533話 おばあさんが居た
『きょ、巨大なゴリラが何頭も……!』
『ゾンビとシャーク、何もない空間からいきなり――うわぁぁぁ!!』
祖父母から小さいころに聞かされた話や、年に数度帰国――帰郷、血の故郷へ帰ったときに、家が軋みながら揺れて泣いた覚えがある。
けど、そのたびに一緒に居た半分だけの血の同族たちは笑っていて。
「こんなの震度4だから、ちょっとびっくりするくらいだよ」と。
なんだい震度って、マグニチュードを使いな!
そうは思ったけど、そのおかげであたしは冷静で居られている。
それくらいの揺れ。
はっ。
こんなのは震度4よりちょい大きいくらいだ、大和の国の奴らなら笑い飛ばすさね。
けど、稀にしか地震も起きない土地で、立っていられないほどの揺れ。
それを引き起こす元凶の質量が――こちらへ、直接走ってきている。
その恐怖に、人々はうずくまるしかない。
それは当然さ。
――咆吼と鳴動。
そのせいでトランシーバーからの叫び声も、もはや何も聞き取れないくらいになってきている。
けど。
「……ま、悪い人生ではなかったね。こうして最後に笑えるんだからさ」
あたしは、これでも充分に生きた。
逃げる道中で――見捨てたやつらからはきっと恨まれてるけど、それでも数百人を生き延びさせたんだ。
それで、充分じゃないか。
「ああ……充分さね」
あたしは幸運だ。
やりたいことをやりつくして、この歳まで生きたんだ。
周りでうずくまる人々よりは、ずっと幸運。
だからこそ――何故だかここの人たちの希望になっちまったからこそ、最期の瞬間まで笑っていなきゃいけないのさ。
「……………………?」
ふと、視界の隅に映った光に目が吸い寄せられる。
――ははっ。
「あたしも、とうとう耄碌したかねぇ」
だってさ。
空の遙か遠くに――光の輪が広がっているように見えるんだからさ。
『……マダム。貴女は地下室へ避難を』
『そうです、貴女は死んではいけない人です』
こんなときでも、他人の――老人の心配をする夫婦。
――そんなだから政治家に向いてるんだよあんたらは。
『……あんたらが隠れな。こんな老いぼれなんぞ――ほら』
あたしは、光の方向を指差し――死期が迫っているせいでの幻覚に囚われているように見せ、諦めさせようとする。
『あっちから天使がやってきた。どうやらあたしは天国へ――――』
だけど。
だけど――あたしの指先へ向け、夫婦の目が揃って見開かれる。
――まさか。
まさか、空を飛ぶ人間だなんて――――――――
「……――ジャッジ――」
「だめ」
「え、でもでかいゴリラ居ますよ?」
「だめ」
「すっごく速いんですよ」
「だめ」
「もう、じゃあ何ならいいんですか」
「ひかりのや」
「あ、省エネな魔法っぽいのならいいんですね。なら、」
――空から、子供の声が降ってきた気がした。
うん、フリのつもりが本当に耄碌――――
『oh…』
『ああ、神よ……! 本当に天使様を……!』
――あんたたちはボケるには早すぎるんじゃないかい?
そう思ったけど。
一瞬の後に――その声は、あたしたちの目の前まで来て。
「――じゃ、行きますよ」
「ん」
――とんっ。
そこには――バルコニーの柵に、サンダルを履いただけの足を着けるヒトガタ。
人のようでいて、人ではない存在。
教会の絵画に描かれているような、存在。
真っ白な羽と真っ黒な羽が、ばさりと翻り。
純白の――いわゆる「女神」の格好をした、幼い金髪と黒髪の少女――いや、「天使」が。
「ホーリー」
「あろー」
――――ひゅぱっ。
どこからか取り出した、金と赤の弓から――無数の矢を放ち始めていた。
それらはあっという間に化け物共に吸い寄せられ――――――――
「GUOOOO――――――――!?」
――ずずん、と――震度5とか6とかになるのかねぇ――大地が揺れる。
家中でガラスが割れる音がするけども、まだまだ大丈夫。
だってさ。
バカでかいゴリラが――たったの1回の攻撃で、倒れたんだから。
「あ、おばあさんだ」
「やっほ」
――その天使たちは――天使と堕天使は、あたしの第2の母国語で、子供のように話しかけてきた。
純粋無垢。
そうだ、天使だからね。
「………………………………」
これが、幻覚じゃないんだったら。
「……はぁ、全く。本当、人生ってのは分からないね」
あたしは――生まれて初めて、人ならざる物への感謝ってものをしたね。
あと――あたしの口座の金は、一体どの宗派に振り込めばいいのか聞けるかい?
◇
合衆国の西海岸が見える高台。
謎の空間から降りた先の平原で、一面のゾンビとサメを倒した僕たちは、ノーネームさんが設定した航路でイスさんに運んでもらって……1時間くらい?
途中のでっかい山脈とか農地とか、すごかった。
まるでムームルアースとかVRアースで旅行したみたいな感覚になった。
で、遠くにずしんと現れたのは……でっかいゴリラさんたち。
まるで怪獣って感じのそれらが向かい始めてた地域の、人がやけに密集してるお屋敷のバルコニーの柵に降り立ったわけだけど。
「あのおばあさん、どっかで見たことある気がするんですけど」
「ない」
「僕は会ってないんですか?」
「ない」
こくこくとうなずくノーネームさん。
冗談じゃないっぽいから本当に初対面なんだろう。
【BBA!】
【マジモンのババアで草】
【婆さん、よく見たら国際ニュースとかでちらちら映ってるババアじゃねぇか!!】
【合衆国に住んでたけど、この婆さんこええんだよ】
【草】
【あ <URL>のときの、爺がハルちゃんへの想いを朗読してたときのにも出てら】
【草】
【草】
【もしかして:始原、みんなハルちゃんたちの過去遡行?に関係ある】
【繋がっちゃった……?】
【繋がっちゃったね……】
【マジで初期のノリでのがここまで繋がるとは】
【ハルちゃんたちは時間まで超える存在だからね……】
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