567話 戦艦の砲弾もかすり傷
「……あ、また砲弾飛んできますね」
「了解しました、距離を取りますマイマスター。重力制御は完璧と自負しますが、緊急回避などの場合にはご容赦を」
イスさんが、足元のスピーカーから話しかけてくる。
けど、重力制御?
……ああ、そういやすやすや寝てたリリさんもないないになってるノーネームさんも、落ちる心配とかなさそうだったのはそれだったのか。
あと、僕も足がしっかりイスさんに吸い付く安心感もあったし。
じゃなきゃ、こんな高いとこで飛び回ってたら怖いもんね。
でも、
「どうでも良いですけどイスさん。なんか呼び方ころころ変わってません?」
最初は変わるたびに僕たちへ違う呼び方してるのかなって思ってたけども、どうやらそうじゃないらしいし。
「最適化中です」
「ないない」
「そうですか」
「ご希望の呼び方があれば全てご対応いたします」
「する」
「そうですか」
ノーネームさんが何か言ってる。
どうやらそうらしい。
ノーネームさんが言うんならそうなんだろう。
【一切興味なさそうな「そうですか」で草】
【ハルちゃん、基本、他人に興味ないから……】
【るるちゃん相手とか生返事ばっかだったもんなぁ】
【リリちゃん相手でもだぞ】
【だって2人とも構いたガールだし……】
【草】
きぃぃぃん。
おしゃべりになったイスさんが、加速を着けて旋回する。
「あ、ハル様、見てください! ハル様とは比べものになりませんが、綺麗です!」
「え? あ、本当ですね。僕のことはともかく」
「きれい」
「いえ、ハル様のお美しさはこの宇宙で最高です!」
「なんか壮大すぎて実感ないですね」
「しゅきぃ……♥」
ついでに目が覚めたらしいリリさんはお昼寝をしてさらに元気になっていた。
綺麗な海を眺めてた僕が視線を戻すと――ティラノさんは僕たちじゃなく、飛んでくる砲弾の方を眺めている。
けど、流れ星みたいだけどほぼ真横に飛んでく砲弾と比べられても……。
あと、僕、もともと男だし……。
【朗報・全肯定リリちゃん復活】
【草】
【そしてまったく興味なさそうなハルちゃん】
【ああ、ハルちゃんの眉間が微妙に】
【草】
【リリちゃんってばほんとおもしれー女】
【あの、ノーネームちゃん】
【いつものことでは?】
【いつものことだよね】
【ノーネームちゃんの鳴き声だよね】
【草】
【ないないされないあたり、むしろ誇っているのか……】
「GAAAA――――!」
すごい質量がすごい速度で飛んでくるのを脅威と感じてか、お腹を直して立ち上がった恐竜さんは、もう僕たちのことなんか見ずにそっちへ威嚇中。
そりゃあもう、戦艦だもんね。
遠くの戦艦も見えてるのかな?
あ、でも、海で何十キロとか水平線の下なんじゃ……あ、そうじゃなくて探知スキルかな。
けども、空を高速で飛翔する整列した質量は――ひゅんっと吸い込まれる。
ひゅるるる……どぉん。
まぶしい光が炸裂し、恐竜さんが花火に包まれる。
「GA――!?」
ちょっと遅れて、ぶわっと髪の毛と服をはためかせてくる焦げ臭い風。
そしてお腹がびりびりってなる振動。
重低音。
「5ぱーせんと」
「砲弾数発でそんなに削れるんですか」
「4ぱーせんと」
「しゅうふく」
「あ、でもすぐ回復されるんだ」
【ふぇ……】
【強くない……?】
【やばいな】
【オートリジェネ持ちのボスとかやべぇ】
【しかも一瞬でなぁ】
あんな攻撃でも5%。
煙がもくもくしてるからまだ見えないけども、ずぅんって倒れた音は聞こえてこない。
……不意打ちだったさっきとは違って、砲弾の方に向き直って構えてたもんね。
やっぱり、普段僕がやってるみたいに意識外からヒットさせないとガードされちゃうんだ。
「ヘイトが逸れましたね、ハル様」
「まぁ僕たちよりも、飛んでくる砲弾の塊の方が脅威でしょうし」
さっきも今も見たように、現代武器はモンスターに通用する。
ただし、ダンジョン適性とレベルとパーティー編成次第では、ちょっと色をつけただけの報酬を数十人に渡すだけで、たくさんの武器弾薬とかを消耗する軍隊と同等の戦果を挙げることができる。
しかも小回りも利いて、数を揃えたら――ダンジョン協会主導で小学生からダンジョン遠足とかさせたりしたら、今や2人に1人になんらかの適性を確認させられ、そのうち何割かが定期的に自主的に自己責任で潜ってくれる。
モンスターたちを駆除してくれる。
ドロップ品とか、拾ったものはどうぞどうぞってやるだけで喜んで潜ってくれる。
お高い砲弾よりも、おこづかい欲しさにダンジョンに潜る一般学生とか社会人の方に任せた方がコスパってやつがとんでもなく良いってのはそういうこと。
人間は欲望に弱いからね。
しかもダンジョン配信とくれば、潜るだけで応援してもらえる。
気分が良くなる。
かわいい女の子とか強い男とかは、アイドルになれる。
えみさんとかるるさんとかリリさんみたいに。
だから僕の国でも大半のダンジョンは民間に任せ、明らかに危険なところとかだけを正規の軍人さんの軍隊で攻略してるらしい。
そうすることで、ごく自然に「憧れのダンジョン潜り」って仕事を――
「………………………………」
……へんなの。
僕、なんで「こんなこととかいろいろ知ってたのに、ダンジョンのこととか全部、流行りのゲームの話だと思ってた」んだろ。
そうだよ、流し見してたニュースとかでダンジョン関係のことはわんさかと――
「ないない?」
「……そうですね、ここは任せましょう」
つい悪い癖で考え込んでいたからか、ノーネームさんが見上げてきている。
……たぶんずっと本にばっかりかじりついてたから、現実のいろいろがどうでも良かったんだろう。
うん、きっとそうだ。
◆◆◆
「おうえん」「したの【☆☆☆☆☆】→【★★★★★】」「ぶくま」「おねがい」




