575話 決裂と決闘
「GUUU……」
「ティラノさん」
僕たちの目が、合う。
「答えを、教えてください」
図体の割にちっちゃなおめめと、図体の割にでっかいおめめが。
【ハルちゃん……】
【何、この人間大好きすぎ女神……】
【何で俺たちのことなんか、ここまで……】
【泣いた】
【涙が止まらん】
【前が見えない】
【ハルちゃんってさ、人のこと買いかぶりすぎだよな でも、そんなハルちゃんがこんだけがんばってくれてたって知ったら……許すしかないよな】
【だよな】
【誰かが許さないと、終わらないもんな】
【ハルちゃんは、あのGでさえ許してるんだ なら、もう俺には何も言えない】
【ノーネームちゃんが、ほとんどの人の命を助けてくれてるんだ だから、町も国も壊されても、痛いことされても……許すしか、ないんだ】
【どこかで誰かが許さないと、傷ついても許さないと怒りの連鎖は収まらない……ハルちゃん……】
【これは神様】
【女神様だもんな】
【俺たち人間だって、100年近く前から戦争らしい戦争はなんとか回避してきたんだもんな、人間同士の努力で】
【そうだよ】
【よく分かんないけど……なんか私の知ってる歴史と違うけど、でも、良いよ 私も、嫌なこととか許そうって思う】
「………………………………」
「………………………………」
――ひゅううう。
海風が、吹き抜ける。
汐風が、響き渡る。
静寂。
………………………………。
――膨張する、魔力。
「はる」
「分かってるよね?」――そう言いたげな、僕とそっくりな声。
「……それが、答えですか。ティラノさん」
「……GUUUU……」
そっか。
残念だな。
けど、しょうがないよね。
それが、君たちの本能だもん。
人間が狩りをするのと同じような、本能。
……じゃ、人間さんたちの味方な僕たちは、君と戦わないといけないね。
この世界は、案外に狭いからさ。
「……ハル様……」
「リリさん、しっかり掴まってください。イスさん、お願いしますね」
「ユア――マジェスティ」
「……神様だか仏様だから知らねぇけど、俺は応援するぜ」
「私も――個人的にですが。未知のようで、それでいて妙に親近感を抱く、貴女を――信じます」
「……ありがとうございます。危ないから、退避していてくださいね。気持ちだけで、充分に嬉しいですよ」
にこっ。
「「!?」」
僕にしては珍しく、彼らへ向けて「怖くないよ」って作り笑顔を――けども、嘘じゃないそれを送る。
【 】
【 】
【 】
【 】
【やべぇ! マジで爺さんが!】
【AED! AED!!】
【おい、今回はやばいぞ……リストバンド巻くぞ!】
【この爺さん、スマホまで使えるくせにリストバンドは頑なに嫌がるんだよなぁ】
【よし、転送された……救護班たち、爺さん見たらびっくりするだろうなぁ】
【草】
【えぇ……】
【悲報・始原の爺さん、死んだ】
【しかもハルちゃんの笑顔での尊死な】
【草】
【リストバンドで転送されたから大丈夫な……はず……?】
【冗談じゃなくやられたか】
【けど書き込んでるあたりはギリ大丈夫そう】
【草】
【あの 俺の家族、俺以外全員転送されたんだけど……あと俺も動悸がやばい これが……恋? あ、目の前がちかちかしてきた】
【草】
【破壊力高すぎたからね】
【心臓と性癖を破壊したか】
【慈母……まま……?】
【女神だからね】
【そうだぞ、ガチの女神なんだぞ ちょっと人が大好きすぎる、な】
しゅいんっ……きりきり。
いつの間にかに、無意識で、気がついたら無から生み出して使えるようになっていた、金色に光る弓矢。
それをつがえ、僕はきりきりと広げていく。
矢の先っぽが――100メートルくらい先の恐竜さんの目と、ぴたりと合う。
しゅいんっ、しゅいんっ、しゅいんっ。
一点突破――貫通力を重視して、今残っている、彼の頭に残っている最後のコアを貫くために、必要な分の魔力を込めていく。
「はる」
「……分かりました」
ちょっと足りないかもだけど……ちょっとなら大丈夫だろう。
あとはあの戦艦さんたちで、人間さんたちの力でやれるはず。
「?」
「人間さん」?
変な呼び方……普通の人間なのにね。
「GU……」
……ぃぃぃぃん。
恐竜さんの口の中が、高濃度の魔力で輝き始める。
そうだよね、自分が――たとえ予備の体があったとしても、殺されるのは嫌だもんね。
むかつくもんね。
抵抗するよね。
でも、
「イスさん」
「good luck」
うん、大丈夫。
【こわいよー】
【大丈夫、ハルちゃんだぞ】
【そうだぞ、今まで……最近はちょっと抑え気味だけど】
【視聴者たちをことごとく「なぁにこれぇ……」に落としてきた女神様だもんな】
【きれい】
【どっちが?】
【どっちも】
【ハルちゃんたちが近いから砲撃も止んでて、まるで――】
静かな海。
吹き抜ける風の音。
下でうねる波の音。
それらを聞きながら、僕たちはお互いに力を極限まで――「僕たち自身の存在をぎりぎり保持できるだけの魔力を残しながら」、それ以外を全部ぜんぶ、最後の一撃に注ぎ込んでいって。
「たいしょっく」
「つたえて」
「――!? お、おう!」
「司令部! ――この無線が聞こえている皆、今すぐに対ショック態勢に――」
「りり」
「はい……!」
「がんば」
「はい! ………………………………。はい?」
「気合だそうです、リリさん。がんばってくださいね」
「え? ちょっ、ハル様――」
【草】
【草】
【ひでぇ】
【もしかして:リリちゃんの扱い、ノーネームちゃんも同じになってる】
【草】
【リリちゃんのぽかんとした顔がかわいい】
【わかる】
「「――――――――――――――……」」
僕たちは――お互い以外がなんにも分からなくなるくらいに全部を使い切って、そして
――――――――――ひゅぱっ。
――――――――――ちゅいんっ。
僕たちそのものが――僕たちのちょうど真ん中で、ぶつかり合った。
「おうえん」「したの【☆☆☆☆☆】→【★★★★★】」「ぶくま」「おねがい」




