537話 【上げて落とされて笑わされて泣かされる視聴者たち】
「こちらの女神様たちが私たちのために幻覚を見せてくれているのか、それとも悪――いや、善性を信じよう。きっと、最後の挨拶をするために会わせてくれているのだと」
?
幻覚?
や、キャシーさんはここに居るよ?
この子にはこの子の体温があって、匂いがあるんだよ?
「で、でもっ! 確かにあの子が目の前に!!」
「……そうだな。ああ、きっと魂は間違いなく……」
【え?】
【!?】
【ふぁっ!?】
【え? え?】
【祝福モードが、一気に】
【おかしい……笑ってるのに吐きそう……】
【自律神経さん壊れちゃった……】
【ハルちゃん……助けて……】
【ケセランパサランで和んでたら一気に地獄に叩き落とされたの
……】
【やめて やめて】
【ああああああ!!!!!】
【こんなん頭おかしくなるわ】
【ノーネームちゃん……助けて……ないないしていいから……】
【お願い……】
【ハルちゃんたちすっごーいってきゃっきゃしてたらこのザマだよ!!】
【なぁにこれぇ……なぁにこれぇ……】
【キャシーちゃん、死んだりしてないよね……? その子、ゾンビとかじゃないよね……?】
【そうだって言って……お願い……】
「ゾンビたちの襲撃で、もしかしたら……だが、戦っているうちで判明している。ゾンビは、人間のなれの果てではない――もし墓を暴かれたとしても、魂はきっと安らかに……ここに……」
「嘘! 嘘よ!!」
「?」
遺体?
墓地?
「ぇ……パパ……?」
抱きつこうと走りだしかけていたキャシーさんが……ぴたりと止まっていて。
目を――嬉しくて泣いてたはずの涙が、凍りついていて。
【キャシーちゃん……】
【なかないで】
【てか遺体って】
【でも、キャシーちゃん自身もパパとママって……】
「……あんたら」
「マダム……」
すっ、と、おばあさんが割って入り、キャシーさんの前に立って――腰を下ろし。
「ん……おばあさん……」
「……かわいいじゃないかい。それに、あたたかい。この涙もだよ」
優しい手つきで、彼女の目元を拭っている。
【ババア……】
【見た目は怖いのに】
【優しい……】
【これが……ママ……?】
【これがバブみというやつか……】
「あたしだったらね」
「んぅ……」
キャシーさんの頭を――くせっ毛を撫でくり回しながら、彼女が言う。
「たとえゾンビになったとしても、家族や友人が還ってきてくれたら……たとえこのまま豹変してかじられるとしても、それでも嬉しいのさ。だって、2度と会えないはずの愛しい人だよ?」
ふと、おばあさんが僕を見てくる。
「……そこんとこは、どうなんだい?」
「ノーネームさん」
「いせかい」
ぽつりと言うと、手を挙げて――空を指差すノーネームさん。
「キャシーさんは……この人たちの娘さんじゃないんですか?」
「はんぶん」
「半分……?」
「ん」
彼女は――無表情のまま、言う。
「いせかい」
「にたようなせかい」
「がっしゅうこく」
「おなじ」
「たべられる」
「……まにあわなかった」
「ないてた」
「ないないした」
「だから、はんぶん」
「……よく分からないけど、ゾンビでも悪魔でもないってことさね?」
「ん」
【????】
【?????】
【ノーネームちゃん、言葉が足りないから……】
【説明する気は……そこそこあるっぽいけど】
【このへんはハルちゃんの顔出し声なし無言ほぼ定点タイトル概要欄プロフすべてにおいて説明がほぼないあの配信スタイルそのまんまだもんなぁ】
【草】
【草】
【おい!! 今シリアス!!】
【泣いてたらまた笑わされた】
【自律神経さん壊れちゃう】
【どうして……】
【草】
「ん」
すっ。
ノーネームさんが、僕に手を――1度離してから差し出してくる。
「?」
「つたえる」
「よく分かりませんけど
◆◆
「………………………………」
「………………………………」
「………………………………」
「?」
ん?
ここ、どこ?
僕は――手を繋いだはずのノーネームさんすら居なくなって、何もない白い空間――や、大理石みたいなのでできた……神殿?
その中でたった1人、立っていた。
「……ノーネームさん。ノーネームさーん」
すたすたと歩いてみる。
……夢とかじゃなさそう。
なら、ここは――――――
『ああ……! キャシー! キャシー!!』
『申し訳ありません……送迎の車ごと、ゾンビに囲まれ……』
『――ああ。ありがとう』
あれ?
さっきの――キャシーさんのお父さんとお母さん?
周りが、いつの間にかに……なんか戦場みたいなところ?
そんで、血だらけの男の人と――――――
「――――――」
キャシーさん。
体の一部が、不自然になくなっていて。
誰かの服で包まれてはいるけども、赤黒く染まっていて。
どこからどう見ても、息をしていなくって。
「……え」
「………………………………」
「ノーネームさん」
「ないないは?」
「ないないで、みんな助けてくれたんでしょう?」
「今でも――あの日からのみんなも、助けてくれたって」
泣き崩れる母親。
娘の死を悼みつつも――「せめて」と、彼女の遺体を命からがらで運んできてくれて――
『旦那様、奥方様……私は、お仕えでき……て…… …… 』
『……キャシーを、救ってくれて。ありがとう』
事切れた彼を――そういやさっきも着てた、そしてさっきもついてた場所へ血がつくのもためらわずに抱きしめる、彼女の父親。
「………………………………」
「……なんで……」
『……もうじき、この町も落ちる。幸い、すぐ近くに墓地がある……せめて、弔って』
『嫌よ! 連れて行くわ! だってまだ――――――』
周囲を見ると、似たような光景が何組もの家族で起きている。
彼らもまた――遺体や、その一部を――――――
「ノーネームさん」
「………………………………」
――こんなのを、今知ったって――
◆◆◆◆
「……ん?」
『キャシーは……』
『申し訳ありません……空から降ってきた瓦礫に、車ごと……投げ出され……』
『……そう、ですか……』
あれ?
キャシーさんのお父さんとお母さんが……まだ泣いてない?
そして――血だらけの彼が「キャシーさんの、真っ白になった体を抱いていない」?
『ですが、ご安心を……ぐっ……!』
『! もう話すな! 誰か……誰か医師は――――』
『――伝えるために、待っていただいたのです』
『一体何――を……!?』
ぱぁっ、と輝く重病人の彼。
彼は――最期の笑顔を、満足しきって安心しきった顔を浮かべる。
『――神は。それでも、見捨てては。……キャシー様も、私のように――化け物共に奪われることなく、天に――――――』
――光の粒子になった彼は、そのままきらきらと――風に吹かれ、空へと昇っていく。
『……おお、神よ……!』
『どうか、彼を……そして、私たちの愛しい娘を、どうか神の国へ……!』
膝をつき、そこで初めて涙を流すキャシーさんの、両親。
「………………………………」
――さっきと、今と。
一体何が起きたんだろう。
……あと、なんで僕はこの光景を見ているんだろう?
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