637話 【朗報・2章ぶりの戦闘】
――しゅいんっ。
僕の左手に、光の弓が出現する。
僕の右手に、光の矢が出現する。
「……この力も、神族としての。うっかり人に見られたのが神話に残っちゃったりしたみたいだけど」
【えっ】
【草】
【うっかり!?】
【ああ、そりゃあ神様だもんな、神様スケールならうっかりだよな……】
【なんてことだ、俺たちの神話は神様のうっかりだったのか……】
【ハルちゃん見てたら分かるけど、かなーりのんびりだし緩いからねぇ……】
【ノーネームちゃんもわりと雑だしなぁ】
【数千年生きてまだ幼女ってのが神族の時間感覚ならなぁ】
弓の弦に矢をかけて、右手の指をかけたところに乗せて――持ち上げて、引き寄せて。
「……このやり方、この弱った状態の体でも力を使わなくて良いから楽なんだったね」
「僕が男として生きてたとき」に、市民なんとかで教えてもらった和弓ってやつ。
あれが、非力な幼女になってから活きるだなんて、誰が思うんだろうね。
――きりきりきりきり。
『ギギ!?』
『ゲッゲッゲッ!』
ぼんやりしていた僕が急に攻撃の準備を始めたからか、ドラゴンさんたちが慌て出し――襲ってくる。
【あっ】
【来てるぅぅぅぅ】
【おろろろろろろ】
【もはやでっかい壁になってる密集陣形が、面でハルちゃんを包もうと】
【物量が怖すぎる】
【ハルちゃん早くー!?】
「……この数は、さすがに全部当てられない……なら」
羽でくるりと体を回転させ、矢の先っぽを――すでに完成している黄金の鐘の真ん中に照準させる。
きりきりきりきり――しゅぱんっ。
離した右手と反対側へ、勢いよく輝く矢が飛んでいく。
「……っ」
くらっと、かなりのめまい。
そりゃあそうだ、魔力が底をつくクセがついてるところに一気に満タン近くなって、それの大半をまた鐘と矢に注ぎ込んでるんだから。
ひゅるるるる。
――りんごーん、りんごーん。
魔力を限界まで注いだ矢が鐘を鳴らし、そのまま数百に分裂。
りんごーん、りんごーん。
たくさんの威嚇する声以外は無音の空間に、大きな鐘の音が響く。
それと同時に分裂した矢がそれぞれ反射して、面になって押し寄せてきていたドラゴンさんたちへと襲いかかる。
『『『ギー!?』』』
どどどどどどどんっ。
彼らの居た場所が、無数に炸裂する金色の花火と化している。
「たーまやー。たまやって何なのか知らないけど、たーまやー」
こういうかけ声とかってさ、創作物の中でしか知らないんだもん。
だって僕、花火大会とか誰かと行く趣味なかったし。
【草】
【かわいい】
【かわいい】
【この気の抜け具合だよ】
【感動した】
【「玉屋」と「鍵屋」とは江戸時代の有名な花火師の屋号うんぬんかんぬん】
【マジか】
【今初めて知ったわ】
【え、知らなかったん?】
【知る機会がないと知ることはなさそう】
【意味とか分からずに使ってる言葉とか多いよね】
【わかる】
「花火大会とくれば日本酒だよね」
きゅぽんっ。
「んくんく……ぷへぇ」
まだまだ炸裂し続けている――余剰魔力が推進力となって、軍団の後方へも飛び火するような貫通力を出し続けるし、そもそも鐘からも魔力の限りに矢が面制圧するために発射され続けているからね。
撃ち漏らしがあろうとも、古今東西の戦争は遠距離武器がメイン。
数での弾幕で敵の大半を削れば良いんだから。
【草】
【やっぱりかわいい】
【かわいいけど……】
【油断……いや、ハルちゃんのことだからこれが正常か……】
【うん、普段通りだね】
【これまでも、一部のボスモンスターとか以外相手では基本遠距離無双でハルちゃん自身は安全でお酒飲んでたからなぁ】
【草】
【お酒はやめようね……って前までなら言ってたね】
【そしてくしまさぁんから怒られるってちょっぴり怯えてるんだ】
【くしまさぁん is goddess】
【ままぁ……】
【ふたりきりになっちゃったハルちゃんにとって、くしまさぁんがマジでママ代わりだった可能性】
【ぶわっ】
【なかないで】
【これはもうくしまさぁんにママになってもらうしかなくなったのでは?】
【くしまさぁんを崇めよ!】
【大丈夫大丈夫 もう名誉女神だから】
【草】
【人でありながら、存在としては女神に……】
【くしまさぁん……】
『――ギャギャギャー!』
「お」
のんびりお酒を飲むついでに――やっぱりお酒に魔力含まれてたんだね、今の魔力量だと微々たるものだけども――ほんのり元気になりつつあったけども、さすがに込めた魔力が尽きたせいか、花火は静かになってきていた。
頭の上の鐘も、もうほとんど光らなくなっていて霧散して行っている。
つまり、
「ここからは真面目に戦わなくちゃね。敵が一斉に襲ってくる防衛戦だ」
花火の中から次々にドラゴンさんたちが飛び出してくる光景。
「……どこまで持つかは分からないけど……やれるだけやってみよっと」
光の弓矢をつがえるも、感覚的に――撃てて、数百発。
それ以上になる前に僕は羽で飛ぶこともできなくなって、さりげなく引力のあるおじゃるさんの玉へと――ドラゴンさんたちへと吸い寄せられていく。
「本当はもうとっくに死んでるところを生き長らえてきたんだから、たとえここで散っても。………………………………?」
あれ?
僕、死んでた?
え、でも、僕、ただ男から幼女になっただけだし……うーん。
「………………………………」
……記憶が混濁してる?
なんでだろ……ここ最近で何回も魔力切れになったりレベルが落ちたりしてたからかな。
ちゃんと生きてるはずなのに、心のどこかで「でももう死んでるし」って思っちゃうのは。
「おうえん」「したの【☆☆☆☆☆】→【★★★★★】」「ぶくま」「おねがい」




