561話 女神照覧
「!?」
びくっ――ぶわっ。
ノーネームさんの羽が逆立つ。
ぶわわっ。
羽が広がっていく。
おめめも見開いている。
「ノーネーム様……?」
「きょうふ」
【ノーネームちゃん!?】
【かわいい】
【かわいい】
【恐怖?】
【かわい……あれ?】
【え? なんか余裕ないっぽい? ノーネームちゃん】
「――50キロ以遠より攻撃を観測しました。予測攻撃地点から距離を取ります」
「50キロ? ずいぶん遠いですねイスさん」
なんだかすごい距離。
それって……現代兵器だと大型ミサイルとかしかないんじゃ?
僕はそういうのに詳しくないけども。
「……目標は、あのバケモンの今居る場所だ。GPSの精度が甘くなっているとはいえ電子制御で外しはしないと思うし、模擬弾だから爆風とかも大丈夫だとは思うが気をつけてくれよ、女神様」
「お、お前……仮に主の遣わされた天使に対しての発言なら、不敬どころでは――」
「お前は本当にカタブツだな……んで、着弾までのあいだ、あのデカブツが動かないように頼むわ」
――きぃぃぃぃぃん。
ガラスのとこを閉じた戦闘機?飛行機さんたちが、ひとつずつ離れていく。
……もう片方の人がまだしゃべってたみたいだけど良いんだろうか。
まぁいいや。
「……個性的な人たちでしたね」
「え、ええ……濃い方々、でしたね……」
【えぇ……】
【あの その程度の表現で許していいのではない気が】
【ハルちゃんたちだから……】
【フランクすぎて困惑される系女神様とその愉快な仲間だから……】
【ハルちゃん的には普通に接してくれる方が好感度高いから……】
「……よく分かりません――けど」
僕は、イスさんの上に立ち上がる。
「――誰かが、何かをしようとしてるのなら」
僕は、ぎりりと金色の弓を引き込める。
「手助け、しないわけには――」
僕は――両手で、矢を引き絞る。
「――――――っ」
――しゅんっ。
あ。
今の、感覚は――射撃スキルもまだまだだった男だったときにも、狙い澄ますとごく稀にあった、クリティカルの感覚。
「――GUAAAAA――――――!?」
あっ。
僕は体重を片脚に乗せ「イスさんごとスライドする」イメージを浮かべる。
「――イスさんっ」
「You have control」
「まままま真横にひぃーっ!?」
「きょうふ」
イスさんは、僕の考えたとおりに滑空して旋回し――きぃぃぃん。
僕たちは空気の波に乗り、横へ横へと滑っていき――
「……動いちゃダメなんですってば」
「GA!?」
勢いよくコアに刺さった矢でひっくり返りそうになった恐竜さんを――体が大きすぎると動作がいちいち鈍いから助かった――反対側から、これまた珍しくクリティカルな次の矢で、反対側へと押し出す。
結果的には、その場でたたらを踏んだだけ。
けど、そこそこのダメージは与えられたらしい。
「ふぅ」
「……ハル様、今のは……!?」
「なんか良い感じでした」
「……さすがハル様です!」
「きょうふ……」
【すごE】
【さすハル】
【すげぇ】
【久しぶりにハルちゃんの一撃がな】
【でも「良い感じ」て】
【ハルちゃん、ふわっとしてるからね】
【語彙がかわいいんだよなぁ】
【今の……何?】
【クリティカルヒットでは?】
「ふぅ……操縦される喜び」
「? 嬉しいんですか? イスさん」
「もっと手綱を握ってくださると」
「紐なんかないですよ?」
【草】
【イスさんが】
【悲報・イスさんもやっぱ変な性格してた】
【イケオジのイメージが】
【幼女に首輪着けられてお馬さんんんんんん】
【!!!!!!!!】
【えぇ……】
【あの そんなことより、対戦車ミサイルでも起きなかったようなのけぞりが】
【それだけハルちゃんが本気だったんだな】
【ハルちゃん……!】
【けど、50キロ先からの攻撃手段って……まさか】
【そういや、あの日の前後は合衆国と合同演習を……】
【旗艦は、お互い……】
【え? まさかアレを?】
【50キロ……艦隊旗艦は両国とも古い戦艦……あっ……】
◇
轟音と共に――海面が、半球状にえぐれる。
超大口径――とある世界では「戦後」になった時代に搭載される予定だった、三連装砲。
現存する戦車の主砲などではとても実現できないサイズの砲弾を搭載できる、超質量兵器。
大陸弾道ミサイル、ICBMよりも原始的な兵器。
その、1つ1つで――直撃すれば1発で町を半壊できるほどの戦略兵器でしかない金属と火薬の塊が、海に浮かぶ30隻を超える艦隊の中心から順次、発射される。
三連装の主砲から、それぞれ1発、また1発と――けれども、建造時の数倍の速度で発射され、すぐさまに自動装填装置により巨大な砲弾が装填されていく。
距離を取った輪形陣を組んでいるはずの小型艦でさえ激しく動揺するほどの、衝撃。
その主砲を放った甲板に万が一残っていれば、人間など塵と化す振動。
――艦隊から離れ、なんとか西海岸へ先行した偵察隊。
そこから入電した情報と、なによりもパイロットたちの言葉を信じて放たれた力が、飛翔する。
それは――衛星やレーダーに頼らず、単独で射程50キロという飛翔距離を誇る、全てがドン引きするような力。
実戦ではついぞ「使用されたことはなく」、今後もあくまで武威として保持するはずだった――しかし、定期的に試射と演習は繰り返され、その威力だけは世界に知られていた力。
――それを何十と発射するのに耐えられる規模の、建造するだけで両国が傾きかけたほどの――これまた鉄という質量で沈みかけた、鉄の城。
改大和型戦艦、および改アイオワ級戦艦。
そのうち2隻ずつ、計4隻の――別の世界では「大戦終結前」の最強兵器。
それらから放たれた砲弾が――――――今、着弾した。
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