602話 懐かしんだら天井が剥がされた
「あー。結局僕は孤立してひとりぼっちなのがぴったりなんだなぁ」
こくっ。
特に悲しい気持ちは……ちょっとだけあるけども、それがぼくっていう存在。
なぜか幼女になってるし羽が生えてるし今は幼女から女の子になって胸まで生えてるけども、それでも僕は僕。
どうあがいても変わることもなければどう維持しようとしても変えることのできない、僕そのもの。
【うん……ハルちゃん、ひとりぼっちでも結構へっちゃらよね……】
【るるちゃんたちと別れた直後のサバイバルとか今もそうだけど、ひとりでぽつぽつお酒飲みながらつぶやいて平気な顔してるもんね】
【中盤までは配信されてるのか分からなかったってのもあるし、なんなら今も完全に配信されて世界中に見られてるって完璧に忘れてても、それでもぽつぽつやりながら涼しい顔してるしな】
【草】
【草】
【この女神メンタルは見習いたい】
【人は神にはなれなくても孤独を楽しめるんだってね】
【それにメンタルとか精神構造が子供の頃から変わらないってのも妙に親近感あるよな】
【それな】
【それ、私のことだ……】
【それ、俺のことだ……】
【このロリ女神、ことごとく自己完結している】
【人も本質的なとこは変わらないし、しかも数千歳の女神様がなぜか人に拾われて人の集団生活だろ? そら無理よ、変わるのなんて】
【ハルちゃんってコミュ障じゃないよね】
【コミュニケーションを放棄……しがちだけど、基本が全部自分でやるスタイルだしなぁ】
【必要なら意思疎通できる時点でコミュ障じゃないよね】
【ああ、某よわよわVTuberとは完全に違うな!】
【草】
【そういう子引き合いに出すのやめたげてよぉ!】
【ガチでかわいそうなのはNG】
【ほ、保護してお世話したくなる属性はロリ聖女も同じだから……】
【コミュニケーションは普通に取れるし、必要なら一緒に動いたりできる ただ、必要じゃない限りはしようとしないのが大問題なんだ……】
【しかも基本的になんでもできちゃうもんだから、誰にも悟られずに自分から突撃して自分で片づけて自分で帰っちゃって感謝したい相手すら困るっていう】
【草】
【端的な説明助かる】
【居るよね……自分からそういうことしちゃう人って】
【これ、私のことだ……】
【これ、俺のことだ……】
【あああああ!!!(ハルちゃんのつぶやきで小学生時代のトラウマ】
【時間差トラウマか……】
【あーあ】
【刺さる人も多かろう……】
【このハルちゃんですら、急にお酒飲み出したしなぁ】
【人間関係の濃度と距離感って人それぞれだからね……】
いやぁ、懐かしいなぁ。
学校。
学生服。
電車、時期によってはバスと自転車通学。
毎日決まった時間の決まった勉強。
あれはあれで楽しかったな。
みんなが辛いって言う社会人生活も、確かに大変だけどそこそこ楽しかったし。
なんだかんだ、
「楽しかったなぁ。みんなに紛れてみんなとおんなじ生活してたのって。退屈な生活って……あとから振り返ると楽しいんだ。人間社会に紛れて暮らしてたのは、本当に楽しかったなぁ」
ふぅ、とお酒の混じった息を吐く。
――そこからまさかの幼女化で会社に信じてもらえずにクビになったけどね。
や、九島さんが取りなしてくれたから、今からでも復帰はできるらしいけども……なんかこう、居心地悪そうだし。
それに、ダンジョンに潜って稼ぐ個人事業の方が気楽で僕に合ってたから、もうあんなスケジュールが決められてる生活になんて戻れなさそうだし。
ほら、潜りたいときは時間に関係なく戻って好き勝手に狩って、長丁場にしたいときはキャンプ用品持ち込んでじめじめ暗がりで過ごしたりするのって、普通の会社員じゃ味わえないし。
「もう、戻れないけどさ」
【えっ……】
【ハルちゃん……】
【ないた】
【なかないで】
【戻れないとか言わないで】
【戻ってくるよね……?】
【そうだと言って……】
【吐きそう】
【人と一緒に戯れるのを喜んでたハルちゃん】
【女神か?】
【女神だよ?】
【そっか ハルちゃん、人間が気になって、短い期間だけでも……】
【女神様なら隠蔽スキルとか最初から持ってただろうし、良い具合に他の人から目立たないようにしてたんだろうな】
【あー】
【なるほど】
【そうか、今じゃまだしも数年前までだとダンジョンの外でちょっとでもスキルとか行使できる人、居なかったもんな】
【※くしまさぁんが言ってたようなことは、上級者でも無理です】
【※みんな知ってるよ】
【草】
【草】
ま、いいや。
あれはあれで、当時はそれなりに楽しかったんだから。
誰がなんと言おうとも、当時の僕にとっては居心地が良かった。
それを否定するのは、僕自身を否定することなんだから。
「ふぅ……僕もちょっと寝ようかな」
お酒も回ってきた。
お風呂上がりだし、るるさんの寝顔を見ていたら眠気を誘われたんだ。
【!】
ぴこん。
るるさんの手のひらで動かない物体になっていたノーネームさんが、特大のフキダシを――1メートルくらいある、でっかいのをいきなり表示。
【警告】
【!?】
【ノーネームちゃん!?】
「どうしたんですか? え、敵? や、僕の索敵にも、なんにも反応は――」
初めての現象にびっくりした僕が、無意識で立ち上がって索敵スキルで周囲を警戒。
――したけども、想像してたよりすっごく広かったらしいこのダンジョン……洞窟?……のどこにも、人もモンスターも存在しない。
「きっと誤検知か何かだよ」。
そう言いかけた僕は、
――――――めりっ。
ふと、頭のずっと上で「何かを引っぺがしたような音」に、無警戒で頭ごと向く。
「…………――――――!?」
『がっがっがっがっがっ……!』
――ランタンの日とかが無いと、足下がぎりぎり見える程度のほのかな明るさしかなかったはずの、ダンジョンの空間。
その「天井」が「むしり取られ」――明るい光をに、何か巨大なものが、僕たちをのぞき込んできていた。
「おうえん」「したの【☆☆☆☆☆】→【★★★★★】」「ぶくま」「おねがい」




