612話 巨人さんたちの世界はおっきい
きゅぽんっ。
「こくっ……ぷは」
くいくいっ。
【ハル】
【口移】
【♥】
「はいはい、注いであげますから」
【口移】
【♥】
【?】
「? ほら、おちょこに注ぎましたよ?」
【口移……】
【悲】
ノーネームさんはぴこぴこしながらちゅるちゅるとおちょこからお酒を飲んでいる。
うんうん、ワインもおちょこだとおいしく感じるよね。
たまたまなのか、ぴこぴこが反対側向いてるからハートマークしか分からなかったけど、つまりは喜んでるってことだよね。
【ノーネームちゃん、お前……】
【ことごとくセクハラしようとする百合女神】
【ハルちゃんは何とも思ってないから……】
【ていうか気づいてすらいないよな、大半は】
【不思議そうな顔してるだけだもんね】
【ハルちゃんは純粋無垢なのが良いんだよ】
【分かる】
【賢いロリだけど僕っ子ショタで、でもやっぱり子供っぽいところがねね】
【よかった、いつものハルちゃんで】
【ああ】
【俺たちとお別れでも楽しそうにお酒を飲んでいる こういうのでいいんだ】
【ハルちゃんだから湿っぽいのはね】
【そうだよな、里帰り前提だもんな】
【ああ、帰ってきてくれること前提だから泣く必要はないんだ】
「くぴくぴ……ぷは」
……そういえば。
でっかい人たちが天井ぺりぺり剥がしてから、結構濃い魔力が流れ込んできてるみたい。
それを――今までは良く分からなかったけども、羽でたくさん吸収しているらしい。
「じゃあ、人間たちもみんな生えたら良いのにね」
そうしたらみんな、もっともっと魔力を吸収して強くなれるのにね。
【えっ?】
【!?】
【生える!? 生えるって何なのハルちゃん!?】
【こわいよー】
【人類総ショタよ!!!!!】
【うるせえ!!!!!】
【私の願いは――全人類ショタっ子化よ!!】
【は?】
【草】
【始原は恐怖します】
【※女性がいなくなったら人類滅亡の危機です】
【それはまずいな……】
【姉御が荒ぶっててやばいよー】
【なぜかいきなり燃料投入してるハルちゃん】
【たぶん絶対別のこと考えてのひとりごとなんだろうけどさぁ……】
【ハルちゃん、目の前を配信機材が飛んでるのに全然気にしないから……】
【けど、何考えてたらこんなワードが飛び出すんだろうねぇ……】
◇
「お待たせしましたー」
さっきの広場――に近づいてきたときから、もうかなりの天井がぺりってされてて空が高い洞窟っていう不思議な状態になっているのを見上げる。
『めがみ』
『きた』
『やくそく』
『うれしい』
のそ、のそ。
――本当に人間が、教科書とか博物館で見るような原始時代の格好で。
髪はぼさぼさ、ヒゲはもじゃもじゃ――みんな男なのかな――で、駅前によく数本はあるビルくらいの高さの背丈とでかいけども、よく見ると体はガリガリで。
……よし。
次は、君たちだ。
僕は、なぜだか分からないけれども力をもらっていて、この場所に居て――君たちの手助けをできる状況にある。
なら、ちょっと遠出してでも――この人たちを、笑顔にしたい。
【でけぇ】
【こわいよー】
【けど、さっきの話聞いてたら……】
【うん、なんか怖くなくなってきた】
【見たらボロボロじゃねぇか……】
【魔族?なんだよね?】
【魔王とは違うのか】
【本人たちがいじめられてるって言ってるくらいだし】
【魔族は魔族でも、もっと強いやつらにいじめられてるとか】
【モンスターとかもそうだけど魔族も弱肉強食か】
【あー】
【なまじ知性がある方がつらそうね……】
【ダンジョンに居るオーガとかタイタスとかならまだしもなぁ】
【人間も歴史のほとんどで弱肉強食、力 is パワーだったからねぇ】
【ダンジョン?異世界?も厳しいんだな……】
ぱたぱたぱた。
僕は――ノーネームさんは、お酒を飲み終わってもだるーんとして自分で飛んでくれないから服の背中をびよーんとつまんでるままだ――天井があった高度へ、そしてその「外」へと顔を出す。
「……おー」
広い。
前の魔王さんが居たところみたいだけど、ちゃんと遠くに天井と壁がうっすらと見えて、とりあえずで上下左右の感覚が分かって安心できる感じの空間。
「……おぉぉぉー……」
広い。
すごい。
【草】
【かわいい】
【ハルちゃんが感心している】
【大抵のことにはびっくりしないハルちゃん】
【びっくりしたら猫のごとく反応するからね】
【草】
「で。ここってどこなんですか?」
『はしっこ』
『すみっこ』
『にげてきたさき』
『ふきだまり』
……どうやら、あんまり良くない場所みたいだね、ここ。
「先にお願いなんですけど。そのぺりぺり剥がしたのをそっと閉じて、この中の――僕が見てきた世界が見つからないようにしてくれますか?」
あの洞窟――ダンジョンかどうか分からないけども、あそこにるるさんと僕が居たから、このでっかい人たちから見つかった。
なら、そこをしっかり閉じてくれたなら。
『わかった』
『ないないする』
『ないない』
『かみのことば』
『まおうもしたがうことば』
『たいせつなこと』
『おれたちも、しってる』
【♥】
【草】
【ないないだと!?】
【え、この人……人?たちが知ってるってことは……】
【まさか「ないない」が一般的な動詞……動詞?だったとは……】
【草】
【草】
「おうえん」「したの【☆☆☆☆☆】→【★★★★★】」「ぶくま」「おねがい」




