544話 【みんなの、ダンジョン攻略配信】
「ないない」
「おててないない」
「えへ」
僕の前で、無い腕を――肘の先から、彼女の魔力である黒い霧を放出しながらぷらぷらとしている彼女。
「……怒りますよ」
「ごめん……」
しゅんとなる彼女。
……この子なりに、大丈夫だって言ってくれたんだろうな。
それは、分かってる。
分かってるけども。
【ノーネームちゃん……】
【ハルちゃん……】
【ハルちゃんがここまで慌てたり大声出したりしたの……】
【今みたいに、本気で怒った低い声とかも……】
【子供たちのとき、くらいだよな……?】
【なかないで】
【けど「おててないない」って ……笑えないよ、ノーネームちゃん……】
【ノーネームちゃんなりのおちゃめでの励ましだったみたいたけど……】
「……ハル様」
ぽふっ。
僕の頭から、銀色の髪が降ってくる。
僕の頭に、リリさんの匂いが乗ってくる。
「ノーネーム様にとってのハル様が、ハル様にとっての私たち……なんだと思います」
「リリさん……」
ぽつり、ぽつり。
彼女が、低くて優しい声で語りかけてくる。
【リリちゃん……】
【うん そうなんだよな】
【ハルちゃんだけは、いつも平然としてたけど】
【みんな……】
【るるちゃんとか、いつも泣いてたもんな……】
「ハル様、いつもいつもるる様や、ちほ様に心配をかけていました。……あ、あと、えみ様にも」
ちょっとだけえみさんへのラグがあったけども、今は気にする場面じゃない。
――リリさんが、静かに語りかけてくる。
僕は、それを聞かなきゃいけないって分かるから、じっと耳を澄ます。
「『どうしてあそこまでして助けるの』と」
「『「会ったこともない」私のことを、どうして命がけで助けたの』と」
「私のときだって、そうです」
「リストバンドがないのに――まだ全力が出せなったのに、魔力が切れるまで、たった1人で逃げ回って」
「あのケルベロスが飼い犬にそっくりで、だから戦えなかっただけの私を――あんなに無茶をして助けに来てくれて」
女の子は、細かいことまですごく覚えてる。
男な僕とは違って、すみずみまで。
それで女の子に言われて初めて思い出したり思い出せなかったりで、怒られるんだ。
心配を掛けた、この子たちに。
「助けられたんです。だから拒否なんてできないような――ずるい言い回しで私だけリストバンドで離脱させて、そこからリストバンド無しで、たったひとりで250階層から脱出なんかして」
「……そのお礼にと、押しかけても……困ったような顔しかしないで、私を押しのけなくって」
「私、はっきりと『困る』って言われたら、引くつもりでした」
「でも、ハル様は優しすぎるから」
「だから、みんなでハル様をかわいがる時間を過ごして」
――そうだった。
リリさんと僕は……少しのあいだだったけど、一緒に暮らしていたんだ。
だけど僕は「また女の子が増えた」って。
「それからも」
静まりかえった世界で、彼女は続ける。
「ノーネーム様の――500階層への挑戦にも、平気な顔で挑まれて」
「ノーネーム様との戦い以外は、いつも通りの気楽さで」
「――『自分もすぐに行くから』と、私にリストバンドで離脱させて」
「間に合わないと思ったら、るる様とえみ様のそれも、勝手に押して」
「……自己犠牲」
「ハル様がされてきたことは、そう――表現されるものです」
「ハル様は優しすぎるから、ご自分は平気だと気軽にされていましたが――」
そうだった。
だって、僕なんかより他の人の方がずっと大切だって思ってたから。
だけども。
「される方は――辛いでしょう?」
「……はい」
うん。
辛い。
「……ないない」
困った様子で、ただ肘までをぶらぶらしているノーネームさん――彼女を見ると、辛いんだ。
「それは、ハル様がそのあとも――地下のダンジョンで1からやり直して」
「魔王に襲われて、連れ去られそうになって」
「るる様、えみ様、ちほ様だけではありません。――その配信カメラを通じて心配している、全世界の人々も、同じなんです」
「同じ……なんです……っ!」
「ノーネーム様だって……だからこそ、ハル様が無茶をされるかも、と……!」
「……リリさん」
リリさんが、泣いてる。
頭の上に、熱い何かがぽた、ぽたと染みこんでくる。
後ろからぎゅうと抱きしめて――震えが伝わってくる。
【リリちゃん……】
【そっか リリちゃん、ないない空間から全部見てたんだね】
【そもそもリリちゃん、俺たちが知らない何かを知ってるから謎ヒロインムーブしてたんだもんね】
【草】
【今シリアス!!】
「ぐす……っ」
【なかないで】
【私たちは、リリちゃんが泣いてくれたから大丈夫】
【そうだぞ】
【苦しいけど、がんばる】
【がんばって見続けるよ】
【だって、ノーネームちゃんが過去に繋いでくれてる――「ダンジョン攻略配信」なんだからさ】
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