559話 空中の対話
「「………………………………」」
僕の返事にいちいち固まる2人。
……じゅって表現は生々しすぎたかな。
あ、違うのかな。
軍人さんだから、きっと今のやりとりとかもっと上の人がリアルタイムで聞いてて、それで「こう言いなさい」って返事待たないと何も言えないのかな。
そうだよね、今の僕たちってば、こんな状況じゃなきゃまずもって軍とかに捕まる立場だもんね。
それで宇宙人みたいに大人の人2人に両手で引っ張られてどっかに連れてかれるんだ。
こんなに小さな体にされたもんだから。
やっぱり普通の男の体の方が楽だね。
「……やはり、か。やっぱモンスターたちと戦う世界の存在か」
「先ほどの貴女方の動きを観察していましたが……そうですか」
え?
「やはり」?
観察?
そういや、飛行機はたくさんぶんぶんと飛び回っていた。
ときどき降りてきては機銃掃射っていうのかな、それとかしてたけども基本的には見てるだけ。
情報収集だろうからしょうがないとは思っていたけども――
「――――――遠くから。見てたんですか? 僕たちのこと、ずっと」
僕たちだけなら、まだ良い。
僕たちは余所者だ。
けども、町から逃げる人たちを――――――
「「!?」」
【ひぇっ】
【落ち着いて】
【こわいよー】
【ハルちゃんの声が】
【自軍――ノーネームちゃんの被害を黙って見てたって知ったらなぁ……】
「……ハル様」
「はる」
「ハイネス」
後ろから、心配そうに響いてくる声。
………………………………。
ダメだな、なんだか僕、最近感情が動きやすいんだ。
ちょっと疲れてるからかな。
「………………………………ふぅ。ごめんなさい、リリさん」
「そういうときは……ね?」
「……はい。ありがとうございます」
「ないない」
にこっ。
リリさんが優しい笑みをくれる。
【かわいい】
【かわいい】
【最近暴走しがちなハルちゃんのストッパーなリリちゃん】
【おかしい……全肯定ガールだったはずじゃ……!】
【草】
【全肯定でも種類があるからね】
――そうだ。
この人たちは、悪くない。
そもそもホノルルから来たって言ってたし、この人たちはさっき着いたばっかりのはず。
それ以外の飛行機さんたちも――そうだ、索敵は大事なんだ。
それは僕がいちばんによく分かっているはずのことだもんね。
あと、下っぱ――じゃなくってパイロットさんたちだから多分上の方だけど、それでもトップじゃないんだ、自分たちが判断できる立場じゃないんだもんね。
「ごめんなさい。こちらに、被害が出て。……というわけなので、早く逃げてください。また、レーザー攻撃が――」
だから、彼らを遠ざけて次の戦闘に備えようとした僕へ――
「――次のタイミングは分かるのか、女神様よ」
「え?」
さっきまでのおどけた表情を引っ込めたおじ兄さんが、そう、聞いてくる。
「………………………………」
じっと見つめてくるまなざし。
真剣なまなざし。
「ちょ、ちょっ!? 大和の! まだあの存在が天使か悪魔か精霊かという議論は――」
「うるせぇ、黙ってろカタブツ。そんなもんは今、どうでもいいんだ」
――僕を、真っ直ぐに見ているお兄さんが低い声で言う。
その機体には、赤と白の国旗がプリントされていて。
それは僕が「人間だったとき」にいちばん見慣れた国旗で、
「?」
……いやいや、僕は人間だよ?
今はちょっと変な体になってるけども、ノーネームさんとは違うもののはず。
だって普通の男として生きてきて、体がちょっと変わっちゃっただけなんだから。
だって普通にごはんも食べるしトイレも行くしたくさん寝るし。
「………………………………」
そんなどうでも良いことよりも――彼のそれに、応えないと。
「――イスさん」
「はい、120秒後の予測です、パイロット様」
「「!?」」
イスさんの声が――低いおじさんボイスが、スピーカーで届く。
その声に一瞬で腰を落として――やっぱり固まる2人。
なんかちょっとかわいく感じてきたね。
ほら、小動物ってそういうとこがかわいいから。
【草】
【イケボにびびる男たち】
【そらそうよ……】
【まぁAIだと思えば、まぁ……?】
びくっとしてる――たぶん常識的なお兄さんの機体には、赤と白と青のが。
――それは、太平洋を二分した対岸の国家の――前の僕が、たぶん2番目くらいに見慣れていた国旗で。
キャシーさんの住んでる国の、旗。
別々の国家の軍人さんたちが、一緒に行動していて――たぶん、連携して動いている。
………………………………。
そっか。
みんな、世界にダンジョンがあふれたばっかりのときには――こんなにも、がんばっていたんだ。
守る力がある人は、精いっぱいできることを、自分たちなりに。
それに、きっとそのとき僕も何かができたなら、
◇
「はる……おきてよ。まっくらだよ。……るるを、ひとりにしないでよ」
「はる? なんで冷たいの? 重いの?」
◇
「?」
何かが通り過ぎた気がして、僕は見渡してみる。
――マイクを切って話し合っているらしいお兄さんたちの乗る、プロベラだけどヘリじゃないっぽい戦闘機。
「すんすん……」
「へるぷ」
リリさんに抱きしめられて嗅がれて助けを求めるノーネームさん。
その足元の、かっこ良くなってるイスさん。
「?」
足元で壊されたゴールデンなブリッジを踏みしめながら、カニ歩きを再開しようとしている恐竜さん。
それ以外は……何も、ないはずなのに。
……変なの。
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