626話 気持ち悪いけど役に立つくっころ魔王さん
『先輩騎士と相互理解がっっっっっ!!!!』
【理解】
びくんびくんと蠢いているくっころさんに、僕は引いた。
「うわぁ……」
部屋の中で突如として出現した黒くてかさっと動いて触覚をにょきにょき動かしているのが、なぜかとち狂ったのかそれとも人間だった僕を同族と見たのか、ふと手元を見たら机の縁を通ってキーボード付近でかさかさしてて危うく指が触れそうになって本気で悲鳴を上げそうになったあのときくらいのすさまじい生理的嫌悪感を催したんだ。
『……姫……いや、女神には同情するでおじゃる……あと、もうなんかこう気持ち悪いから、こいつ倒したらサクッと白黒つけるでおじゃる……あんまりにも悲惨すぎて、朕が勝ったならば女神は朕の勢力下に居る限り、庇護下の者共のことは好きにすれば良い……時たま相談相手にさえなってくれたなら……こんな同族のせいで、余りにも無残な仲間として……友として、傍に居てくれさえすれば、もう……』
あれ?
なんか要求が急に激しくダウンして、負けても良くなっちゃった?
「そうしてくれると嬉しいです」
信用はできないけども可哀想な人だし、とりあえず返事しとこ。
気分屋の人相手には合わせないとね。
【草】
【草】
【朗報? 悲報? Gのおかげでハルちゃんが負けても無事っぽい】
【感動した】
【でもくっころGは滅ぼすべき】
【なにはともあれ宇宙級のドMは滅ぼされるべき】
【草】
【ギャグ空間のおかげで一気に形勢が逆転したぞ! 未だハルちゃん、くっころなんてサクッとやっちゃえ!】
僕はちょっと気持ちが落ち着いた。
ヘンタイさんを遠目で眺める仲間ができると安心するよね。
あと、なぜか僕の嫁入り?の話がなくなって、代わりに相談役になっていたらしい。
あとはくっころさんを倒すだけだね。
「がんばってあのくっころさん倒してください、魔王さん」
『朕に任せるでおじゃ!!である!!』
頼もしいね。
【悲報・くっころGとノーネームちゃん、もう手の施しようがない】
【草】
【草】
【ハルちゃん&おじゃる魔王連合軍 VS. ノーネームちゃん&くっころGか……】
【戦況が刻一刻と入れ替わるな……】
【外宇宙は複雑怪奇】
【戦場は生き物だからね】
【強い方が必ずしも勝つわけでもなく、負けるはずが何かひとつでひっくり返ることも多いからね】
【あ、えみちゃんはくっころ軍へ】
【じゃあくしまさぁんはハルちゃん軍へ】
【るるちゃんは……どっちだろう】
【んー、どっちかっていうと常識人サイドじゃ?】
【ヤンデレでも?】
【ヤンヤンでもわりかしまともな方だし】
【なんだかんだ純愛だからね】
【何よりもハルちゃんが帰って最初に会いたい子だからね】
【ならよし】
【異議なし】
【リリちゃんは?】
【たぶんくっころ】
【だよなぁ】
【かわいいけど変態成分にじみ出てるからなぁ……】
【エリザもといリリ・リオンブレイズ「私はここまでではありませんよ!?」】
【草】
【あ、リリちゃんがとうとう我慢できずに】
【そらそうよ……】
【ていうか名前かっこいいよね、リリちゃん】
【まぁガチ王族だし】
【ガチ王族(異世界と欧州両方で】
【クンカー趣味さえなければなぁ……】
【あと全肯定……あれ? やっぱくっころサイドじゃね?】
【仕方ない、貴重な銀髪っ子を敵サイドにトレードだ……】
【草】
【ああ、子供たちも始原もくっころ側か】
【闇の勢力が優勢か……まずいな……】
【ちょうちょはどっち?】
【バカ、あれを含めた瞬間ギャグ展開で崩壊するぞ】
【絶対おかしなことになるから見ちゃいけません!!】
【ごめんなさい、吊ってきます】
【待て早まるな、ハルちゃんが悲しむぞ】
【そうだぞ、お前はちょうちょの犠牲者なんだ】
【草】
【なぁにこれぇ……】
【もはや世界全体がくっころGにかき回されてて草】
『――――――――姫よ』
「?」
――ぼそり。
くっころさんが僕の耳元にささやきかける――思わずで全身の肌がびびびって沸き立つ感覚。
念話?
余計に気持ち悪いよ?
「気持ち悪いので――――――――」
『――――――――うっ……ふぅ……卵……ではなく。上を、ご覧くださいませ』
「上?」
耳元にカメムシさんとカナブンさんが一緒に潜り込んできたくらいに気持ち悪かったのを抑え、僕はその方向へと目をやる。
『――――――――純粋な魔力へ変換された、魔界』
『それは――ここまでの茶番のあいだに、「姫の間合い」です』
僕は、光る球――たくさんの世界を踏み潰して作り上げられた、いくつもの世界ごとエネルギーになっている「恒星」を見上げる。
――本当だ。
「この距離なら、魔王さんに邪魔される前に1発かませられる」。
『この者は――私の対処が済み、時間が経てば……必ずや、ふたたびに姫と姫の愛する種族を襲うでしょう。支配者とは、常に支配を求めるもの……そのうちに私への嫌悪感も薄れ、あるいは私を倒し、侵攻を再開します』
……そうだね。
君みたいに、えみさんの上位互換みたいなのにならない限り、いつかは裏切りそうだもんね、おじゃるさん。
おじゃる魔王さんと僕は苦労人仲間だけど、それは苦労させてくるくっころさんが居るから。
そのくっころさんがおとなしくなったり、負けて倒されたりしたら。
『ですので――今』
『奴の無限にも等しい魔力源――これを叩けば、数千年は力が弱まるでしょう』
……数千年。
少なくとも、今の地球文明が残ってるか分からないくらいの時間。
くっころ魔王さん……もしや、初めからそのつもりで、あえて道化を――
『ひとまずは最新の卵の認知を……そして名付けと魂入……』
あ、違う、この人はえみさんなんか目じゃないくらいやばい人なんだ。
僕に卵産まされる妄想で本当に卵を産んで差し出してくるやばい人なんだ。
人のことを勝手に襲ったり襲ったと信じ込んで卵産むとか、ぜったいやばい人だもん。
こういう人は利用しようとも、決して信じちゃいけないんだ。
本日、ハルちゃんの2巻が発売されました。
よろしければお手に取ってみてください。
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