530話 始原No.2となる老婆――エミ・サーモンド
「……あ、銃口逸らしてくれてる」
キャシーさんが勢い余ってイスさんから落っこちないかひやひやしてた目を戻すと、ヘリの人たちが――さっきまで正面を向けてた機体をずらしてくれている。
まぁ機銃とかミサイルとか、撃とうと思えばすぐに撃てるんだけども、それでも気分が違うよね。
「えーっと。ステイツ、マイフレンド?」
なんかそういう言葉が前に流行ってたような。
るるさんが見せてくれた動画で聞いた覚えがあるし。
【!?】
【合衆国がハルちゃんの友達だって?】
【ゆ゛る゛さ゛ん゛!!】
【おのれ合衆国!】
【もしもし大統領? また来て謝罪して?】
【草】
【一瞬で沸き立つコメント欄】
【大丈夫大丈夫 合衆国の方のミラー配信、落ちたから】
【草】
【草】
【まぁ、そうなるな……】
【ハルちゃんからフレンド認定だからね……】
【けどそのネタ、ちょっと古くないハルちゃん??】
【ちょっと(初出は10年以上前】
【え? いやいやそんな】
【うわぁぁぁぁ】
【え、ハルちゃんそんなに前から……そういや居たわ……】
【草】
【あ、やっぱハルちゃん、11年前からうちの国来てたのね】
【これで確定したか】
【テレビとか観てたのこのロリ女神!?】
【いや、動画とかでもっと後に知った可能性もあるけど……】
【繋がっちゃったね☆】
【まーた繋がっちゃったよ】
【これでハルちゃんが10年間温泉お酒の旅を楽しんでた事実が真実に】
【草】
【あ、近くの酒屋さんがセール始めた】
【商魂たくましいな】
【草】
◇
『よーし。良いかい? ここが正念場だよ』
『で、ですがグランマ……』
『マダムとお呼び!』
『サ、サーモンドさん……』
『マダムとお呼び!』
高級住宅街の高台――広い庭に豪華な造りのモダンな家の建ち並ぶ一角。
そこには数十の軍人に数百の避難民――そして、2階のバルコニーで、その家の主を叱りつける、恰幅の良い老婆が居た。
『息子や孫が好きだったし、あたしも酒を呑んでげらげら笑うのにぴったりだったような、シャークやゾンビ映画に出てくるような、安っちいやつら。そんなやつらが世界にあふれ、避難しているうちに世界が――合衆国が飲み込まれる。そんな事態に、なっちまった』
地声も大きく、さらに手にしたメガホンで隅まで届くがなり声は――庭やその家、邸宅の1階で不安そうに見上げる市民たちが、それを聞いている。
庭の門、「マダム」の指示した場所を固めている軍人たち――州兵から自警団、高級住宅地での雇われの私兵たちも、津波のように押し寄せるモンスターたちに絶望しつつも、その声を頼りに気を確かにする。
『すでに中央政府――ホワイトハウス、ペンタゴン、なにもかも、あたしたちが無意識で頼りにしていた国家ってものは、頼りにできない。なにしろ電気、ネット――サテライトの電波でさえ不通と来た。もちろん自動車たちも、電気とガソリンが切れ次第にただのガラクタになるだろうね』
――その邸宅の周囲の道路は、すべて彼らが乗ってきた車や近隣にあったそれらを移動し、塞いでの簡易なバリケードを築いている。
しかし、
「ウボアー……」
「ヴァー……」
「シャー!」
周囲のそこかしこで――鉄の塊とは言え人間が数人で押せば動くし傾くし倒れてしまう程度の重石が攻撃され、破壊されようとしている。
『あたしたちは、助けを求める人たちを見捨てて逃げてきた。そりゃあしょうがないさ、誰だって自分の命は惜しい。たまたま自分たちが1番安全な場所にいたからこそ、あたしたちはこうして最後まで残っている』
生き残るも顔は青ざめ、生気のない瞳を伏せる人々。
『ああ、あたしもそうだ。みんな同罪だ。――だからこそ』
老婆は、その邸宅の主たちを振り返り、言う。
『――最後まで、戦い抜くんだ。そして、なんとかついてきてくれた若い者たちを、この屋上で生き延びさせるために散るんだ。そうだろう?』
邸宅の屋根。
そこにはキューポラ――八角形の小さな小屋のようなものが備え付けられ、その屋根の上には風見鶏がからからと動き回る。
その小屋、といっても柱が数本で雨風をしのげるものではないが、そこには十数人の子供が身を寄せ合っている。
『あの子たちさえ生きていてくれたら、この国――いや、人類はまだなんとかなる。ほら、しょうもない映画やドラマじゃよくあるじゃないか。ゾンビは何日も経てばみんな腐り果てるし、シャークたちだって同士討ちで滅びる。そうだろう?』
HAHAHA、と、笑い声が上がる。
『――それに』
老婆も、笑いながら言う。
『モンスターが現れたんだ。なら、あたしたちの信じる神だって――こんな地獄を見たら、駆けつけてくれることもあるかもしれないだろう? ああ、それこそギリシアの神々からブッダ……あたしの故郷のヤオヨロズの神々だって精霊だって、何かひとつくらいは来てくれるかもしれないねぇ』
老婆は、海の方を見やりながら、今一度に言う。
『死ぬまで戦って待とうじゃないか。科学全盛の時代に現れたファンタジーな存在に対抗できる――何か別の存在や力をさ』
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