54話 『250Fダンジョン脱出RTA』4
【あれ、急に画面が】
【この感じ……ハルちゃんだ!】
【ああ……】
【あ、急に同接が増えだしたな】
【少し戻ったのか?】
【……始原だが、端末のロックはそのままなんだけど……】
【ハルちゃんの全力宣言で……?】
【呪い様、そこまで聞いてるのかよ……怖っ】
【始原たち! 生きていたのか……】
【おう、古参以外の】
【一部ユーザー限定で急に配信が復旧したんだけど、条件とかもまだよくわからん】
【なにか動きはあったか?】
【しいていえば、そうだな……】
【どう表現するか……】
【悩ましいな……】
【ああ……】
【ハルちゃんが……るるちゃんショックの前の普通に戻っている、と言えばいいか?】
【草】
【あ、つまり普通に攻略してるのね】
【まぁハルちゃんの普通は普通じゃないんだけどね】
【知ってる】
【知ってた】
「……………………………………」
モンスターたちもレベルが高くなると見つけにくくなるし、動きも読みにくくなる。
細かいことはよくわかんないけども、とりあえずで250階層付近のこのへんは、けっこう強いのが揃ってるらしい。
少なくとも、リリさん探すの優先で大胆に横を通り抜けたりしてたときみたいなことは、できない。
たぁんっ。
「……移動します」
いつも通りに静かな配信とはいっても、今の僕は心配されてる立場。
それくらいは、さすがにわかってる。
だって呪い様だもん、るるさんに取り憑いてるなにかが来てるんだもん。
僕も、ちょっぴり怖いもん。
しかも今回の僕ってば、リストバンドっていう「万が一があっても命は助かるから!」っていう民間人をダンジョンに誘うための命綱がない状態。
さすがの僕だって、その状況はわかってる。
だからぼそぼそって感じで、簡単になにしてるか伝えてるんだ。
どうせ画面は見ないし、フロートウィンドウも切ってるけどね。
めんどくさいのもあるけども、コメントに気を取られたりしたら――この状況では、さすがに危険だし。
【ハルちゃんの低い声……】
【ぼそぼそ言う声が響くな……】
【脳髄に染み渡るな……】
【うわっ、キモッ】
【ひどい】
【草】
【ナイスショット……なんだろうな】
【だろうね】
【確認できないけど、そうだろうという安心感】
【ワンショットだからまちがいないな】
【けど、普段とはちがう武器なんだろ?】
【ああ、使いにくいって文句言ってたしな】
【一応、店売りの武器としては最高クラスのはずなのに……】
【そもそも武器を自分で作るとか……ハルちゃん、レアすぎるスキルまでよくもまぁ……】
今撃った銃声から寄ってくるだろうモンスターの経路を考えつつ、てててと岩場を移動。
いつもより重くてでかいライフルを抱えながら、射線と退路の確保。
命綱がなくなってる以上、不意をつかれても死なない立ち回りを徹底する。
探知スキルが高いモンスターが――僕より上位の存在が、いる前提で。
――大丈夫。
初心者だったころから、男の体で隠蔽スキルが磨かれる前の段階。
それに、この体になってしばらくみたいに、慎重にすればいいんだから。
【流れるようなスナイパー職の動きだ……】
【一切無駄のない動き】
【歴戦の戦士って感じね】
【FPSとかみたいにちゃんと隠れながら……】
【ようやく俺が知ってる遠距離職ってやつになってきた気がする】
【今さらか?】
【だってお前、罠起動して自爆しながら落ちるとかそれで無傷とかそれを何十回もするとか急降下爆撃するとか、俺の知ってる斥候じゃねーもん】
【安心しろ、ここにいるるほとんど全員がそうだ】
【ハルちゃん以外は全員そうだから安心しようね】
【草】
【けどよかったよなぁ、直撮りで画質荒いし暗いところ光っちゃって見えないけど、始原が中継してくれてて】
【本当、直撮りでもマシだよな】
【直撮りじゃなきゃもっとよかったのにな】
【言ってるだろ! 端末ごとロック掛かってんだって!!!】
【落ちつけ始原、悪かった】
【でもハルちゃんの中継するっていう栄誉を賜って嬉しい】
【急にどうした】
【なんかきゅうに話し方が】
【まさか……始原の爺……?】
【すまん、ついハルちゃんへの想いがあふれてしもうた 今どきのナウでヤングな若者言葉に慣れる努力はする】
【草】
【草】
【ああ、がんばってるんだねおじいちゃん……】
【普段は違和感ないのがすげぇ】
【ハルちゃんのおっかけだ、それくらいするだろう】
【草】
【けど……そうだよな、やっぱ降りてきたときみたいにはならないよな】
【落ちてきたのまちがいでは?】
【思いっ切り加速してたもんな】
【そういえばそうだった……】
【やっぱりあれは急降下……そう、爆撃もしてたし……】
【草】
たぁんっ。
「……残弾60。 範囲クリア」
【あいかわらずになんも見えないけど、すごいことだけはわかる配信】
【しかも今回はハルちゃん自身の命かかってるから、真剣度がちがう】
【今回のこのへんが初見だと……普通の攻略配信だと勘違いしそう】
【で、たぶんそう経たないうちに粉砕されるんだな】
【ああ、違いない】
【草】
【負の信頼が厚くて草】
銃っていうのは、遠くまで精密に攻撃できるけども音がすごいっていう究極の欠点がある。
あとは弾も……そんなに外さないし、だいたい1体で1発だからそこまでじゃないけども、コストが高い。
あとあと、なによりも重くてでかいから取り回しが難しい。
や、普通の近距離用の拳銃とか中距離用のそれならそこまでじゃないんだろうけども、僕ってば長距離狙撃専門だからね……。
【うぉ、なんだあのモンスター】
【俺の知ってるモンスターと威厳がちがう……】
【あー、250階層付近とかいう、ほぼ最高峰のランクだとモンスターまでちがうのか……】
【でもさ……普通はあれ1体に上級者パーティーが数人がかりでも、倒すのに10分はかかるんだよね……?】
【しかも普通はタンク役とかの治療とか必要っていうね】
【そうだぞ、ハルちゃんを真似しても無駄だからな】
【なんでハルちゃん、モンスター1発で倒せちゃうの……?】
【人には見えないコアってのが見えるからな】
【ああ、地上に舞い降りた天使だったっけこの子……】
【舞い降りた(急降下】
【ああ……きっとなにかいい獲物を見つけて、ついふらっと展開から加速して落ちてきちゃったんだろうねぇ……】
【なにその神話の出だし】
たぁんっ、たぁんっ。
さっきの銃声で曲がった廊下の先からきていた2匹を始末。
……やっぱりこの深さのモンスターだと、かなり動きが素早い。
気を抜くと外しちゃったり、接近に反応するの遅れちゃいそう。
最近は安全圏でしか戦ってこなかったからなぁ……やっぱりときどきはこうして腕試しで潜るのも大切だね。
【俺、こんなのと出会ったら即座にリストバンド使うわ】
【充分に準備してるパーティーで遭遇しても、逃げ切れなければそれが正解だよな】
【※パーティーの斥候職の探知スキルが負けてた場合、アンブッシュ受けるのでダメージ受けてから気がつきます】
【そりゃそうだ】
【だからレベルに見合ったダンジョン選びが大切なんだもんな】
【動きがかなり俊敏でこっちの動作を先読みしてくるわ、初見殺しな技いくつも持ってるわだもんな】
【そういうのが欠片もないのがこの配信】
【だってその前に倒しちゃうし】
「次の角を曲がれば上への階段です」
【りょ】
【実況助かる】
【ハルちゃんが……真面目に実況を……!?】
【さすがのちょっとおかしい幼女でも、命かかってれば……まぁ……】
【見ないでマップがわかるってしゅごい】
【もはやチートの域だもんな】
【上位陣は大抵なにかしら尖ったスキルでそういうのあるっていうけど】
【さすがにここまでのはないよね】
【あんまり言ってやるな 上位陣が泣くぞ】
【大丈夫大丈夫 もう泣いてパーティー解散したから】
【草】
【えぇ……】
【かわいそう】
【ああ、またハルちゃんの犠牲者がここに……】
じりじりワンエリアずつ、ワンフロアずつ着実にクリアしていく。
そうすれば、ほぼ確実にひやっとする危険すらないはず。
……だけども、こんな動きしてたらやっぱ時間かかっちゃうよねぇ。
さっき僕ががんばるって言ったからか、呪い様、足元を追ってくるようなことはしてないみたい。
ということはこのペースで……小走りと岩陰からの狙撃を繰り返す感じので不満じゃないみたい?
けどなぁ……。
「るるさんのとこ、早く行かないとなぁ……」
ほんと、あの子落ち込んでそうだし。
立場が逆だったら気まずいってもんじゃないよね、自分の呪いで人が死にそうになるって。
早くなんとか抱きしめられたりして慰めないと、またお風呂に突撃してきたりしそうだしなぁ。
思春期って難しいね。
【三日月えみ「みなさん、ありがとうございます 画面は見せていないけど、るるも今のを聞いて少しだけ落ち着きました」】
【えみちゃん】
【えみちゃんたち、もうすぐ50層】
【普通にめっちゃ速いよね、これでも】
【しかもるるちゃん、転んだり不運が起きてないからな】
【普通に戦えると、こんなに強いんだね、るるちゃんって……】
【つまり、やっぱり……】
【おっと、運営コメ読んどけ】
【なにかに巻き込まれても誰も責任取れないからな】
【こわいよー】
【けど、そういう報告もハルちゃん見てないけどね……】
【ハルちゃんだから大丈夫だろうけど、こういうときってメンタルが大切だから余計な情報は要らないだろうし】
【ヘタになにか知ると危なさそうだ】
【ハルちゃんひとりで完結してる強みだな】
【自己完結幼女だからな、こういう場合はソロが最強なんだ】
【ひとりで動いてる限り、スペックを最大限発揮できるんだな】
【つまりはぼっち】
【ぼっちはぼっちでも積極的ぼっち】
【積極的ぼっちとは一体】
【ぼっちの方がいろいろと合ってるんだよ】
【孤高の天使ってことだよ】
【孤高のぼっち……】
【なるほど】
【草】
廊下を曲がって、上への階段。
……とりあえずだけど、特別な罠とかはないらしいね。
急かされる気配もないし。
つまり呪い様、単純に僕がここから這い上がるのを見たいだけかな。
なんだか、そんな気がする。
「………………………………」
――「なんだか、楽しんでる」?
よくわからないなりに、そんなイメージ。
【次が248階か……先が長いな】
【降りるだけでも何日がかりだもんな、普通】
【つまりこのRTAは数日かかる、と?】
【かかるだろ】
【しかもモンスターの強さが半端ないし】
【しかも序盤の方が終盤のモンスターとかなぁ】
【あー、下から上がってくからそうなるのか……】
【逆に言えば、上がっていけばハルちゃんにとってはヌルゲーになるんだが】
【今見てきた公式記録だと、200階層で8日と11時間らしい】
【つまりここから200階層上がるだけでも】
【いや、るるえみに救護班が追いつけば予備のリストバンド使える】
【てことは80階層まで上がれば、そこから先は脱出できるのか】
【救出班がそれより下に潜れる分だけハルちゃんが楽になるな】
【じゃあ半分の3日くらい? ……耐久戦だな】
【それでのろ――様が許してくれるんならな】
【ハルちゃん自身は80階層まで自力で踏破したわけだし、OKってなってほしい】
【自力で……】
【踏破……?】
【罠を使ったバグ技がOKかどうかは……】
【草】
【ハ、ハルちゃんなら最悪、休みながらなら上の80階層も楽勝なはずだから……】
【ちょっと有休取ってくる】
【無断欠席してもいいよね?】
【早まるな、職場でも学校でも視聴できるぞ!】
【ハルちゃんのためなら、ギガも惜しくはない】
【こういうときのために公共Wi-Fiを使うんだぞ】
【えぇ……】
とんとんとんと石の階段を登る。
……普段は降りるだけなのに、登るとなると急に疲れる感じになるなぁ。
ほら、この体、男のときに比べてフィジカルはほんと弱いし。
魔力で補う分も今はほとんど使えないから、つまり。
「……ふぅ、ふぅ」
【●REC】
【荒い息……】
【少しバテてる……?】
【そうだよね、ダンジョンの階段って1段1段が高いもんね……】
【幼女の身にはきつかろう】
【なにしろ、推定身長120センチだからね……】
今日は買い物で疲れて着せ替え人形で疲れて、こっそり抜け出して買い物するまではそんなでもなかった。
けども、潜ってからはけっこう普段にないアクションばっかりしてたからそれなりに疲れてる。
「ちょっと仮眠取りたいですけど……ここで寝て呪い様が怒らない保証がないので、もっと上まで行かないと」
とりあえずはRTAってのらしく、けっこう限界まで動いてから休まないといけなさそう。
うん、普通に真面目に進む分にはたぶん妨害はないけども、ぶらぶらしてたりしたらなんか追加で来そうだし。
【まだお昼だよハルちゃん!?】
【おやつのお時間だからな、いつもならお昼寝してるんだろ】
【しょせんは幼女……可愛さしかない】
【けどダンジョン潜りってなると、わりと致命的じゃね?】
【普段はじっとしてるからなぁ】
【しかもダイナミックに落ちてばっかだったし】
【ちゃんと休んで?】
【普段なら高所に登って休めるんだが……】
こしこしとまぶたをこすり、ごそごそと袋を探る。
……こういうときくらい、お酒、いいよね。
「……ぷへぇ」
【●REC】
【草】
【かわいい】
【水分補給か、大切だよな】
【こんなときでも気が抜けてるハルちゃん】
【ま、まぁ、今のところ大丈夫そうだし】
【というかモンスター、さっき映ってたね】
【ああ、ハルちゃんご機嫌な新商品だもんな】
【でもやっぱり普通じゃない遠さのモンスターだったよね】
【あれだけ遠いと偏差射撃だもんな】
【廊下の先で出てきたのをヘッドショットするのとかは完全にそうだよね】
あー、やっぱいいなーこれ。
なんがって?
ダンジョンの中でもいくらでもお酒呑めるってのが……いや、気付け程度にするけどさ。
「水分補給終わったので、続き、行きます」
【はーい】
【はーい】
【またリスナーの知能指数が落ちている】
「ちなみにここを出た直後、モンスターさんたちがいっぱいいますので画面ぶれます。 あと、危なかったら下の層に戻りますけど安心してください」
【は――……い?】
【えっ】
【草】
【まーた初手モンハウかよ】
【ま、まあ、これって下から上がってるから普通なら初手じゃないし……?】
【でもこの状況、のろ――おっと、ハルちゃんのためだけのだろ?】
【ああ、この前のと同じか……】
【草】
【とことんハードモードなハルちゃん】
【でも平然としてるハルちゃん】
【ひぇっ……】
【うわぁぁぁぁモンハウだぁぁぁ】
【大丈夫、安心のハルちゃんだよ?】
【そうだったわ】
【ああ……モンスターたちが舞っていく】
【血飛沫を上げ】
【断末魔を上げ】
【近寄ることもできず】
【つまり?】
【モンスターしゃんかわいそう】
【草】
【駄目だ、視聴者が軒並み幼女になっている】
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