570話 窮鼠、猫を――
「おさけ……ないない……」
「かんせつ……ないない……」
「ないない……」
「ないないです……」
「ないない……」
「ないないです……」
「「………………………………」」
じーっ。
「………………………………」
ふいっ。
なぜか空っぽのコップ――さっき飲み干しちゃってたそれを、ちょっぴり恨めしげな目で見つめながら差し出してくるノーネームさん。
ついでにじとっとしてくるリリさん。
……女の子って、なんでこうなるんだろうね。
【草】
【かわいい――リリちゃんがな!】
【かわいい――そうそう!】
【かわいいいいいいいいいいい】
【あーあ】
【草】
【ハルちゃんが気まずそうで草】
【かわいそう】
【ハルちゃん、完全にセクハラされる担当よね……】
【好かれすぎるとこうなるんだなぁ】
【かわいい+ちいさい+いいにおい=お色気担当的な】
【草】
【主神がそれで良いのか……?】
【だって双神の片方がやってるんだもん……】
【もうだめだ……】
【草】
「――ふぅ。パイロットさんたち」
僕は、深呼吸をして――戦闘モードに戻る。
「あのボスモンスターの行動パターンが変わります。あれです、命の危険を感じた野生動物とかが……猫に追い詰められたネズミさんがしたりするっていうあれです。警戒するように伝えてください」
「「――――――!?」」
【!?】
【ふぁっ!?】
【うわぁぁぁいきなりシリアスに戻るなぁ!?】
【草】
【そういやボス戦の真っ最中だったね】
【その最中にお酒飲んで観戦してたのはハルちゃんなんだけどね……】
【草】
【メリハリは大事だから……】
ひゅううう。
100を超えるミサイルを一身に受けて、動きが完全に止まっている恐竜さん――ボスモンスター。
恐らくは「地上に出現したダンジョンのラスボス」に相当するだろう、あの魔王さんみたいに桁違いな存在。
「……魔王さんだって、最後は自爆でブラックホールみたいな魔法かましてきたんです。あのティラノさんだって、そういうの持ってますよね」
【魔王……おのれ爬虫類!】
【草】
【あのGのことか!?】
【良かったなトカゲ、久しぶりに思いだしてもらえたぞ】
【最後は出落ちで「ごんっ」されたかわいそうなやつか】
【草】
【ああ、あの謎空間でドラゴンになってたノーネームちゃんとハルちゃんで倒したと思ったら自爆した炭火焼きか】
【あのときもイスさんが流線形になってたよな】
【懐かしいな】
【あの戦いの再現か】
【ある意味そう】
【けど、ここまで強いボスがそんな魔法使ったら……】
「――――――――GAAAAA――――!!」
――ぴーっ。
光線。
それが、予想外のタイミングで放たれる。
「えっ……」
なんの、モーションも無く。
今までみたいに、魔力をお口に溜める気配も無く。
防御のために体を丸くして固まったままで。
一切に予測なんてできなくって――ちらりと見たノーネームさんが、おめめを見開くほどに、予測外の攻撃で。
【えっ】
【?】
【何? 今の光】
【ビーム……にしては短いか】
――――どぉんっ。
「!?」
びくっ。
ノーネームさんの羽が、ばさっとなっている。
「な、なんだ!?」
「敵は予備動作無しの攻撃をした模様――こちら『女神のエスコート班』! 司令部、応答せよ! 司令部!」
パイロットさんたちが、慌てている。
「……イスさん」
「艦隊の方へ急行致します――お掴まりくださいませ」
……きぃぃぃぃん。
急加速――したけども、体感はちょっと後ろに引っ張られる程度で、僕たちはぐんぐんと恐竜さんから離れていく。
【何が起きた?】
【わからん】
【ノーネームちゃんがびっくりしてる】
【ノーネームちゃんでも分からないことはあるのか】
【あれ……あの煙がすごいの、さっきまで艦隊があった場所……】
そして見えてきたのは――もくもくと黒い煙が、さっきティラノさんを包んでいたようなそれが、横に広く並んでいるお船たちを包んでいる姿。
どのお船も真っ黒で、ところどころに真っ赤な火柱。
「……ノーネームさん」
「だいじょうぶ」
「みんな」
「ないない」
「おっけー」
【あっぶえ】
【マジか】
【ないないされるレベルの被害が出ちゃったか】
【え、やばくね?】
【数キロ離れた敵を、ノーモーション&一瞬で大ダメージ……やっぱさっきのはレーザーだったか】
【どんだけ強いんだあいつ】
【そらゴッドなジーラだからな】
【神話モチーフのモンスターも多いから、映画で見たことある気がするあれも似たような攻撃するかと思っていたが……】
【戦艦は? 戦艦は大丈夫だよね?】
【戦艦まで一撃大破してたらもう無理だが……】
……ぐぃぃぃん。
煙の中から、何か細長いものの先端が起き上がってくる。
りーん、りーん。
何かの警告音。
それを聞いたのか、イスさんがぐいんと高く舞い上がって、ちょっとして。
――どぉんっ。
「わ、すごい音」
「しゅほう」
「……きゅう」
「お嬢がまた気絶した模様です」
「リリさんはほっといて大丈夫です」
どうやらまた寝ちゃったらしいリリさんのことはどうでも良いとしても、
「良かった、さすがにさっきので壊滅じゃないんですね」
「ちゅうは」
【草】
【草じゃないけど草】
【リリちゃんが不憫に思えてきた】
【ハルちゃん……どうして……】
【さっきはお酌までしてたのに……】
【その見返りにすんすんすんすんしてたし、間接キス狙ってたよ?】
て【ならいいや 戦艦が無事で良かったな!】
【草】
【ひでぇ】
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「おうえん」「したの【☆☆☆☆☆】→【★★★★★】」「ぶくま」「おねがい」




