62話 はじめてのびょういんたんけん feat. 始原
なんだか久しぶりに人がたくさん居るエリアに出現した僕。
こういうの、ほんとに久しぶりだ。
隠蔽もほぼ切るレベルだと……この体になって以来かも?
けどやっぱなんでもおっきいなー。
「ほぇー」
思わず口が開いて声が出る。
この体はいつもそうだ。
【ぐっ……】
【うっ(尊死】
【「ほぇー」とかリアルで……ああうん、幼女だもんね……】
【天然の破壊力】
【これが中身――なのか……】
【いいだろう?】
【ああ、すごくいい……】
【さらに良いよな……】
【俺たち立派なストーカーじゃね?】
【今さらだろ】
【とはいえこっちから配信切れないしなぁ……】
【だってノーネーム様が見ろっていうんだもん】
【そうだ、ノーネーム様のせ……おかげだな!】
【勝手に外に出ちゃう系ハルちゃんだから見張ってないといけないからね、しょうがないんだ】
【そうだ、しょうがない】
【一応後で許可は取る 本人に】
【普通に許してくれそう】
【本当、自分にはとことん無頓着だもんね、ハルちゃん……】
【大体のことにだろ】
【そうだった】
【草】
【この幼女、完璧に理解されている】
【我は始原はハルたんを知り尽くしているからな】
ぺったんぺったん。
でっかめなスリッパで廊下に出て適当に歩いていた僕。
そういえばなんだけども、リリさんは装備こそ解いてたけどダンジョンの中で見た格好そのまんま。
頭の髪飾りとかは外してたけども、タイツ?なインナーとかはそのままで過ごしやすそうだった。
一方の僕は、映画とかでみるような、入院してる人が来てるあれを着てる。
あれってなんて呼ぶんだろうね?
まぁいいや、どうでも。
【ハルちゃん、まーた抜け出してる……】
【えみちゃんはともかく他の子はどうしたのよ】
【るるちゃんは現在精神科 九島も】
【おい、また不意に配信復帰する可能性あるんだぞ】
【ここのコメントは1分経ったら手動で消してはいるけどな、気をつけろ】
【悪い……あの救護班も手続きに向かっている なにしろハルちゃん、運び込まれてひととおりの検査受けて何時間か寝てたからな】
「ほー」
【あっあっ】
【あっ……(昇天】
【ハルちゃんってひとりごと……っていうより子供みたいにつぶやくクセあるのね……】
杖をついてる人、車椅子の人。
包帯な人。
あと白い服の看護師さんたち。
いいね、こういうの。
や、あの人たちに言っちゃ悪いんだけども、健康だった僕にとって初めてだもん。
テンション上がるくらい許して?
ほら、この通り今は幼女だからさ?
だめ?
「……………………………………」
さすがに病院の中じゃ珍しいけど注目はされないだろうってことで、隠蔽はほとんど解いてるから普通にこの姿が見えてるはず。
ぎりぎり顔を認識できない程度にしてるから、僕を知ってる人じゃないとたぶん僕だって分かんないだろうし、万が一知られても後で思い出せないからセーフ。
改めてダンジョンで得たものは素晴らしいね。
その代償が幼女ってのも最近慣れてきたし。
【とことこハルちゃん】
【ぺろぺろ】
【ずっと寝てたけど寝返り激しいタイプなのね……】
【そして抱きつき癖あり……と ふむ……】
【カメラ操作しないとBANされそうだったもんな、いろいろと】
【一応監視カメラからどうにかしてオンラインの回線経由してるからなぁ、この映像】
【おぱんちゅ……ふぅ】
【うわぁ……】
【あそこは見てはいけないの じゃないと性別が確定しちゃうから 見なければ確定しないの 測定しなければ誰でもショタっ子!!!!】
【ああそっか、ショタかロリかって見えかけたあの布で分かっちゃうもんな……】
【ショタコンもたいへんだな】
【生涯のアイデンティティーがかかっている問題だからね!】
【そこまでかよ】
【草】
【もう分かってるくせに……でも嫌いじゃないよ、そういうの】
適当に人の多い方へ向かってたら、待合室的なとこに来たっぽい僕。
「ほー……」
この体になってから人混みを避けてた――いや、男だったときから人混みに行くと疲れるからって避けてたから、特に用事もないのにこういう人の多いところに顔出してみるとかいうのなんて、もう子供以来かも?
子供以来で子供になってまた自分から混じる感じ。
そんな感じ。
なんだか新鮮だね。
「……ね、あの子……」
「……配信終わってから確か……」
【誰かの見舞い?な学校帰りっぽいJKたちがハルちゃんにお熱】
【まぁ分かるよね……】
【特徴的すぎる見た目だもんね……】
【でもハルちゃんガン無視】
【草】
【ガン無視っていうか単純に気が付いてない】
【ああ、ハルちゃん天然っていうか】
【自分の関心あることしか見ないもんねぇ……】
【こう、目線の先の1点しか見てない的な】
【周囲を敵か味方かでしか判定していない】
【それでよくもまあレンジャーを……】
【スナイパーには向いてる性質じゃね?】
僕みたいな子供もちょくちょく居るし、僕自身もこの格好。
ちゃんと紛れてるから問題ないってことでぷらぷら。
今どきは国際化しているし、ダンジョン関係で髪とかおめめの色が多種多様になっているからか、金髪碧眼幼女な僕でもそこまでは目立たない。
けど……いいなぁ。
なにがって、僕がちゃんと人間としてカウントされてるってこと。
……男のときだってそれなりにはカウントされてたけども、それは置いておいて……この姿になってからはほぼ隠蔽使って隠れっぱなしだったからなぁ。
だって、身分証のない幼女だもん。
職質――や、補導のお巡りさんに補足されたらおしまいだもん。
だからずっと、隠れ通してたわけだけど――今日はこうして、ぼーっと人前に出ていられる。
男のころと同じように、なんにも考えないでぬぼーっとしててもへっちゃらな解放感。
なんか感慨深い。
「ふぉ――……」
【あっあっ】
【ハルちゃんってため息っぽいの多いよね……】
【自分で何かに納得するような感じ】
【でもそれが?】
【すっごく好き♥】
【スーツ着たおっさんがそれ書き込んでるの目の前で見てるんですがそれは】
【いいの! ハルちゃんウォッチしてるあいだだけは……うん……国家のいろいろとか考えなくてほんと、胃のしくしくが楽になるから……】
【ぶわっ】
【切ねぇ】
【でもその原因、ここ最近の大半は……】
【ハルちゃん】
【なるほど、これがマッチポンプというやつか】
【草】
【ハルちゃんのせいで苦労してるのに、ハルちゃんのおかげで安らいでいるんだ】
【まぁそれはそれで……ふぅ……】
「金髪ロング、蒼い目……やっぱりそうだよね?」
「事務所的に話しかけていいのかなぁ」
「ん――……特に公式には書いてないかなぁ」
【ハルちゃんに声かけようとしても一応確認してる良い子たち】
【えらい】
【今どきはダンジョン配信アイドルも身近だしな】
「あっ」
僕……お金持ってきてない。
というかスマホも部屋に置きっぱなし?
ごそごそとぼけっと漁ってみるも、無一文は確定。
つまりは……いい感じの売店で買い物とかできない。
「……むー」
【むしゃくしゃしてたのは治ってるっぽいけど地味にむかついてるっぽいハルちゃん】
【かわいい】
【大抵のことはどうでも良さそうな反応のハルちゃんなのに】
【ハルちゃんがむかつくって……何に対して?】
【さぁ?】
【この世界の不条理さとか?】
【ああ、天使だから普通とは思考回路が……】
【今すぐあっちに行って面倒見たい衝動に駆られる】
【俺も】
【私も】
【儂も】
【じじいは心拍数上がってるから気をつけろ】
【ここに居る俺たち始原、みんな同じさ】
【多分あの子たちもそうだよ】
【ハルちゃんを目にした瞬間から魅入られるのだ……】
【今のところハルちゃんの盗撮っぽいこれ、やっぱ普通の回線には出てないわ さっきの最下層のときみたいにアーカイブにも残らない……?】
【監視カメラ、ハルちゃんを追って切り替わってるもんな……】
【しかもおかしいレベルの高画質……やはり……】
【分からないからNGワードには気をつけろよ】
【またいつ新規が合流してくるやも知れん】
【新規(400万人】
【古参(10人】
【古参(+2人】
【俺たちはいつまでも古参だから……】
【あ、とうとう女子たちがハルちゃんに……!】
「……あ、あの、あなたってもしかして――」
あ、鼻むずむず。
「へくちっ」
【草】
【なんでそこでくしゃみなのよハルちゃん草】
【かわいいくしゃみ】
【助かる】
【助かった】
あー、なーんかむずむずする……花粉?
やだなぁ、この体になって花粉症も治ってたのに。
「 」
「 」
「 」
【あ、JKたち、ハルちゃんの後ろでキュン死してる】
【腰砕けとか……】
【分かる】
【目の前で聞いちゃったらねぇ……】
【俺たちの半数も悶えてるからな】
【今の、ハルちゃんが本当に何も考えてなくて何も気が付かないでしてたのって地味にすごない?】
【ハルちゃんだし】
【ハルちゃんだよ?】
【ああうんそうだったわ……】
【たぶん、無意識レベルで自分の邪魔されたくないんだろうね……】
「はぁ……」
……戻ろ。
現代社会はお金がないと何もできないんだ。
目の前にどれだけ楽しそうなものとかおいしそうなものがあったって、お金がなきゃしっしってされるんだ。
「この世界は不公平」
【「ふこうへー」かわいい】
【草】
【いきなりどうしたのハルちゃん】
【なんで唐突に世界の不条理さ説いてるの……?】
【分からん】
【ハルちゃんの思考回路が一切分からん】
【これで分かったらたいしたもんだ】
「……やっぱり天使ぃ……」
「本物ぉ――……」
【あのJKたち、腰が抜けて立ち上がりかけてたイスに座り込んでるんですけど……】
【まぁ、そうなるな】
【誰だってそーなる、俺だってそーなる、今なってる】
【ハルちゃん、本当に人間? やっぱダンジョンから来た天使じゃない??】
【現段階ではそういうことになるな】
【あのロケットで舞い降りてきた可能性も】
【草】
じーっと売店の方見たけども、諦めた僕は引き返す。
「?」
「へぁ――……」
「………………」
女の子たちが2人。
【!!!】
【ハルちゃん! 今だよハルちゃん!!】
【あの子たちだけじゃなくて周りの人とか完全に気が付いてるよな】
【みんな立ち止まってるもんな】
【でもハルちゃんに近づく勇気のあるのはあの2人だけ……だった】
【だった(過去形】
【だった(近づいたら瞬殺】
【やはり殺戮の天使……】
【また繋がっちゃったねぇ……】
「……………………………………」
……誰かのお見舞いで、待合室で寝ちゃうくらい疲れてるんだ。
この子たちは偉いね。
誰さ、最近の若い子はダメだとか言ってたやつ。
それ言われたら今の僕だってダメダメってことになっちゃうんだからね?
【悲報・ハルちゃん気づかず】
【まさかの素通りで草】
【えぇ……】
【自分の方見ながらへにゃんってなってる女の子たち見てもなんとも思わないハルちゃん】
【とことん他人に興味無しなハルちゃん……】
【もうちょっと社交性を……いや、あるんだけどさぁ……】
【人と会話できるのと社交性とは同じじゃないんだな】
【ハルちゃん、ただの人間には興味ないタイプだから……】
スリッパをぱしんぱしんさせながら歩く。
「……?」
そう言えばなんかここ、ずいぶん静かになったね。
やけにアナウンスだけがうるさく聞こえる気がする。
「……………………………………」
【きょろきょろハルちゃん】
【とうとう気づくか……?】
【どうだろう、みんなから見られていても】
【ハルちゃんの性格だからきっと】
「?」
振り向いたけども僕の後ろはただの廊下。
なんだろ、みんなして……まぁいいや。
【お前じゃい!】
【なんで分からないの……?】
【草】
【ハルちゃん! みんなはハルちゃん見てるの!】
【後ろの誰かとかじゃないのよ……】
【やっぱ分かんないよね】
【幼女だもんね】
【それがハルちゃんよ……】
【あ、SNSでぽつぽつスクショ上がってる】
【削除?】
【待て……ハルちゃん、隠蔽スキル使ってるのか、顔はちょいぼけてる、どれも】
【なら大丈夫か】
【ああ、「金髪ロングに病院着な幼女」っていう情報しかない】
【じゃあいいや】
【ちょうどいいから、くし――救護班、病室にやってくれない? そろそろリリちゃんも起こしてあげないと】
【ああ、またエンドレスで倒れそうだからな】
【近距離でハルちゃんを浴びた人間は気絶するもんな】
【耐性があるのはあの3人くらいか】
【まーた新しい伝説が……】




