627話 反撃の矢
『姫という「さらなる上位種族」に支配されたからこそ、私はドラゴンとしての――支配者としての本能から、開放されました』
『ドラゴンとは、基本的にそういう本能を持つのです』
『これは、抗いがたい本能』
『女神であらせられる姫が、神族の被造物を救いたいと思われる気持ちと同じく、存在する限りに抱く使命』
『それは――ドラゴン、そして魔王というものは「心から他者に服従したときにのみ、その本能が書き換えられる」もの』
『ですから、一撃』
『私にされたように――奴へも、手痛い反撃を』
『さすれば――残念にも姫に心酔せずとも、脅威から少なくとも数千年は手出ししてくることはないでしょう』
「――――――――――………………………………」
耳元でささやかれる気持ち悪いいろいろは、いったん置いておく。
や、置いておいちゃ手遅れになる気もするけども、今は我慢だ。
ぞわぞわするけども、我慢我慢。
――たくさんのドラゴンさんたち、それに謎の――牙みたいな構造体に囲まれた、光る星。
いや、「無数に滅ぼされた世界――それをエネルギーに凝縮した」「球」。
それが――僕のレンジ……射程の中に、在る。
「……まさか、くっころさん……このために、ヘンタイさんなフリを」
『え?』
「え?」
『………………………………?』
「………………………………?」
………………………………。
――しゅいんっ。
僕は、光の矢をつがえた。
ダメだった。
僕の周りは敵だらけだったんだ。
油断しちゃいけないんだ。
えみさんの何百倍やばい人だらけな世界なんだ。
えみさんの無害さが恋しくなるほどなんだ。
るるさんが癒やしになるし、リリさんへも好きにして良いって言ってへっちゃらなくらいなんだ。
【!?】
【ハルちゃん!?】
【速報・ハルちゃん、正気に戻った】
【しかも場所が】
【ドラゴンたちとひらっひらしてて気づかなかったけど……】
【思いっ切り敵陣の真ん中に食い込んでる】
【ちょうちょになる前は魔王(善)が見せびらかしてたダイソン球のド真ん前じゃん!!】
【ちょうちょはやめろ!!】
【ちょうちょ……わぁい、ちょうちょ……】
【力が……抜ける……】
【「ちょうちょ」――それは、ハルちゃんでさえ不可逆な現象】
【もうその話は止めよ??? なんか世界の趨勢を見守ってた俺たちがバカみたいじゃん】
【そうだよ?】
【そうだな……話しているとひらひらしそうだし……】
【草】
『!? ――し、神族の姫よ! 朕とそなたは友になったのではなかったのか!?』
勝手に友達扱いしないでほしい。
僕たちは被害者仲間ではあるけど、まだ戦いは終わっていないんだ。
くっころさんの告げ口のおかげで、油断せずに済んでいるんだ。
けども。
――「これじゃ、とても足りない」。
あの光る球は、とてつもなく大きいんだ。
何かもっと大きくて強くて、射程と貫通力のある遠距離攻撃手段が必要だ。
何が必要なんだろう?
僕にできる、攻撃手段。
「………………………………」
でも、今はこれでも充分。
――ひゅんっ――――――――どぉん。
「おー」
なんだかやけにぶっとい矢が飛んでったと思ったら――動物の檻みたいなやつの1本が、ぽきりと折れている。
「……おー……」
すごい。
この檻からあふれてた魔力を使っただけなのに、これだ。
ごっそりと魔力を使ったのに、すぐに羽から――檻から漏れてきた魔力で回復していく。
「ほー……」
無限だ。
「へー……」
すごい。
【草】
【かわいい】
【かわいい】
【自分の攻撃に感心してるハルちゃん】
【流石は女神様です】
【始原はなんでも全肯定だな】
【左様】
【リリ「ハル様の御業です!」】
【リリちゃんステイ】
【爺さんもステイ】
【こいつら……】
【俺たちとは違ってガチの信徒だからなぁ】
【しかしこの威力はすげぇ】
【ハルちゃん、何回か攻撃したら魔王の大切な球破壊できるんじゃ】
【魔王の玉を破壊するだって?】
【ふぅ……】
【世の中にはだな 蹴って破壊してもらうという性癖があるんだよ】
【ひぇっ】
【気持ち悪すぎるから止めろ!!!】
【ハルちゃんが久しぶりに全力出してるのに……】
『――何をする!』
「おじゃるさん、どうせそのうち僕のことに飽きて他の世界に手を出し続けるでしょう? なにしろ魔王さんですから」
『そんなことは!』
「じゃあ宣言できます? 『僕だけに一筋です』って。『浮気しませ』んって」
とりあえずとして揺さぶりをかけてみる。
……気持ち悪いささやき方をされたから攻撃しちゃったけども、よく考えたらやっぱりくっころさんよりはおじゃるさんの方が親近感は湧いている。
――もし、これで即答してくれるんなら。
『………………………………』
……そう、思ったのに。
「嘘つき」
『ち、違うでおじゃる!』
「何が違うんですか嘘つき」
『ち、朕は! そなただけを……愛するでおじゃる!』
「今、言いよどみましたよ。そんなつもりはないんですね」
そもそも君、僕のことを「女の子」として好き勝手したいって言ってたよね。
「えっちなんですね。スケベなんですね」
『違う!!』
【えっち】
【えっち】
【ふぅ……】
【\300000000】
【ひぇっ】
【たったの一言で億単位の投げ銭を出させるハルちゃん】
【ハルちゃんの言葉はなぜか心にきゅんとくるからね】
【分かる】
「僕の体にしか興味ないヘンタイさんなんですね」
『待つでおじゃ!? なんだか非常な誤解を――』
誤解?
するもんか。
いつだって男は女の子にえっちなことをしたい存在なんだ。
それは男だった僕だからこそ分かるんだ。
最終的には女の子な僕にえっちなことしたいことしか頭にないおじゃるさんなんて、信用しちゃいけなかったんだ。
「おうえん」「したの【☆☆☆☆☆】→【★★★★★】」「ぶくま」「おねがい」




