546話 今度こそ、戦おう
リリさん、僕、ノーネームさんの3人が、イスさんに乗り込む。
「魔力は?」
「ないな――まだまだ」
「へっちゃら」
ノーネームさんも、やる気は充分みたい。
気を遣ってるのか、ふんすと無い両手を――たぶん、ぐっとしてる。
【!?】
【ないないキャンセル!?】
【草】
【ないないキャンセルで草】
【さすがのノーネームちゃんも本気出してる】
【あ、後ろからキャシーちゃんが】
「――アル様っ!」
乗り込もうとした僕を、止めてくる声。
その声に続いて足音――そして小さな手が、イスさんの柵にしがみつく。
「私もっ!」
【キャシーちゃん……】
【なかないで】
【気持ちは応援したいけど】
【リリちゃん(小)から10年鍛えて強くなってるリリちゃん(大)でもどうなるか……】
「……キャシーさんは、みなさんと一緒に地下室へ」
「でもっ!」
「他のお屋敷の地下室とか……なければ、コンクリートでできたところの、海から反対側に身を潜めていてください。お父さん、お母さん、おばあさんと一緒に、助かる行動を……みなさんに、させてあげてください」
イスさんの柵に手を置いてきた彼女を、そっと、引き剥がす。
「それは――今から前に出る僕たちでは、できないことです。誰かに、後ろを守ってもらわないと。……学校でのバリケードみたいに……ね?」
「……アル様……」
目じりから流れ続ける、彼女の涙。
――気持ちは、分かる。
今なら、痛いほどに。
けども。
「――たぶんあのおっきなのは、特別におっきくても――ドラゴンさんよりおっきくても、ボスモンスターのはず。なら、より近くでちょこまか動いてちくちく刺してくる僕たちに夢中になって攻撃してくるはず。……でも、こっちにまたあのビームを撃ってくる可能性は、ゼロじゃない。そのときに、ここのみなさんがひょっこり外に出ちゃったら。その不安を、ずっと感じてたら……集中、できないんです」
【ハルちゃん……】
【キャシーちゃん】
【苦しいよな】
【決めるって、辛いよね】
【でも、きっと】
【今のハルちゃんたちなら】
「………………………………っ」
ぎゅっ。
キャシーさんの唇が、ゆがむ。
――でも。
「……分かったわ。みんなを、避難させる。誰も、巻き添えになんてさせない。アル様たちを、不安になんてさせないんだから」
「はい、お願いします」
「みんなに守られてきたんだから……今度は、私が守るの」
「はい。守ってください……僕たちの、後ろを」
彼女の顔は、凜としている。
……キャシーさんも、大丈夫だね。
「それに、聞いたわ。10年後とかにまた会えるんでしょ? みんなと――アル様たちと。なら、ここでしっかりしとかないと、みんなに笑われちゃうわ!」
「……頼みました。そして、また会いましょう」
「ええっ!」
――ふぃぃぃん。
僕たちは、静かに浮き上がる。
少しずつ、みんなの顔が遠ざかっていく。
でも――もう、みんなのこと、覚えたから。
だから。
「きっと、大丈夫です」
僕は、僕自身に言い聞かせるためにも――すっかり忘れていた、配信を見てるあの子たちに向けても、言う。
「10年後の未来では、西海岸は奪還できてるんです。すぐにじゃなくても――あのボスモンスターは、必ず倒せます。今じゃなかったとしても――いつか、必ず」
僕たちが倒せるわけじゃないかもしれない。
ただ、ちょっとだけダメージを与えておしまいかもしれない。
けども。
「でも、帰る前に――無理をしない範囲で、できる限り弱らせて、遠ざけます。大丈夫、もう無理はしません。無理になる前に、安全な場所に逃げます」
「私がちゃんと監督しますから!」
「はい、お願いしますね、リリさん」
「ないない」
「ノーネーム様、その腕で手を振るのはちょっと……」
【草】
【草】
【どうしよう、涙と笑いが止まんない】
【大丈夫、みんなそうだから】
【私なんてかなり前から】
【涙涸れちゃったけど、まだ大丈夫】
【水分補給は適切にな】
【そうだぞ、ハルちゃんたちのダンジョン攻略配信は長丁場なんだ ちゃんと食べて飲んで、休憩入れて寝ないと……ないないされちゃうぞ】
【最後――なんて考えたくないから、ひと区切りつくまではちゃんと見たいもんな!】
【アーカイブも切り抜きも充実してるから見逃しても大丈夫】
【ハルちゃんたちが11年前に救ってくれた世界に生きてるんだ ちゃんと楽しまないと、怒られるもんな】
【体調を悪くしてないないされちゃったら、楽しみ尽くせないからな!】
◇
あっという間に人々が点になる。
抜ける風が強くなる。
「……ハル様」
「リリさん、ありがとうございます。ノーネームさんも」
「ん」
「……はいっ!」
ノーネームさんの腕を見て動揺しちゃったけども――もう、大丈夫。
「じゃ、倒さないとですね。あの――なんて呼べば良いんでしょう?」
僕は、でっかいのを指差す。
……あらためてでっかい。
けどかっこいい。
あ、でも、手がすっごくちっちゃくて不格好なのはマイナス。
でもでも総合的にはかっこいいからいいや。
「恐竜……ティラノサウルス? なんとかトドン?」
【草】
【そりゃ思うけど! 思うけど!!】
【ハルちゃん、いちいち表現がかわいいからね】
【ああ……なぁにこれぇ連打してた初期の配信でも、ことごとくかわいい呼び方してたもんな、モンスターたちのこと】
「おっきいですね」
「でかい」
ふぃぃぃん。
海岸の近くまでひとっ飛びしてきた僕たちは――海の中でこちらを見上げる、黒いごつこつした、けどもかっこいい怪物を眺める。
【うわでっか】
【でっっっっ】
【体長100メートルとか行ってそう】
【これ、ドラゴン――宇宙空間で群れ作ってたあのレベルじゃね?】
【い、今は1匹だから……いやでもこぇぇ】
【大丈夫 11年後の今は存在しないんだ、絶対倒せるよ】
【そうだよ】
【あとはハルちゃんたちの魔力次第か……】
【イス様も……ずいぶんと酷使され続けたからなぁ】
【大丈夫だよ、きっと大丈夫】
【危なくなったら逃げてくれるって言ってくれてるんだもんな】
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