542話 おしまいじゃなかった
「……アル様」
「元気でいてくださいね」
あれから町を制圧して回り、その外周部まで奪還した後にバリケードを作って。
「……アル様、ノーム様……!」
「とと」
「わぷ」
ぎゅっ。
さっきから何度目かに、キャシーさんに抱きしめられる。
キャシーさんのくせっ毛のこそばゆさ、キャシーさんの匂い。
【甘えんぼなキャシーちゃん】
【尊い……】
【てえてえ】
「~~~~っ……!」
ぎゅーっ。
子供でも、こういうときって力があるんだよね。
抱きしめられると痛いだなんて、この体になって知ったよ。
「ぎぶ」
ノーネームさん、もうちょっと我慢しよう。
こんなのはかわいいものでしょ?
【あ、ノーネームちゃんがタップしてる】
【草】
【苦しいのか】
【でも振りほどかない優しさ】
【キャシーちゃんがいじらしい】
【かわいいね】
【お持ち帰りしたくなるね】
【そっと見守るんだよこういうのは】
【そうだそうだ】
【お前ら発言には気をつけろよ、キャシーちゃんは将来の】
【まだただの上院議員さんの娘だからセーフ】
【何かあっても知らないからな……?】
【草】
【お前ら、ほんま……】
――町に居た人たちがみんな、自信を持った顔つきをしている。
うん。
ここは、もう大丈夫だね。
「……そろそろ行きますね」
「あ……」
するり。
いつまでもひっついてくる彼女、るるさんを相手に身についたすり抜け術で、そっと離れる。
「じゃ、行きましょうか、ノーネームさん」
帰るべきは、僕たち2人だけ。
……あんなににぎやかだったのに、もう、すっかり静かに――
「はいっ!」
「え?」
「え?」
ぱちくり。
思っていなかった方角から思っていなかった声が思っていなかった元気さでお返事してきたから、しばし硬直して。
「………………………………」
「………………………………」
……あ、そういや君、居たっけ。
ごめん、キャシーさんたちのことでいっぱいだったから。
【ふぁっ!?】
【リリちゃん!?】
【あ、居るって素で忘れてたわ】
【俺も】
【草】
【リリちゃんがんばってたじゃん! 画面外で】
【ノーネームちゃんと連携してるらしいからね……】
【何気なくないMVPなんだよなぁ】
【でもハルちゃんに忘れられてたからか、きょとんとしてるよ?】
【草】
【固まってる】
【リリちゃんもその反応で固まってて草】
【どうすんだよこれ……】
【あ、再起動した】
「……リリさんも着いてくるんですか?」
「着いていっては駄目なのですか!?」
「あ、いえ、別にどうでも良いですけど」
「私のこと、どうでも良いのですか!?」
がびん。
そんな感じの――なぜか衝撃を受けているリリさんが居た。
【草】
【草】
【ハルちゃんがナチュラルにひでぇ】
【もしかして:ここで言わなかったら、リリちゃん置いてけぼりに】
【あの リリちゃん(小)+10歳で今のリリちゃんなわけで、ここからさらに10年置いてかれたら】
【二十何歳……それってつまり】
【BBBBBBBBB】
【え?】
【無神経】
【ごめんなさいごめんなさい】
【おい、リリちゃんもノーネームちゃんスイッチ入りだぞ】
【草】
【ノーネームちゃんスイッチで草】
【ノーネームちゃんスイッチ(ないない】
【まぁ乙女の年齢のことはさすがにねぇ……】
「……そういえば、500階層のときから一緒だったんでしたね、リリさん」
「そうです!! あの後ないない待機してただけです!!」
「ないない待機?」
「ないない待機です!」
「ないない」
ノーネームさんが反応してる。
ただ「ないない」に反応しただけかもだけど。
【まーた新しい言葉が】
【ノーネームちゃん、ないないって好きね】
【リリちゃんにも感染したか……】
【リリちゃんは……なんていうか、うん……】
【ノリの良いお姫様だからね】
「じゃあ、行きますか?」
「ええ! ほら、ノーネーム様も!」
「まだ」
「はい、じゃあ。………………………………え?」
ノーネームさんが――この場にふさわしくないお返事をしてくる。
「あら? で、でも、ボスモンスターはもう……」
「まだ」
「いまから」
「……え」
ノーネームさん――今、何て?
――――――ずぅん。
何かとてつもなく大きなものが、質量をかき乱す音。
映画館で聞くような重低音が、空中に響き渡っている。
ずぅん――――――ずぅん。
【!?】
【ひぇっ】
【あの、ノーネームちゃん?】
【まだ終わってなかったのぉ……?】
【ふぇぇ……】
【いや、高速を車より速く突進してきてたドラムゴリラより強いモンスターて】
【た、確かに……1体ではなかったな……】
【え? え?】
【あっ】
【もしかして:あのゴリラたち、ただの取り巻き】
【もしかして:ゾンビたち、ただの雑魚キャラ】
【ひぇっ】
【え、でも、ここから一体何が――】
――――――ぶしゃっ。
遙か遠くで――遙か遠いのに目で見える高さまで、海が、爆ぜる。
「!? う、海が……!?」
「う、ウソ……怪獣……!?」
別れるはずだったキャシーさんが、リリさんに抱きついて怯えている。
……それもそうだ、だって僕もてっきり。
「……あれが、ボス……ですか」
「ん」
海の中から盛り上がってきたそれで、海面が裂け激しい水しぶきが――海岸から何十キロも離れてるここからでもはっきり分かるくらいの事象が起きている。
水面に起こった波紋――それは、ここから見ると10センチくらいのそれでも、現地ではきっと、遙かに高い波となって。
「――――――GAAAAA――――――!」
それはまるで――海に隠れ続けていたのがやっと陸に上がってきた、恐竜みたいな姿だった。
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