645話 お酒で魔王軍の情報をすっぱ抜いた
「あー……その場その場の思いつきで、勝手に出かけた先で……今回みたいに問答無用で、いきなりそれぞれの世界のトップを倒しちゃう。んで、ようやく君たち精鋭以外の本隊さんたちが合流してきたころにはもう終わってて、お仕事といえば混乱の極致を収拾することで。『あとは任せるでおじゃる』って投げ出されて、統治しようにも統治が壊滅しててそこから……大変だねぇ。勇者さんとかが出現してくると、奪い返されることも……ほぇー」
こくこく。
どうやら彼らも大変らしい。
組織って大変だね。
「そっかぁ。分かるよ。なまじっかなんでもできる人で意欲もあって、他人も自分とおんなじくらいできるはずだって思い込んでて、できないってのを信じずに『君もがんばればできるはずだ! がんばれ! 気合いと根性だよ! 君の方が若い分、私よりもできるはずだ! 何、できない? それは困ったね、なら私が手伝おう! それならできるはずだ! 1回できたね? なら次からは1人でやってね!』ってまぶしいスマイルでつっついてくる系の上司――君たちの場合は社長とかかな。そういうの、困るよねぇ。ほら、これもこれも……君たちには少ない量だろうけども、お酒の本数自体はまだまだあるからたっぷり呑んで」
どうせおじゃるさんに捕まったら、大切なきちゃない袋さんも取られちゃう。
なら、出し惜しみして秘蔵していた――良いお酒ほどしまい込んで飲めないんだ――10年は戦える量のお酒を、瓶ごとぽんぽんと取り出して彼らへ振る舞っても良いよね。
【草】
【三つ巴のやべー戦いを眺めながら普通に世間話してるぅ】
【ハルちゃん……すげぇよ……】
【女神様だからね】
【精鋭?のドラゴンたちからも尊敬されているっぽい】
【抵抗しないって言ってから、ずっとお酒飲んでるし……】
【それにしてもハルちゃん、落ち着きすぎ】
【負けが確定しても、この調子のハルちゃん】
【ああ、ハルちゃんだ】
【俺たちのハルちゃんだ】
【こういうのでいいんだよ】
【そうだ、せめてハルちゃんさえのんびりしてるんなら おじゃるのお嫁ろろろろろ】
【草】
【それも分かってての落ち着きようなんだろうなぁ】
【ハルちゃん……】
【まぁもう何回目ってレベルだし】
【くっころのことGって呼ぶのやめたげてよぉ!】
【草】
【逆、逆!】
【Gの方がマシじゃないか? それ……】
【そうかも……】
【本人は屈辱的な方が喜びそう】
【なんだよアイツ……無敵かよ……】
【こわいよー】
【ヘンタイさんって怖いからね】
【ね、えみちゃん】
【草】
【ひでぇ】
【最後にヘンタイさんしてたのは相当前だし、くっころとかノーネームちゃんに比べたらかわいいレベルのただのロリコンなだけなのに、ここまでけちょんけちょんのえみちゃんが好き】
【分かる】
【もはや様式美だからね】
【ハルちゃんじきじきに「ヘンタイさん」命名だからね】
【主神が語ることは、聖なる言葉……つまりえみちゃんはあらゆる世界からそう呼ばれることを肯定されるんだ】
【草】
【かわいそうで草】
【ああ、ハルちゃんのかわいさにメロメロになったばっかりに……】
くぴ、くぴ。
「ふー……」
僕は……いや、僕たちは、遠くの花火を眺める。
――僕たちがお互いに全力を尽くしていたように、あの3匹もまた相当派手な戦いをしているらしい。
とんでもなく遠いはずのところで戦っているはずなのに、魔法同士がぶつかるたびに――まるで宇宙全体を照らすような花火が打ち上がるんだ。
サイズの比較対象になる物体が無いもんだからさっぱりだけど、少なくとも索敵から離れてるから最低でも10キロ以上離れた場所で、そこからでもでっかい花火みたいに見える程度のお祭りなんだ。
「あれ、どのくらいの威力なんでしょうねぇ」
『ぎぃ?』
『ぎぎぃ』
「……レベルが1万。ほぇぇ、もはや異次元だなぁ」
【 】
【 】
【 】
【 】
【は?】
【????】
【いち……まん……?】
【ひぇっ】
【じょばばばば】
【もしかして:おじゃる、つよい】
【強いどころか……】
【あの 2対1とはいえ、それに対抗できてる?ノーネームちゃんとGは】
【くっころもくっころとはいえ魔王……そしてノーネームちゃんは女神 劣勢でも食らいつける程度には……?】
――どぉん。
「おー」
ひときわ大きな爆発が全天を包み込む。
その光は、まるで小さな太陽。
恒星がひとつ、この世界に誕生したような光。
【ひぇっ】
【綺麗だけど怖い】
【あの あのひとつひとつが、地球上で爆発したら……】
【1発でもアウトかもな……】
【なぁにこれぇ……】
「このあと、どうなるんでしょうねぇ」
『ぎぃー……』
「戦いたくはないですねぇ」
『ぎぃぎぃー……』
『ぎぃぃぃぃー……』
「しょうがないですよ、軍隊ってのは……小さな集団でも大きな集団でも、集団で生きる以上には偉い人の命令に逆らえないんです。どんなひどいことをさせられても、逆らえない……それは分かってます。君たち下っ端――あえてこう言いますけど、それに対しては怒りこそしても、恨みません。君たちだって、ヤだからって逃げることなんてできないんでしょう? なら、しょうがないです。どんな意味でも弱肉強食なんですから」
くぴくぴ。
ばりばり。
僕がこくこくと飲み込むと、彼らはぱりぱりっと酒瓶ごと楽しむ。
『ぎぃー!!』
「お、火を噴いてる。へー」
【草】
【草】
【素直に驚いてる声で草】
【かわいい】
【こんなコメディチックな場面なのに……】
「おうえん」「したの【☆☆☆☆☆】→【★★★★★】」「ぶくま」「おねがい」




