548話 イスさんはバリトンボイスだった
ふぃぃぃん。
恐竜さんの攻撃がすぐ目の前でちょっと怖いけど、イスさんなら大丈夫なはず。
「お願いしますね、イスさん」
「かいひ」
「――できる?」
「? ノーネームさん、誰にしゃべって――」
ぽつりと――足元に向かってつぶやいた彼女に、とっさに反応しかけると――
『――――――ready』
「だって」
「あ、イスさん、しゃべれるんですね」
『yes』
振り向くと……ふむ、イスさんの中央部のタッチパネルあたりから声が。
「あら、綺麗なバリトンボイスですね」
『thanks, lady』
【キャアアアアア】
【シャベッタァァァ】
【しゃべったぁぁ!?】
【草】
【速報・イスさん、しゃべった】
【朗報・イス様、イケオジボイス】
【イスさん……】
【きゅんっ……】
【おかしい、ここへ来てイスさんが一気にかっこ良く見えてきた】
【奇遇だな、俺もだよ】
【え 音声とか思考回路とか搭載してないんだけど……】
【ていうか組み合わせるので精いっぱいだったし……】
【え】
【ゑ?】
【始原の……イスを作ったやつら……!?】
【まさか……イスさん、ハルちゃんたちと経験を積んで……!?】
【もしかして:進化した】
【神様の乗り物だもんなぁ】
【ここに神話を見た】
【すげぇ】
【まさか冗談で言ってたイスさんが、ここに来てマジで……!?】
【イスさん! すっげぇ良いとこで目覚めたんだ ハルちゃんたちを助けてくれ】
【『sure』】
【だって】
【ふぁっ!?】
【ノーネームちゃん???】
【速報・イス様、ノーネームちゃんみたいなことできる】
【これが……感動か……!】
【無機物とかロボットが自我を持つ瞬間って……いいよね】
【自我っていうか、今回の場合は神性とかなんじゃ……】
ふぃぃぃぃん。
きぃぃぃぃん。
特大レーザーを用意したらしい恐竜さんが、僕たちが回るのに合わせて首を合わせ始めた。
「照準を着けさせないよう、普通の人間さんなリリさんが大丈夫な範囲でランダムに動けますか?」
『of course』
「バリトンボイスです!!」
「リリさんは静かにしてくださいね」
「ないない」
『nai-nai?』
「ノーネームさんはイスさんの邪魔しないでくださいね」
「ないない」
「ないないです!」
「ふたりともうるさいです」
【草】
【なんかおもしれーことになってる】
【イスさんが加わってカオスになりつつあるな……】
【イス『様』だ……この豚が……】
【ひどくない!?】
【なぁにこれぇ……】
【ハルちゃんの配信のいつもが戻ってきたんだよ】
「お」
かくん。
ティラノさんのお口が僕たちの回転に追いつきそうなった瞬間……うん、首とか痛めないし、落っこちたりもしなければおしりがひゅんってなる感じもしない絶妙な進路変更。
「イスさん、運転上手ですね。その調子です」
『////』
「長丁場になると思いますけど、魔力は?」
『no problem』
【かっけぇ……】
【でもハルちゃんに褒められて赤くなった】
【草】
【ああ、ノーネームちゃんみたく感情搭載なのね】
【まぁここまで来ればプログラムとかじゃなくて機械生命体とかなんだろうし】
【変形とかするからね】
【なにそれ……やっぱりなんにも知らない……】
【そんな余裕、作ったときにはなかったのに……】
【草】
【ちょっとかわいそう】
【ま、まあ、ハルちゃんとノーネームちゃんの魔力とかで……こう、ね?】
◇
「お」
「あ」
「んく」
「くぴ」
すでに、数分――イスさんのおかげで、危険を感じる前に車線から外れるのを繰り返し。
「ぷは」
「良い呑みっぷりですハル様!!」
「ぐっといっぱい」
『prost!』
「そういえばイスさんは呑めるんですか? お酒」
『of course』
「へー、すごいですね」
『/////』
呑めるって言ってるけど、どこから呑むんだろ。
給油口とか?
【草】
【悲報・ハルちゃん、いつもの】
【ま、まあ、さっきの泣いてるのよりはずっと良いから……】
【そうそう、俺たちも呑みながら応援できるし】
【草】
【えぇ……】
【全国の居酒屋が満席です】
【あとスーパーや酒屋から一斉にお酒が消えました】
【だから一気に奉納されると困るんだって!!! by始原】
【草】
【草】
【もうめちゃくちゃで草】
【そうそう、こういうのでいいんだよ】
【ハルちゃんの配信はのんびり楽しむものだからね】
――きぃぃぃぃぃんっ。
「イスさん」
『roger』
――しゅんっ。
「GUUUU……!」
「怒ってきてますね」
「そりゃあ……もむもむ、何十分も目の前飛び回られたら……あ、このチーズおいしいです!」
「あかわいん」
「あら、ありがとうございます、ノーネーム様」
『me…』
「はいはい、あげますから。……本当に給油口みたいなとこがお口なんですね」
とくとくとくとく。
新しい赤ワインをノーネームさんがきちゃない袋さんからぬゅって――器用にも羽で掴んで取り出して、ぽんって封開けて、とくとくって注いで――リリさんにあげたのを僕ももらいつつ、風で飛んでかないように手のひらで飲ませてあげる。
「飲酒運転……や、まだこの世界には空飛ぶクルマも自家用ロケットも存在しませんでしたね。じゃあ法律違反じゃないってことで」
「ないない」
「でもイスさん、酔ったりしないんですか?」
『////』
「あ、もうダメですね」
なんか軌道がフラフラしだした。
なんかもうダメかもしれないね。
【草】
【草】
【なぁにこれぇ……】
【なんかほんわかしてるけど、ちらちらすれ違うときに見える怪獣の顔】
【こわいよー】
【大丈夫、ハルちゃんがお酒飲んでるときはギャグ展開だから】
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