545話 運命、なんて
「――女神様や」
「……おばあさん」
「マダムと――いいさ、ばあさんで」
静かに、声を出さずに泣いているリリさんをそっと引き離した彼女が――リリさんを代わりに抱きしめてくれながら、優しい目を向けてくる。
「生きてる神様なんて、初めて見たけど……心は、人間そっくりなんだね」
「……はい」
僕は、ただの子供だ。
ただなんとなく――他の人なんか無視して活字とばっかり話してたら、いつの間にかに大人になっていた、ただの子供。
頭でっかちな、子供なんだ。
「きっと、おしゃまにしているそっちの神様も……顔に出さないだけで、同じなんだね」
「……ないない」
気のせいか、少し小さくなった気がするノーネームさんが――腕をぷらぷらさせる。
「あんたたちのおかげで、みーんな生き残った。そりゃあ、ここまで来るまでにはたくさん……だけど、こうしてあたしたちは、生きている。たった今も、また、守られて生きている」
【ばあちゃん……】
【ばばあ……】
【やさしい】
【これはおばあちゃん】
【ハルちゃんが、見上げてる】
顔を上げると――キャシーさんを抱きしめている彼女の両親を始め、バルコニーの階段までたくさんの人がみちみちになって見てきている。
「ここまで助けてもらったんだ。あとは人だけでもなんとかするさ」
「……おばあさん」
「だからね」
……なでなで。
僕の髪の毛を、優しく梳いてくる――しわしわの手。
「好きに、おやり」
「好きに……」
【そうだよ】
【ハルちゃんたちはがんばりすぎなんだよ】
【俺たちのためにずっとやってたんだもんな】
【ちょっとはお酒飲みながら後ろで応援してても良いんだよ】
【草】
【働き詰めで弱っちゃってるし、休んでハルちゃん】
【もうがんばらなくて良いよ、あとは人がなんとかするよ】
「そうさ。あんたらの仕事は終わったんだ。ここであのでっかいのに全滅させられるんなら、それがあたしたちの運命」
「………………………………」
――運命。
運命。
死ぬことが、運命。
◇
『るるの』
『わたしのせいで』
『はるが』
『……………………あぁぁぁぁぁぁぁぁ――――……』
◇
「――――――………………………………」
「僕が聞けていなかったはずの慟哭」が、聞こえる。
その声を聞きたくないからがんばっていた、その声が――心をつんざく。
………………………………そんなのは。
「……ノーネームさん」
「ん」
【……ハルちゃん?】
【声が】
【ちょっとだけ、元気に】
「あれは――倒せるんですか」
僕は――抱きつかれながらも、今度こそ不意打ちされないようにって目が痛くなるくらいに索敵スキルで警戒してたけども。
さっきビームを撃ってきてから、結局身動きをしていない恐竜さんを、指差す。
「あれも、モンスターのはずです。ちょっとばかり大きすぎて、強すぎるけど――ダンジョンで出てくるような、モンスター」
「ん」
こくり。
いろいろ裏でしてくれてたらしい彼女が――はっきりと、うなずいた。
なら、嘘じゃない。
あれは――ちゃんと、倒せる。
ちょっとばかし強すぎたとしても――今の、弱くなってても、それでも人間の男だったときよりも、ずっとずっとすごい、今の僕なら。
「女神の嬢ちゃん! だからあたしたちは――」
「……ん」
「!? ……あんたも……なんで、あんたたちはそこまで」
おばあさんが――優しい彼女が、その後ろの人たちが、止めようとしてくれてる。
でも、僕は。
「絶対ですね?」
「ぜったい」
「それは、ノーネームさんが無事で……ですか」
「ぶじ」
「……嘘じゃ、ないですね?」
「ん」
僕は、なぜか光が虹色に広がっている視界で、彼女を見る。
――いつもの無表情。
でも――少し。
さっきとは違って、少しだけ口元が……笑ってる。
【ノーネームちゃんが】
【笑って……】
【かわいい】
【かわいいよ、ノーネームちゃん】
【すごく、かわいい】
【……ノーネームちゃんも、こういうのはそのままにしてくれるんだな】
「……リリさん、おばあさん……みなさん、ありがとう」
「お、おい、待ちな……! あたしたちのために来てくれたあんたらが、犠牲にだなんて――」
「ハル様っ!」
元気な声が聞こえる。
それに、振り向くと――――――ふぃぃぃん。
「イス様も、まだまだ動きます!」
「……はい、ありがとうございます」
【イスさん!】
【イス様だぁぁぁぁ】
【かっこいい】
【これはイス様】
【どうしよう、無機物の摩訶不思議で奇天烈な見た目のオブジェなのに、今ばかりはかっこいい】
【草】
【笑っちゃうけどかっこいいよな】
【な】
【そうだぞ イス様はな、ハルちゃんとノーネームちゃんをあのGの自爆ブラックホールから連れ出した、英雄なんだぞ】
【イス様が居れば、もう大丈夫だよね】
【ああ】
【ハルちゃんに機動力が加われば、絶対大丈夫に決まってるもんな】
【ああ……!】
僕は、ノーネームさんの手を――腕を、二の腕を、掴む。
優しく……でも、しっかりと。
「行きましょうか。イスさんなら機動力は抜群です」
「ん」
そうだ。
このイスさんに――そういえば最初に使ったときはコクーンみたいになってすっごく寝心地が良かったりした、このイスさんは。
本気を出すとかっこいい流線形の戦闘機みたいになれる、このイスさんも――しゃべったりはしないけども、すっごく心強い仲間なんだから。
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