632話 三つ巴の龍による女神争奪戦
『オォォォォ――――――!』
小さなドラゴン――通称「くっころG」から、何十もの魔法をかけられたブレスが吐き出される。
その温度は数千度に達し、もはやドラゴンとしての魔法の域を超えつつある――が。
『ぐっ……貴様……! 人間共の魔法を取り入れたのか! 木っ端だとて高貴なるドラゴンの、魔王を名乗るだけありながら……!』
そのブレスは――放った個体の100倍はある巨体ながら、真空に近い空間を軽々と飛翔して回避したドラゴンの尻尾をかすったものの、わずかなダメージすら与えることは敵わない。
『ああ、そうだとも! 私は姫に幾度も激しく折檻をしてもらい理解したのだ! 矮小な人間たちが私たちドラゴンをも屠りうる魔法の技術――それを用いれば、こういうことも可能だ! 愛こそ、至高なのだ――このようにな!』
――外れたはずのブレスは威力を落とす前に軌道を自力で修正し、回避したと油断した巨体へ……今度はわずかであってもダメージを与えた。
『ぬおっ!? おのれ……朕の体に!』
『ふっ……その痛みで孕むほどにならねば、貴様はまだまだあの姫にふさわしくはないな』
『おのれ、何様のつもりでおじゃっ!?』
……会話こそどうしようもないものだったが、本来なら圧倒的格下でダメージが通らないはずの「気色悪い雑魚」から与えられた、焦げ痕。
それを知覚した魔王――大魔王、通称「おじゃる魔王」は、木っ端のはずの雑魚を「敵」と認定する。
『だが所詮は雑種よ! 朕のような生まれついての支配者に――』
『……GAAAAA――――――!』
『ぬぉぉ!?』
――ドラゴン同士の仲間意識、かつ弱小勢力とはいえ魔王は魔王。
自然、痛めつけて諦めさせるという選択肢を無意識で取ろうとしていた巨体が――それ以外の存在は取るに足らないと警戒を怠っていた魔王は、横っ腹へ強烈な衝撃を受けて吹き飛ぶ。
『おじゃああああ――――――!?』
『ないない』
『……おお! 先輩よ! まさか龍化魔法まで獲得されていたのですか!?』
――ばさっ。
漆黒の鱗に燃えるような瞳――そして、頭上に漂う紅の輪。
それは、神族でありながらドラゴンになっているノーネームだった。
『素晴らしい……他種族への変化は困難を極めると言うに!』
『ないない?』
『む? 私ですか? 私も他のドラゴンよりは長期間人間の姿になれますが、その本質を再現するまでには至らず……』
『ないない』
『なんと! 勝利の暁には人の姿であれば姫に侍ることも……助言してくださると! 先輩よ!』
『ないない』
『ええ、もちろんです! 先輩の誤解された愛のこと、私からも姫へ伝えましょう! それは真の愛であると!』
――がしっ。
なぜか女騎士になりたがる魔王のドラゴンと、「彼女」に比べると子供のサイズのドラゴンになっている、ハルにぞっこん過ぎて危うく見捨てられそうになっているノーネーム。
今、ここに同盟が――
『――じゃあかしい! 2匹ともまとめて焼き払い、本体を探し出して朕直々に教育し、ドラゴンこそがこの世で最も気高き存在と叩き込んでやるわ!』
そんな2匹を襲う、先ほどのブレスの数十倍のエネルギーを持つ攻撃が放たれる。
――この状況でも、まだ魔王は「おかしくなった同胞と神族を再教育してやろう」と思っていた。
だがそれはそれ、予備の体を作り出せる種族は「とりあえず殺して黙らせる」という選択肢を選ぶもの。
ここに、最大勢力の魔の王と――弱小勢力の魔の王と神族の「王の片割れ」の……数千年前に起こった「天と魔の戦い」以来初めて、雌雄を決する戦いが始まった。
◇
――どぉん、どかぁん。
まるで連鎖爆発している花火大会みたいな光景。
昼間の太陽みたいなまぶしさ――いや、太陽そのものが宇宙空間に出現している。
そんな感じ。
「おー、やってるやってる。やっぱノーネームを加勢させて良かったみたい」
こくっ。
僕はノーネームさんをけしかけてから一服しつつ、その戦いを見物中。
「……けど、まぶしすぎておじゃるさんくらいしか見えないや。あの人、でっかいからなぁ……んくっ」
【草】
【草】
【花火大会を見にきた子供かな?】
【それを肴に酒飲んでるから大人だぞ】
【草】
【ハルちゃん……悪女……】
【見方によっては、超やべー魔王&改心させたけどやっぱ強いしくっころな魔王G&女神なのになぜかドラゴンになれるノーネームちゃんを、自分を報酬に戦わせてる悪女なハルちゃん】
【草】
【やだハルちゃん、とうとう女の武器を自覚し始めたか】
【もうだめだ……】
【ただでさえいろいろと最強のハルちゃんがこれ以上強くなったら……】
【これは傾国の姫】
【宇宙規模で姫プしてる】
【宇宙規模のサークラか……】
【ハルちゃん自身にその自覚がないあたりは間違いなくサークラの姫】
【ハルちゃんの伝説が、またひとつ……!】
「おうえん」「したの【☆☆☆☆☆】→【★★★★★】」「ぶくま」「おねがい」




