぁ」
――でろん。
「んべぇ」
あえてべろを出して、よだれを垂らして、封を開けた瓶を――きらめく液体とともに、かざす。
――こうすると、ドラゴンさんたちからよく分からない謎の気持ちが伝わってくるんだ。
よく分からないけども――すごく、ぞくぞくするようなのが。
【 】
【あっあっあっ】
【えっち】
【えっち】
【ふぅ……】
【ノーネームちゃん?】
【反応できないほどか】
【分かる】
【妖艶……そうだ、この表現なんだ……】
【悪女の次はえっちか……良いぞ、もっとやれ……】
――ごくり。
何百もの喉が、鳴る。
「女神の。この世界ではもう希少すぎる女神の口づけがおまけでついてる、お酒です。僕が魔王さんのものになったら、君たちは一生口にできない、おまけ――さぁ」
僕は、にっこりと笑ってみせる。
「――もっともっと、おいしい情報を僕に味わわせてください」
◇
「……ほー。魔王と神族――天と魔の最終戦争は、あまりにも激しかったもんだから観戦者はみんな巻き添え食らって誰ひとり存在しなくって、『魔の勝利』ってのは、たった数人の魔王さんたちが帰還して自信満々に言ってるだけで? 実際に神族が居なくなって侵略は捗るようになってるけども、一方でノーネームさんみたいなのが細々とでも守ってる世界があるから、魔の完全勝利は結構疑われてて。反乱とかの際にはそれが旗印に……ん。君がMVP」
ぽいっ。
お酒を投げる。
「うんうん。君たち精鋭だからこそ知ってる情報は、とってもおもしろいね。うんうん大丈夫大丈夫、僕がちょっと先に知るはずの情報を、お酒の席でたまたまうっかり聞いちゃっただけだから。魔王さんにももちろん言わないし……君たちと僕だけの、ヒミツ――ね?」
ぺろっ。
僕は、唇の前に立てた人差し指に着いた液体を、わざとべろを突き出してから舐め取る。
こういうことをすると効果的なんだって、この人たちで学習したから。
『 』
『 』
『 』
『 』
【 】
【 】
【 】
【 】
【えっ 】
【かゆ うま】
「……あはは、みんな真っ赤だ。ドラゴンさんたちも酔っ払うと真っ赤になるんだね」
くぴっ。
あー、おもしろい。
やっぱりお酒は楽しく飲まないとね。
【リストバンドの転送が多すぎるんだけど!(怒】
【草】
【しゃあない】
【無理だよこんなん】
【悪い子、ハルちゃん……】
【あ、悪女や……このロリ女神、悪女になっておる……!】
【朗報・ハルちゃん、完全に覚醒している】
【すげぇ……女神って成長するんだ……】
【ああ…!】
【こんな風に手玉に取ってくれるんなら俺だって何でも裏切るわ】
【それな】
【ハルちゃん……自分の価値を、こんなにも……】
【ふぅ……】
【\1000000000】
【!?】
【ふぁっ!?】
【じゅう……!?】
【わかる】
【見るもの全てを誘惑する、悪ーい女神様……】
「おうえん」「したの【☆☆☆☆☆】→【★★★★★】」「ぶくま」「おねがい」




