539話 2つの合衆国
「………………………………」
ノーネームさんのいつもの瞳が――見た目はまったくおんなじでも、その瞳の奥の意識とか魂とかがいつもの彼女って感じるそれが、僕を見てきているのを知覚した。
「アル、様……?」
不安そうに見てきているキャシーさん。
……そうだ、今はキャシーさんのことだ。
【ハルちゃん、ちょっとぼーっとしてた?】
【無理もない、ハルちゃんたちは働き詰めだし】
【数十秒くらい無反応だったし、目の焦点が合ってなかったよな……?】
【かわいいはずなのに、なんかちょっと……】
【怖かった……よな?】
【やすんで】
【そうだよ、ゴリラたちは倒したんだからさ】
【キャシーちゃんのことも気になるけど、それよりも……】
「……おばあさん。キャシーさんのこと、優しくしてくれてありがとうございます」
「え? あ、ああ……けど……」
「キャシーさん」
「え、あ、うん……」
僕が差し出した手に――彼女の、細かいことが得意な手が吸い付いて、立ち上がってくる。
「キャシーさんは、死にました」
「っ……!」
「けど、死んでません」
「……え?」
【!?】
【ハルちゃん!?】
【なんかハルちゃんの雰囲気が】
【ハルちゃん……?】
「ないない」
「みた?」
「はい、見ました。あっちで」
「ん」
「あっちのはノーネームさんなんですか?」
「んん」
「そうですか」
「ん」
【あっち?】
【どっち?】
【なんかノーネームちゃんみたいな話し方してる……】
【女神様同士の圧縮言語とか……?】
【いや、でも、ハルちゃんまでするのは……】
【ハルちゃん……?】
僕は、「なぜか頭の中にいつの間にかに当然のように備わっていた情報」を、なるべく分かりやすく伝えるように変換する。
「キャシーさん」
「うん……」
「キャシーさんの生まれた国の名前。言えますか?」
「え? そ、それはもちろんUS――」
「正式名称で。大丈夫、知ってる範囲で良いです」
きょとん。
人は、当たり前のことを尋ねられると逆に困惑するもの。
でも、怖がりだったとしても頭を回すのが得意な彼女は言う。
「……アメリカ合衆国……よね? USA、よね?」
【ふぁっ!?】
【アメリカ!?】
【USA!?】
「……アメリカだって?」
「それは……」
ざわざわ。
おばあさんやキャシーさんの両親……その後ろで見守っていた人たちが、疑問で戸惑う。
「え? だ、だって、ここは合衆国だって!」
「あ、ああ……もちろん、キャシーちゃんの言う通りに合衆国ではあるけどねぇ……けど……」
「……おばあさんの知っている名称は、何ですか?」
僕は、キャシーさんを慰めるために座り込んだままの彼女へ、問いただす。
「――ブリタニア合衆国……だわさ? なぁ、あんたら……」
「え、ええ……」
「……そういえば。確かに、独立宣言の直前に、大陸の名前である『アメリカ』を冠した名前にする案も有力でしたが、すでに地名として定着していたので却下されたと……」
「え? え? ぶ、ぶりたにあ……? ブリタニアはイングランドのことよね……? あ、けど、普通はブリテンって言うわよね……?」
「え?」
「え?」
【?????】
【?????】
【なぁにこれぇ……?】
【え、国名が……?】
【いかん、頭がおかしなる】
【合衆国がアメリカぁ!?】
【んでウナギゼリーの国がブリタニア!?】
【????】
【逆になってる!?】
【王国&合衆国「入れ替わってるー!?」】
【草】
【草】
【草じゃないんだが】
【なぁにこれぇ……】
【ハルちゃん、教えて……】
「キャシーさんは、こことよく似た別の世界から……このノーネームさん『たち』の力で、救出されたんです」
「ん」
【?】
【ノーネームちゃん……たち?】
【ノーネームちゃんたちって……あっ】
【もうひとりのハルちゃん……アルちゃんと一緒のノームちゃんのこと!?】
【速報・ハルちゃんがまた何か思い出してる】
【もしかして:数千年分の記憶をやっと掘り返せた】
【草】
【草】
【あー、ハルちゃんってばBBBBBBBBBBBBBBBB】
【怒】
【怒】
【怒髪天】
【ひぇっ】
【めっちゃ怒ってる】
【ここまでの初めて見たわ】
【ごめんねノーネームちゃん】
【そうだよね、ロリバババババババババ】
【ひ、ひよこバババババババ】
【草】
【草】
【ハルちゃんは永遠のロリだから!】
【そうそう! 女の子は何歳になっても女の子だもんね!】
【ごめんねノーネームちゃん!】
【あの、ハルちゃんのとんでもない情報の方が】
【ノーネームちゃんより大切なことか?】
【ちがうな……】
【ハルちゃんより大切なことか?】
【ちがうかも……】
【なら、今はノーネームちゃんにBBAAAAAAAAAA】
【nai-nai】
【100年コース?】
【ひぇっ】
【ごめんなさいごめんなさい】
【やべぇ、ノーネームちゃんがガチで怒ってる】
【ノーネームちゃんごめんね】
【ハルちゃんはぴっちぴちの幼女だよな!】
【ああ、まちがいなく】
【おねむのときの逆ギレ具合とか、もうぴっちぴち!】
【あれはぴちぴちと表現するのか……?】
【草】
【懐かしくて草】
【ああ、そういやそうだったわ……】
【まぁ普段のハルちゃんはダウナー系でおしゃまなロリっ子だから】
【そうそう、きっとエルフみたいに年齢換算とか違うんだよ】
【それな】
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