521話 最後の花火
「………………………………」
わきわき。
……やっぱり、なんだか力が出ない。
や、そこまでじゃないんだ。
ただちょっと……そう。
成人男性だった1年前から今の幼女になったときみたいに。
ダンジョン適性を使ってダンジョンに潜って――ダンジョンで狙撃したり隠れたり潜んだり寝たりして鍛えた魔力ってので強化すれば、ようやく前と同じ感じで過ごせるっていう、あの感じ。
んー。
最近変なとこで寝てるからかなぁ……でもそれは1番力が有り余ってた、あの子供たちと過ごした地下と同じだし……んー。
「女神様――ハル様。我らをお救いくださり、如何様な言葉で感謝を述べたらよろしいのか……」
ん、じゃないじゃない、今はお爺さんたち。
「僕は、ただ呼ばれてきただけですので。がんばったのはみなさんです」
「喚ばれて……と」
「はい」
「それは……神に……?」
「そうですね」
僕をここに呼んだのはノーネームさん。
で、ノーネームさんは女神様だからね。
……僕も一応そんな感じだけど、僕自身にはそんな実感ないし。
「おお……」
「八百万の神々は、まだ我々を見捨てていなかったのだ……!」
「ああ、落ち着いたら近くの神社に寄進しなければ……!」
【草】
【なんだか重大なすれ違いが……】
【まぁノーネームちゃんも神様ではあるし】
【うちの国なら認知された瞬間にたくさんのうちの1柱になるし……】
「通常空間に、もうすぐ繋がるみたいです。……その先はきっと、世界中がモンスターに襲われています」
あの日――世界にダンジョンがあふれた日、その次の日だ。
まだまだ混乱の最中なはず。
「でも、みなさんは大丈夫です。あのワニさん……じゃないですね、おっきなボスモンスターを倒したんです」
【草】
【朗報・リザードマン、ワニさん】
【まぁワニだし……】
【良かったね、ハルちゃんが「さん」付けしてくれたから嫌いじゃなかったらしいよ】
【草】
「あのボス――ダンジョンの最後の階層にいる、特別に強いやつ。あれを――僕たちも手を貸しましたけど、みんなで倒せたんです。あれより強いのは……そこそこ居ますけど、そんなには居ません」
あれは、リリさんっていう人類最高峰の戦力――と、たぶん同等のアリスさんとアレクくん、それに幼いけども中級者くらいにはなってる小さな2人にキャシーさん。
そして。
……たぶん、良くて上級者に入りたてくらいの狙撃スキルでちくちくやってた僕も戦って、それなりに苦戦したんだ。
ならきっと、あの侍っぽくてちょっとかっこ良かったボスさんは、上級者ダンジョンの――20層くらいかな、で出てくる中ボス、または中級者ダンジョンで深いやつの大ボスレベル。
「あれだけの取り巻きさんも、そうそういません。よっぽどでっかいダンジョンでないと、あんなうじゃうじゃとは居ないんです」
【かわいい】
【かわいい】
【ハルちゃんの語彙ってほんとかわいい】
【分かる】
【表現の仕方がかわいいんだよ】
【♥】
【だよな!】
【草】
【ノーネームちゃん! 今良いところ!】
【気持ちは分かるぞノーネームちゃん!】
「――ですから」
僕は、みんなを。
全員に――校庭にぎっちぎちに集まってる、町の人たちに聞こえるように、羽でふわりと――。
「ん」
ふわり。
ノーネームさんが手を繋ぎながら、浮力を分けてくれる。
……羽で飛ぶのもひと苦労だもんね、今の僕。
なんでかは知らないけども。
「おお……」
「お美しい……」
「みえ……みえ」
「お前、目が潰れるぞ」
「それでもいい……それでもいいんだ……!」
「孫……お前……」
「息子よ……」
【草】
【この孫に怖いものはないのか】
【こんなにイケメン青年なのに】
【残念すぎる】
【※11年後の現在、世界同時中継です】
【草】
【あーあ】
【まぁさすがに知らないよねぇ……】
【ちょっとだけかわいそう】
【ちょっとか……?】
――たくさんの人たち。
千人、2千人……もっとたくさん。
校舎にも、子供を中心にたくさんの人が居る。
――これだけの人たちを、守れたんだね。
そう思うと、ちょっとだけ嬉しい。
だって、今回は僕ががんばったわけじゃないから。
それでも、嬉しいものは嬉しいんだ。
だって僕たち■■の存在理由は――――――――
「……?」
「ないない」
くいくいっ。
僕の意識が変なとこに行きかけたところをノーネームさんが戻してくれる。
「――もう、怖がらないで。戦える人は、みんなのために。戦えない人も、みんなのために」
あ、索敵スキルに引っかかってる。
ぬーん……うぇ、なんかすごい数の敵が空を飛んでいる。
「いっしょ」
ノーネームさんも分かっているのか、繋いだ手から感じる「あの魔法」の波動。
なら、
「――みなさんだけでは無理な敵は、僕たちでなんとかします」
お腹の奥底から――この体になってもろくに使えなかった魔法が、ちょっと大きくなってお胸がある女の子らしい体になってから使えるようになった魔法を、思い出して。
「だからみなさんは、できる範囲で良いので――決して無理はしないで。でも、がんばって」
僕たちは光る。
金と黒に。
「ああ……女神様……」
「これが、科学の世界に出現した神の力……」
――ちらりと周りを見ると、青空のあちらこちらが真っ黒な霧で覆われていて。
それを背負うように――まーたドラゴンさんたちが。
「絶望しないで。絶対、なんとかなりますから」
そうだ。
少なくとも3年くらい――あの日の僕は確か中学生くらいだったから、高校生の終わりごろには情勢は落ち着いてたはずなんだ。
「そのあとはきっと、ダンジョンとモンスターっていう侵略してきた存在を資源として活用することを思いつくくらい、人間さんたちはしたたかなんです」
羽がびりびりする。
索敵範囲に引っかかったドラゴンさんたち――魔王軍の精鋭たちが、僕たちに気がつく。
「だから、存分に活用しちゃってください。それくらいで、ちょうど良いんです。――――――――行きますよ」
「ん」
僕たちは、やつらに向かって――――――――
「ぐっ……!」
「ないないない」
ぎゅっ。
頭がくらくらして吐き気がしてきたけども、根性で踏ん張る。
そうだ、男の体だったときはお酒が好きだったけどもいくらでも呑めるわけじゃなくって、最初のころは飲みすぎて吐きそうになったりしてた。
けども僕は、それを根性で耐えていたんだ。
しょうもないプライドだけども、それが僕。
だから、
「――ホーリー」
「――えびる」
僕たちは――この世界の人たちに、希望の光を見せる。
ちょっとだけ。
けどもきっと、
「「――ジャッジメント」」
絶望に必要なのは、何よりも――光り輝く、希望だから。
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