639話 敵の合体攻撃とイスさんのバリア
「えいっ」
ひゅんっ――と飛んだ矢を分裂させ、僕へ攻撃しようとブレスを抱えたドラゴンさんたちのお口へ投げ入れる。
――どどぉんっ。
ドラゴンさんたちはでっかいお口から体に貯めた魔力を全部使って誘爆し、ついでで近くに居たドラゴンさんたちも巻き添えでさらに爆発は広がっていく。
「うん、これは楽。コアを厳密に狙わなくってもお口に投げ切れたら当たるし、当たったら数匹はまとめて倒せるし」
コスパ。
やはり遠距離職はコスパが鍵なんだ。
【ハルちゃんの戦い方……エグくない……?】
【まるで1対多数の戦闘経験が豊富なような】
【そらいつもだいたいソロだったし】
【もしかして:ラグナロクでも戦いながら逃げて生き延びた】
【あー】
【こんな感じでか……】
【それならこの落ち着きようも納得できるか】
【これまでのピンチでも、るるちゃんとか子供たちがやばいとき以外はほとんど動揺してなかったのも……】
【一方的に攻撃できる手段&敵を一撃で倒せるって特殊なスキル?こそ持ってはいるけど、それをこうしてダンジョンの中でのなぁにこれぇ……みたいにトリッキーに使えるのは、さすがハルちゃん】
【草】
【草】
【混じってる混じってる】
【でも、これ以上の戦いを、ずっと……】
【ハルちゃん……】
【地獄を見て、疲れて 記憶も飛ぶよなぁ】
【すり切れるよねぇ……】
【それにしてもハルちゃん、やっぱつえーわ】
【安心感もあるよね】
【ポップコーンと炭酸片手に観戦できるもんな!】
【おビール様もいいぞ!】
【草】
【完全にスポーツ観戦になってやがる……】
【まぁ応援くらいしかできることないし】
【ハルちゃんなら「同情とか悲しむのとか意味ないのでやめてください」って言いそう】
【ハルちゃんなら「そんなことよりお酒奉納してください」って言いそう】
【草】
【草】
【それはそう】
【未開封のカップ酒……持ってくか……】
【仏壇へのお供えものかな?】
【宗教的な意味合いではそう】
【アルム教は常にハルちゃんを称える信者を募集しています】
【草】
【さすハル】
【そら女神様だし】
【そうじゃなくて、戦い方がスマートなんだよな】
【だってかしこい幼女だもん】
【かしこくない、もといちょうちょな幼女は?】
【あれは精神汚染がメインウェポンだから……】
【固有魔法が種族魔法だからね】
【気をつけろ、脳が羽ばたくぞ】
【ああ……脳梁が千切れて左右に分裂してな……】
【草】
【かよわい幼女は?】
【あれは庇護欲誘って戦い自体を起こさせない戦法だから……】
【何が相手でも保護者にする究極の魔法だからね】
【気をつけろ、ちいさきものへの愛であふれていろいろおかしくなるぞ】
【父性と母性が高まりすぎて急に結婚したくなるぞ】
【草】
◇
相手のおおざっぱな攻撃を避けては、1回の攻撃で最大数十を倒せるっていう楽々戦闘をし続けていたけども……やっぱ疲れてきた。
うん、開幕で蹴散らかすのは今でも良い判断だったって思ってはいるけども……1回魔力が満タンになって元気になってたのから、まただるーんな感じになってきたのはやっぱりだるい。
光の矢を分裂させる個数――同時に狙える敵の数も、減らさないとブレて外すようになってきたし、単純に集中力が切れてきてるのもある。
だって僕、ちいっちゃなるるさんと別れてからずっと忙しいんだもん。
そうして、ちょっとでもぼーっとしてたのがいけなかったんだろうか。
さすがに10回以上はおんなじ戦法を続けたからか、明らかにブレスを警戒してお口を開けなくなってきたから敵の攻撃も届かないし僕も攻撃しなくなってきたって思ったら、
『……ギィー!』
「!」
探知スキルが、強烈な危機を訴えてくる。
――ごぉっ。
「あ、これやばいかも」
ばさっ――羽へ魔力を注ぎ込み、急旋回。
どうやら怒らせちゃったらしく、明らかに彼らのレベルを超えた魔力が詰まった炎が――直径1キロくらいの丸太となって押し寄せてきている。
……ああ、なるほど。
僕の疲労を待って、こっそり準備してたブレスをまとめて放出――ちょうど僕に焦点を合わせて柱をぶっとくして物理的に回避できないようにしてるんだ。
「ぐっ……曲がれ……っ」
ぐぃーっ。
羽の1枚1枚まで神経を通わせて、全力で回避運動。
【あああああ】
【あああああ】
【こわすぎる】
【がめんがまっかっか】
【ひぃぃぃぃ】
髪の毛がすごい勢いで引っ張られるし服は脱げかかるしで大変なことになってるけども、今はそんな場合じゃない。
あんなブレスの炎が直撃したら髪の毛も燃えちゃうし服だって燃え尽きてすっぱだかになる。
……すっぱだかで済むとは思ってないから、息も止めて加速を続ける。
けども、
「あっ」
あと数メートルってところで、追いついちゃった炎が――
きぃんっ。
「お?」
何かの力で弾かれる感覚。
覚悟していた熱さは、焚き火に近づいて火傷しないぎりぎりを攻めた程度で済んでいるらしい。
けど、何が?
「……あ、イスさんの防御魔法だ」
僕を取り囲むように――ああ、確か結構前、くっころさんがノーネームさんをいたぶる姿を僕に見せるため、しゃぼん玉みたいな中に押し込められたのを思い出す、球形のバリア。
防御魔法――バリア。
それを、こういう全周からの攻撃を避けるために使うなら、こういう形状が最適なんだね。
「そっか。君も、ここに居たんだね」
僕は、そっと胸を押さえる。
……そうだ。
戦艦さんを持ち上げるために力を使わせてくれてから……ずっと、そばに。
「ありがと」
思えばイスさんは――確かノーネームさんの仕業で潜ることになった500階層のダンジョン、あそこに入るときからずっと一緒で、ずっと僕を寝かせてくれてた。
「できたら、もう少し一緒に戦ってほしいな」
きっと聞いているだろう彼へ、語りかける。
「たとえ負けるにしても――『結構困るからこのへんにしとこう』って、おじゃるさんたちに思わせてからにしたいから」
定期のないない(治療)のため、次回の投稿は18日火曜日の予定です。
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